第48話 スラム街開発②

 オーグルが整地してくれたおかげで、いつでも建物を建てられるようになった。


 すっかり日が暮れそうになったので、建物は明日にする。


 今日はスラちゃんたちに持ってきてもらった炊き出しを開いて、僕の使用人となってくれたスラム街の人たちにご飯を振る舞う。


 誰一人僕たちの動きを見ているだけではなく、率先して何かできないかを聞いて実戦してくれる。


 ニーア街でもそうだったけど、リア姉がよく炊き出しに行っていて、モニター越しで見ていてわかったのは、生きる気力がないからスラム街に住み着いたのではないということ。


 この世界って僕が思っているよりもずっと貧富の格差が酷く、働きたくても働けないこともざらにあり、中には才能を持っていても潰されてしまうケースも多くあった。


 ニーア街くらい広い街でもそうだったから、王都はもっと多い。


 面接でもわかったことなんだけど、ここに集まった人たちの中にも才能持ちがかなりいる。


 全体的に才能を覚醒できる人は少ないって聞いたから、逆に権力に屈しない才能持ちはこうやって潰されてしまうのが現状のようだ。


「セシル様! こちらの準備が終わりました!」


 すっかり子どもたちのリーダーとしてまとめてくれてるアベルくんだ。


「わかった~じゃあ、さっそく炊き出しを始めよう~」


「「「「は~い!」」」」


 お肉と野菜がたっぷり入った豚汁のようなスープと、スモールボア肉で作った大きなソーセージを焼いたセットを振る舞う。


「たくさんあるから仲良く順番にね~」


 スラム街に住んでいた人たちによくみられるのは、意外にも強い結束力。今までは土地主のおっさんたちに酷いことを強いられていたみたいだけど、今はみんな仲間だ。


 最初に列に並ぶのは若者たち。


 少し意外かなと思ったけど、それは全部僕の早とちりだった。


 彼らは食事を受け取ると、すぐに並ぶのが難しい老人たちや子どもたちに運び始めた。


 自分たちだってお腹が空いてるはずなのに、人としての優しさを忘れないところに、僕の心までも温かくなった。


「みんな優しいね。セシルくん」


 一緒に彼らを見ていたマイルちゃんも優しい笑みを浮かべた。


「うん。困ってるからこそお互いに支え合うってすごくいいと思う」


「うふふ。セシルくんがこれからしたいことにも繋がるね!」


「あはは、買い被りだよ。僕はただ自分がしたいようにするだけだから」


「うんうん。それでいいと思う! 私も頑張らなくちゃ!」


「マイルちゃんは十分頑張ってるからもう少し肩の力を抜いて楽しよう?」


「え」


「え」


 マイルちゃんがうちの村でどれだけ働いているかは見ていたし、モニター越しでもずっと見守っていただけだからね。


 あれ……? 僕だけ何もしてないんじゃ……? ただモニター越しの景色を楽しんでいただけ……?


「セシルくん~父ちゃんたちが帰ってきたみたい! 父ちゃん~!」


 いつもテキパキ働いているマイルちゃんだけど、おじさんの前では可愛い娘なんだね。


 おじさんを見つけたマイルちゃんが走っていき、足に抱き付いた。


 少し恥ずかしそうにマイルちゃんの頭を撫でるおじさんを、ニヤニヤしながら見守る。


「おかえりなさい~おじさん」


「ただいま。例の件は上手く行ったぞ」


「意外ですね? おじさんなのに」


「それは余計だっ!」


 おじさんの拳骨が降りてくる。


「あ痛っ!」


「それにしても……まさかこれだけの人数をうちの従業員にしろとは言わないよな?」


「まさか~うちの使用人になってもらいました」


「なるほど。その手があったか。でもいいのか? 使用人にするってかなりリスクがあるが」


「リスクなんて大したことないですよ。ほら」


 僕が指差したところには、食事を終えた老人たちの皿を片付ける若者たち。不安になりそうな子どもたちを集めて、昔話を聞かせる老人たちが目に付く。


 彼らには彼らなりのお互いを支える力がある。それをこれからも適材適所で存分に発揮してくれたらいいと思う。


「なるほどな。はあ……仕方ねぇな。うちもそれに応えねぇとな。また忙しくなる」


 そんな悪態をつくおじさんだったけど、顔には薄っすらと笑みを浮かべていた。


 炊き出しが終わるとすぐにスラちゃんたちが皿洗いをしてくれて、みんなも手伝ってくれてすぐに終わった。


 その日はおじさんがすでに取っておいた宿屋に泊ることにした。




 翌日。


 朝一でスラム街に向かうと、意外にも早くからみんな集まっていた。


「では今からスラム街を改良して、うちの敷地に整えるよ~!」


「「「「かしこまりました!」」」」


 昨日の夕方に伝えた通り、彼らの大切な物はすでに確保してもらったので、スラちゃんたちを総動員して、敷地内にある彼らが過ごしていた家を全て壊していく。と言っても、家というよりは簡易テントみたいなものだけどね。


 ごみごみとしていた場所が一気に開けて、整地した土地も綺麗になり、見違えるような土地が姿を現した。


 スラちゃんたちが近くの森から伐採してきた木を、ブルーとグリーンが協力して即席で木材にしていく。


 今度はそれらを使い、スラちゃんたちが器用に組み立てていく。


 まだお昼になる前にいくつかの建物が出来上がった。


 最初に作ったのは、使用人たちが住まう家で、整地で平たんな土地になったおかげで大きな建物も建てられるようになった。


 前世でよく見かけるアパート風の建物を作っていく。


 二階建てで、各部屋は1Kで、部屋は二十畳くらいのサイズにする。


 土地自体は非常に広いので一室をこれだけ取っても問題ない。


 さらにキッチンと、風呂場も作ってあげる。


 王都に川を引くわけにもいかず、毎回水浴びのために外に出るのは可哀想だからね。


 まぁ、水はどうするのかというと――――そこはスラちゃんたちの出番だが、それはまた後程。


 ちょっと無骨だけど、使用人たちの宿舎がどんどん建てられていく。


 使用人たちは、片隅に作られた即席スラちゃんによるシャワー室によって、シャワーを浴びてもらったりして体を清めてもらった。


 だって、あまりに放置すると臭いからね。


 昼も炊き出しをして、終わる頃――――とある一団がやってきた。

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