第44話 スラム街……あくどい大人と子どもたち
「ぎゃははは! よくやった!」
男の子から僕が持ってきた大蛇の牙を奪い取った男は、汚い笑い声を上げた。
「こんな高い物をよく盗んできたな? アベル」
「スライムが持ってたから……」
「くっくっくっ。よくやった。今月の家賃はこれでよかろう」
「ありがとうございます……」
「おう! これからも家賃のためにじゃんじゃん盗んでこいよ~」
雑に手を振った男は、ボロボロの家の前から去っていく。
スライ戦隊のグリーンが護衛スラちゃんを何匹かを連れ、男の後ろを追いかけた。
「さて、セシルの素材を盗んだ大罪人を裁きにいきましょう」
「リア姉……あんまり怒ったダメだよ?」
「うふふ。セシル?」
「うん?」
リア姉は何も答えることなく、笑顔を咲かせた。
そして、スラちゃんたちを連れて子どもたちのところに降りるリア姉とソフィ。
ここはいわゆるスラム街。前世ではここまで酷いスラム街は見たことがない。いや、見たこと自体はある。画面越しなら。だからどこか別世界の出来事だと思っていたし、こうして現実を目の当たりにすることなんて初めてだ。
肩を落としている子どもたちの前に、光り輝くリア姉が降臨する。
「貴方たち」
「「「「「!?」」」」」
「私はずっと見守っていました。貴方の罪を懺悔なさい」
「て、天使さま!?」
「貴方たちにセシル様の天啓を授けます」
「「「セシルさま?」」」
「セシル様は女神様よりも大事な存在です。セシル様は常に仰っております。隣人を愛しなさい――――と。さあ。繰り返しなさい」
「「「「隣人を愛しなさい」」」」
「困った人に手を差し伸べなさい」
「「「「困った人に手を差し伸べなさい」」」」
「そして――――子どもを大切にしなさい」
「「「「子どもを大切にしなさい?」」」」
何故か最後はみんな疑問符で首をかしげる。みんな一斉に傾げる様はとても可愛らしいね。
「それでは、貴方」
リア姉が指差すのは、僕から牙を盗んだ男の子だ。
「懺悔なさい」
「…………」
男の子は震える両手を握りしめて、リア姉を睨み続ける。
「…………」
「…………」
「貴方がやったことは空から見ております」
「…………」
男の子は目から大きな涙を流す。
「懺悔なさい。そうすればセシル様は見守ってくださいます」
「お、俺たちは…………行き場がなくて、ここに住んでいるんですが…………住む場所のみかじめ料を取られて…………仕方なく……」
「仕方ないとはいえ、貴方は誰かの大事なモノを盗みましたね?」
「あの連中はお金持ちだから……」
「それは見た目でしか判断できなかったことでしょう。貴方が誰かのモノを盗んだのは罪です」
「天使さま! わ、私たちも同罪です!」
「そうです! アベルだけが悪いんじゃないです! 私たちも加担しました!」
アベルくんを他の子どもたちが囲う。それだけ彼らの絆を感じる。
「貴方たちの罪を認めますか?」
「「「「はい! 私たちが悪かったです!」」」」
「生き残るためにやったことでしょう。だからこそ、盗みを反省して誰かを陥れるのではなく、自分たちの力で生き抜くのです。そうすれば、セシル様もきっと手を差し伸べてくださいます。さあ、みなさん。懺悔なさい」
それから各々が今までやった盗みを口にする。
懺悔だからというのもあるだろうけど、やっぱりみんな人のモノを盗むのをよくないと思ってたみたい。
しばらく子どもたちが生き残るために頑張ってきたことを屋根上から聞いて、モヤモヤした気持ちになった。
僕はうちの両親のところから生まれたから、生きるのに不自由はしなかった。毎日温かいごはんが食べられて、周りは魔物で危険だけどお父さんに守ってもらっていたし、魔力暴走だってお母さんのおかげで解決できた。
彼らのように生まれる場所によって辛い環境だったのは言うまでもない。
「よいでしょう。みなさんの懺悔はセシル様に届きました。きっとみなさんにも――――幸福が訪れるでしょう」
「ほ、本当ですか!? 私たちは許されるのですか!?」
「これから心をあらためてセシル様の教えを実践することで許され、貴方たちも幸せになれるでしょう」
「はい……! 私たち、セシルさまを信じます!」
「「「「信じます!」」」」
建物の中から出てきた子どもたちもみんな声を上げ始めた。
僕たちに来た子どもたちだけでなく、病気だったり、赤ちゃんを世話してる子どもたちも多くいるみたい。元々二百人くらいいた子どもたちは、人数を増やして全員で三百人はいる。うちの村の子どもたちよりも数が多い。
「ここにいる全ての羊たちにセシル様の祝福を!」
リア姉が両手を上げると、僕の魔力がごっそり持っていかれる。と言っても十分の一程度なんだけど、最近これだけたくさん使ったのは川を引いたときくらいなものだ。
スラム街の子どもたちをキラキラした虹色の光が包み込む。
天国のような神秘的な光景が広がり、子どもたちに笑顔が広がった。
やっぱり……どの時代どの世界でも子どもの笑顔というのはいいね!
ソフィの手に引かれて僕も屋根上から下に降りた。
僕に気付いて誰よりも先にやってきたのはアベルくんだ。
「申し訳ございませんでした……! 貴方の大事なモノを盗んでしまって…………代金は何とか働いて返しますから許してください!」
「ううん。それは大丈夫。代わりに僕の頼みを一つ聞いてほしいな」
「もちろんです! 何でもおっしゃってください!」
「では――――これからこちらのスラちゃんたちと」
僕は
王都に着く間、リア姉が竜騎士さんから聞いた王都周辺の事情から、とある商売を思いついたのだ。
それを彼らに与えることで、彼らの食糧事情も解決できるかもしれないから。
彼らが向かっている間に、今度はグリーンが追いかけた悪い大人たちを片付けないとね。
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