第45話 こっちが……悪っぽい?
グリーンの居場所を魔力支配の繋がりで感じ取り向かう。
スラム街は子どもたちが住んでいるゾーンがうちの村くらいの大きさで、それくらいの人数が住んでいたのだが、大人がいなかったことに違和感を覚えていた。
その理由は、子どもたちのゾーンの外に大人たちが住んでおり、子どもたちよりも多くの人がいた。
それだけあってスラム街は結構広い。アデランス町くらいの大きさがある。
スラム街を抜けて、少し開けた道を進むと一般区が現れ、王都民が住んでいる住宅区や商業で盛り上がっている商業区がある。
王都の詳細を簡潔に言うと、東西南にそれぞれ門があり、そこから入ると一般区が広がっていて、王都を北に進むと貴族区と城が存在する。
スラム街は貴族区と東一般区の間に存在する。と言っても貴族区には高い塀があるので侵入することは不可能だ。
グリーンが潜んだ場所は東一般区の一角にある商業区の中にある少し年季の入った建物の中だった。
「グリ~ン」
『あら、ご主人様。いらっしゃいだわ』
「お待たせ。雰囲気はどう?」
『うふふ。ご主人様の物語でいうなら~悪の巣窟だわ~』
ニヤニヤして話すグリーン。彼がそう話すほどだし、あの男の対応を見れば良い人でないのは一目瞭然だ。
「そんじゃ、牙を取り返しに行こうか~」
「主~妾にも出番をくださいまし」
「スイレン? 珍しいね」
最近僕の背中にくっついてあまり動かないスイレン。湖の下にいた頃からもそうだったけど、不思議な力を使う子狐は、白い狐の形をしたリュックみたいになっている。
「妾も役に立つ従魔だって見せておかないと、いけないですからね~主に捨てられないように!」
「捨てないよ?」
「うふふ。主はいつも優しいですわね。でもそれに甘えるのはいけませんわ。妾も頑張っていただきますわ」
「わかった。グリーンと一緒にね」
「うふふ。よろしくお願いします。グリーン先輩」
『よろしくだわ~でも、私は可愛い女の子はあまり好きではないんだわ~』
「知っておりますわ。うふふ」
『うふふ』
二人って…………多分従魔の間で一番仲悪いよね。
グリーンは……その…………異世界では珍しい性別と心の性別が違うタイプの子で、とにかく女性を嫌う。同期の中だと、レッドとか嫌ってるけど、同じスライ戦隊というのもあって、大きく対立はしないけど、中でもスイレンちゃんとは犬猿の仲だ。
でもさ……グリーン…………きみ、スライムだから性別って存在しない……よね? これ以上ツッコんだらダメな気がするので、二人に任せることにしよう。
『おらおら! ご主人様のスライグリーンだぞ! 全員ぶっ飛ばしてやるからなあああ!』
「はあ……相変わらず戦いになると口が悪いわよ」
『ほっとけぇええええ!』
スイレンちゃんとグリーンが建物の中に突撃する。こっそりその後ろをソフィもついていく。
ちょっとだけ心配だけど、ソフィには七つのスライムの一匹が背中にくっついて守っているので大丈夫だと思う。
すぐに建物の中から怒声が響き渡る。
「二人とも大丈夫かな?」
「大丈夫よ~スイレンちゃんもグリーンちゃんも強いんだもの。それより、セシル? ここの連中はどうするの?」
「う~ん。牙を取り返すのはいいけど、スラム街が気になるからね。土地の利権ごと買い取りたいかな?」
「うふふ。セシルったら、どこまでも優しいんだから~」
そう話すリア姉は僕の左腕を抱きしめた。
「リア姉のおかげで彼らにお仕事を預けることもできたからね~僕一人じゃ無理だったよ」
「うふふ。そうね。王都でもセシル教を布教しないとね」
「えっ……? セシル教?」
リア姉が「しまった!」みたいな表情を浮かべる。
「ま、間違ったわ。セシル水のことよ。ほら、一文字違いでしょう?」
いやいや……「きょう」と「みず」って全然違うでしょう!? セシル教って何!?
