第46話 スラム街の土地を買い取る

――――【まえがき】――――

また連載を始めていきますのでよろしくお願いします。

そこで一つ大事な謝罪がございます。当作品の連載が止まる一番のきっかけとなったのは、意外なことに書籍化作業という部分よりも、じつはスイレンちゃんの口調にありました。

スイレンちゃんは最初こそ「のじゃロリ」をイメージしていたキャラなんですが……本当に申し訳ないことに、作者である御峰の中の「のじゃロリ」の解像度があまりにも低く、「のじゃ口調がわかんねぇえええええ!」と頭を抱えてしまいました。

それからいろいろ調べて書き直せたらと思っていたら……書籍化作業がどんどん進み、まさかいくつも重なってしまったこともあって、作者の「のじゃ口調開発」は……大失敗に終わりました……。

これからスイレンちゃんは普通に可愛らしい女の子の喋り方になります。たぶんマイルちゃんとめちゃ被ってしまいそうですが、多めに見て頂けたら嬉しいです。

(過去の話については少しずつ直していきます。現在でも「のじゃ」と「普通」と混ざっております)

――――――――――――――




「こちらがスラム街の地権になります!」


 全身を震わせるおっさんは引き攣った笑顔で、高級羊皮紙を持ってきた。


 紙からは得体の知れない不思議な魔力を感じる。紙だけじゃなくて文字からも感じられる。


「ふっふっ。偉いわ」


「ははっ!」


「それで、いくらで譲ってくれるのかしら?」


「そ、それは…………いくらスラム街といっても、王都の土地ですんで……へへっ」


「もちろんよ。ちゃんと対価は払って買い取るからその心配はしなくていいわ。でも――――わかるわよね?」


「も、もちろん適性価格にさせていただきます!」


 おっさんはちらちらと僕たちの顔を伺ってはおそるおそる額を口にした。


「き、金貨を……百枚ほどでいかがでしょうか……」


 金貨百枚か~やっぱり土地って高いんだね。いくらスラム街とはいえ、王都内の土地であり、貴族街と隣接しているからだろう。隣接していると言っても、高い塀があってとても越えられるものではないけど、向こうからこちらを見下ろすことはできる。それは場合によって大きな武器になると思う。


「高いわね」


「も、元々は三百枚もします! 本当でございます! 嘘はいっさいついておりません!!」


 必死に訴えるおっさんが少し可哀想に見えてきた。


 金貨といえば、一枚で前世の金銭感覚で換算すると、一枚で百万円。百枚で一億円。三百枚で三億円。


  僕は不動産を学んだことはないけれど、首都で、東に抜けてすぐに入口に出られ、西に向かえばすぐに広場がある立地で、スラム街になっていたとしてもそれ以上の価値がありそうだなと思える。


 おっさんが話す三百枚は嘘ではないようだ。


「金貨三百枚を、百枚まで負けてくれるなんてどうしてかしら?」


「それは……皆様も見ての通り、ここはスラム街です。ここに住み着いた者を追い出すのも一苦労ですし、建物もまともに建てられないくらい土地が柔らかく、開発にも多額のお金が必要な土地です。それらに金貨百枚くらいの価値はありまして……もう百枚は……その……私達が行った愚かな行為の謝礼金だと思って頂ければ……」


「わかったわ。その額で買うわ」


「えっ……?」


「グリーン。金貨を百枚持ってきてちょうだい」


『かしこまりましたわ~!』


 すぐにグリーンが飛んでいき、体の中から金貨を百枚吐き出した。


「さあ、本物の金貨で間違いないわよ。これでいいわね?」


「は、はい……」


 ポカーンとするおっさんとすぐに契約を交わす。後から値段を吊り上げられても困るからね。


 リア姉は素早く羊皮紙に名前を記入して、取引額をしっかり確認してもらい、サインしてもらった。


 購入者のところが空欄になったまま、リア姉は羊皮紙を僕に持ってくる。


「さあ、セシル。ここにサインして」


「あれ? リア姉がサインしていいよ?」


「ダメ。絶対ダメ」


 両手をクロスさせて、口を尖らせて話すリア姉がすごく可愛い。


「だって、あのお金は全てセシルの物よ。私の物じゃないし、私にここの土地はいらないわ」


 いらないんだ……。


 ぐいぐい押されて、元々買い取るつもりだったし、持ち主なんて僕でもリア姉でもソフィでも誰でもいいわけだから、サインをした。


 すると、おっさんの右手の甲から青い光が抜けて、僕の右手の甲に入ってきた。


「これが契約羊皮紙による正式な契約ね。これでスラム街に当たる土地全てがセシルの物になったわよ~」


「噂では聞いていたけど、こうなるんだね。いい経験になったよ。ありがとう、リア姉」


「えへへ~頭撫でて~」


 珍しくわがままをいうリア姉の頭を優しく撫でてあげた。


 契約も終わったので、おっさん率いる悪い大人達にはこの地から出ていってもらった。


 あのまま兵士さんに引き渡してもよかったかもしれないけど、物証がないことと、実行犯が子供たちであること。それによって子供たちまで罰を受けなければならないことを考えると、不問にした方がいい。


 それに――――少なくとも王都で活動していれば、またぶつかることだってあるだろうし、そのときはちゃんと物証を見つけて制裁してあげればいいと思う。


 今は少しでも早くスラム街の子供たちの安寧を目指して行こうと思う。


 一部始終を見ていたマイルちゃんが土地の契約羊皮紙を大事そうに抱えていた。


「セシルくんのあの魔法、不思議だね」


「魔法? あ~金貨出したあれ?」


「うん!」


「お金を管理するために専属のスラちゃんもいるからね。これからはあの方法でお金を送ったりできるから、現金が簡単に移動できていいよね」


「セシルくんにしかできないことだよ~だって、お金を瞬時に遠くまで送ったりできる魔法なんて聞いたことないもの」


「あはは。スライム魔法だからね。知らないのも仕方ないよ」


 そう。


 あの金貨を吐き出せたのは、スライムからスライムに金貨を転送させて・・・・・いる。


 スライム魔法のうちの一つの転送魔法は、見た目以上に大量の魔力が必要なのはもちろんのこと、送れる物も軽くて小さい物に限る。その対象として一番分かりやすいのが貨幣だ。


 貨幣くらいの重さをサイズの物なら何でも送れる便利な魔法だけど、制限もあって、お金を転送するのが最もいい使い方だね。


 土地も手に入れたので、子供たちが戻るまで土地の片付けを進めることにした。

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