第47話 スラム街開発①

 スラム街は約二千人が生きていて、行き場を無くした人々の溜まり場になっている。


 うちの村は領地だけは広いけど、小さな村より広いくらい敷地がある。だって、人数だけならアデランス町の四分の一くらいだからね。


 土地を売ってくれたおっさんは、王都の東区でチンピラたちをまとめていたグループで、彼らだけでも二百人はここで暮らしていた。


 もちろん、全員ここから追い出してやった。


 だって……彼らがいたら子どもたちの気が休まらないからね。


 金貨百枚もあれば、王都で店を構えることもできるはずだし、問題ないと思う。


「はいはい~みんな~集まって~!」


 元気よく声を上げるソフィ。子爵子女としての雰囲気も出ていて、非常に大きな存在感がある。


 おっさん達が率いる集団が出ていくのを見ていたスラム街に住み着いた人たちが集まってくる。


 広場に千人もの人数が集まると中々壮観だ。


「本日、こちらの土地はブリュンヒルド家のものとなったわ~! これから、こちらの土地はブリュンヒルド家によって開発を進めるわよ~!」


「あ、あのっ!」


 一人のお爺さんが手を挙げて、一歩前に出た。


「どうぞ」


「わ、我々はどうなるのでしょう……ここから出ていけと言われると……後は魔物に喰われる未来しかありません……!」


 これが王都の問題の一つだ。職を失ったり、詐欺に遭ったり、いろんな事情で働けなくなった人たちの行き場がなくなる。王都の平民が住まうのは東区、西区、南区に分かれているけど、東区のスラム街にそういう人たちが集まっているのだ。


 もし彼らがここから追い出したら王都から追い出され、隣街にも入れてもらえずに森で生きるしかなくなる。森には魔物がいるのでとても危険だ。


「開発はもう決まったことだわ! なのでみんなには悪いけど出て行ってもらうわよ!」


「そ、そんな! あんまりだ!」


「「「「そうだそうだ!」」」」


 彼らも行き場を失うわけにはいかず、みんなが一致団結して声を上げる。


「あら。みんな元気がいいじゃない。そんな元気があるなら――――働きなさい!」


 ソフィの正論にみんな苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


 四歳児に働きなさいと言われる気持ち……あまり考えたくないな。


「うちの村のみんなは子どもでもみんな頑張って働いているもの! 貴方たちも生きるために頑張って働きなさい!」


「わ、我々も働きたい……でも……そう働く場所がありません! ビーム商会の息がかかってお店はどこも我々のような落ちこぼれは使ってくれません……もう我々に希望はないんです!」


 ソフィは腕を組み、困った表情を浮かべる。


「う~ん。スラちゃんたちにお願いして強制退去させちゃってもいいんだけど……」


 ソフィの言葉に合わせて空にスラちゃんたちが飛び上がる。


 数百匹の空飛ぶスラちゃんたちに、みんな絶望的な表情を浮かべる。


「う~ん。でも~」


 少し困ったように、わざとらしく声を上げるソフィ。


「これから~ここで商会を開くんだけど~働き手が足りないのよね~どこか働き手がいないかしら~」


 でも、誰一人手を挙げる人がいない。


「うちの商会で働きたい人~手を挙げてね~!」


 可愛らしく右手を挙げるソフィ。


 みんなもどうしていいかわからないような困った表情を浮かべるが、一人、また一人、小さく手を挙げ始めた。


「わ、わしのような老人に……仕事がございますでしょうか?」


「うん? もちろんあるわよ。力仕事は基本的にスラちゃんたちがやるから、年齢とか関係ないし。やる気さえあれば誰でもできるわよ」


 それを聞いたみんなどんどん手を挙げて「俺も!」と声を上げた。そんな彼らの瞳には希望が灯り始める。


「ふふっ。意外とやる気あるじゃないっ! じゃあ、これから雇用の面接を行うわ! 一人ずつあちらに並んでちょうだい~!」


 いつの間にかリア姉が作った即席天幕に、いくつか椅子が並んで、その前に並べるように線が引かれている。


 椅子には、僕、リア姉、ソフィ、マイルちゃんの四人が座り、面接を始めた。約二千人もいるから中々時間がかかるそうだけど、面接って言ってもそう凝ったものではないんだよね。


「じゃあ、これから名前と年齢、性別、家族構成、才能がある人は申告して~あと、人が多いから簡潔に言ってね~」


 それから面接が始まる、みんな言われた通りのことを簡潔に話してくれる。


 僕たちはそれを紙に一人一人書いていく。


 彼らはこれから僕を雇うことになる。商会や貴族っていろいろややこしいけど、今のアネモネ商会はあくまでマイルちゃんのおじさんのお店だ。僕のお店ではない。


 スラム街はこれから僕の土地となり、ここをアネモネ商会に貸すという形で商会を開く予定だ。


 さらに使用人を貸すことで、アネモネ商会の商売を手伝ってあげることができる。その使用人というのが、ここにいる千八百人の彼らだ。


 何故僕の使用人にするかというと、これは商会より貴族の方が税金対策が簡単だからだ。商会は使用人が増えれば増える程に税金がかかるのに対して、子爵位の父さんの息子なら、なんと使用人の税金が全て免除される。


 千人もの使用人を抱えるのは商会よりは貴族がいいってとこだね。


 それから簡潔な面接を続けて、ほぼ半日もくらいかかってしまったけど、その間にオーグルによってスラム街の土を全て耕してもらい、綺麗な平にしてもらった。


 これなら建物も自由に建てられるし、これから商会を開くのに十分だね!


 丁度そのタイミングで、ナンバーズと七つのスライムたちと一緒に王都の外の森に出ていた子どもたちも帰ってきた。


 その背中に背負っている籠の中の、大量の薬草を持って。

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