「あ~! ソフィも入ったし、私たちも入りましょう~!」
言い逃れるかのようにリア姉は僕の腕を引っ張り、建物の中に入った。
建物の中は、少しだけ古い建物の匂いがして、それ以外にも少しだけむさくるしい男たちの匂いがする。学生時代にやっていたサッカー部の部室のような。
「片付いた~!」
奥から可愛らしいソフィの声が聞こえて、怒声が一気に静かになった。
開いた扉から中を除くと、黒い影でできた触手のようなものが壁から伸びて体の大きな大人たちを捕まえていた。
「ソフィ~どこかケガはしてない?」
「大丈夫だよ~スイレンちゃんが全部片付けちゃった!」
「うふふ。妾の出番でしたから~ソフィ様のお手を煩わせることもありませんの」
『ご主人様~牙は奪還したわ~』
グリーンが盗まれた牙を持って嬉しそうにやってきた。
「みんな、ありがとう。牙の奪還お疲れさま~」
「お兄ちゃん。奥に悪そうなおっさんがいたよ~?」
「きっとここのリーダーなのかな? 地権も気になるから、会ってみよう」
部屋の奥に入ると、案の定影にぐるぐるにされて椅子に縛られたスキンヘッドのいかついおじさんがいた。
「こんにちは~貴方は私たちの牙を盗みました――――万死に値します!」
ええええ!? そ、そこまでではないと思うんだけど!? ソフィ!
「これから質問に首を縦か横に振りなさい。いいわね?」
男は全身から脂汗を流しながら首を縦に振った。
「スラム街の子どもたちを使って盗みを働かせたのは貴方たちだよね?」
当然のように横に振る。
「ふう~ん。嘘を吐くんだ?」
ニヤリと笑ったソフィがスイレンに合図を送る。
「お任せあれ~」
スイレンの綺麗な白い毛並みから禍々しいイカの足のような影の触手が伸びる。
「っっ! っっっ! っ!」
目に大きな涙を浮かべたおじさんの顔を触手が覆う。
な、なんだろう。弱い者イジメしているようで、相手が悪者のはずなのに…………ソフィとスイレンちゃんの悪魔しい姿に苦笑いが込み上がってくる。
影の触手は顔を覆って数秒で解かれた。
「さあ、もう一度聞くよ。本当? 嘘?」
おじさんは――――ボロボロに泣きながら頭を縦に振った。
「スイレンちゃん。それって何をしたの?」
「主。これは、悪夢を見せるの。ただし、本人の罪悪感を悪夢として実現させているから、罪悪感がまったくない人には効かないわね。まあ、罪悪感を覚えていない人なんて、私は世の中にたった二人しか知らないから、殆どの人族なら効くわよ。一応言っておくと、無理矢理言わせてるわけではないのよ~?」
「そうなの? 僕には無理矢理に見えるんだけど……」
「ふふっ。ちょっとだけ突っついただけなの。あの人族は盗めとは言わないものの、盗むように誘導していたのは自覚していたみたい。影の触手で触れたとき、記憶を覗けたわ」
「スイレンちゃんの触手って記憶まで覗けるんだ!?」
「単片的なもので、その人の強烈なものだけだから、今回みたいに誘導尋問した一場面しか見れないわよ。あまり便利ではないのよ」
「僕には十分便利だと思うんだけどね」
「ふふっ。主、リア様の方がもっとえぐいわよ?」
「うふふ。ス・イ・レ・ン・ちゃん? 私が何だって?」
「な、何でもないの!」
これだけ恐ろしい力を持つスイレンちゃんでもリア姉には敵わないらしい。
また僕の背中にリュックみたいにくっつくスイレンちゃんが可愛い。
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