第43話 王都……騎士と乞食と盗人
イグライアンス王国は、大陸の南方に位置する王国だ。国王が圧倒的な権力を握っている国
王国では珍しく王都が中央に位置しており、東西南北に分かれているが、東と西、中央の三か所が繁栄している。南は敵がいないが強力な魔物が住んでいたり、隣国が存在しないのもあって一番田舎に位置する。北は隣国に接しているので、戦いが絶えない地域となっている。
王国三大都市の一つ、王都『ライアット』。中央に巨大な城があり、前方に王都街が広がっている。高くそびえる城壁は、田舎からすると名物みたいなものにもなってるみたい。
アデランス町は約8千人。南部大都会のニーア街は約5万人。王都や東西大都市はその十倍に至る50万人を誇る。
王都に住んでいる人は、一生住んでいても会うことのない人がたくさんいるみたい。
うちの村は500人くらいなんでみんな顔見知りなんだけどね。あ、でも最近明らかに妊婦さんが増えてるから村の人口も右肩上がりになると思われるよ。
「リア令嬢。あそこが王都ライアットでございます」
リア姉は騎士さんたちに大人気で、飛んでる間も飛竜の隣を飛びながら騎士さんたちとたくさん会話を交わしていた。
毎回ちらっと僕を見ていたのが少し気になる。
「わあ~うちの村はまだまだ小さいので、こんな大きな都市は初めてですわ」
「王国内でも有数の大都市ですから、離れると危ないので我々にしっかり付いて来てください!」
「はい。とても頼りにしております」
「ははっ!」
嬉しそうに笑う騎士さんたち。とても頼りになるね!
王都は非常に広大で、飛竜のように飛べれば楽だけど、歩くとなると端から端まで歩くだけで一日が暮れそうだ。
王都の上空を通るのではなく、城壁に沿うようにぐるっと回って進んでいく。
城壁の上では目を丸くしてこちらを見つめる多くの兵士さんたちが見えたり、飛竜たちが休んでる場所もあり、そちらの騎士さんたちも目を丸くしてこちらを見ていた。
城壁をだいぶ進んだところで上に乗ると、目の前に巨大な城がどどーんと見え始める。
そんな僕たちの前に鋭い目をしたがっつりとした体格の中年男性がやってきた。
「そちらが例の変な物体を操る怪しい連中か?」
「隊長! こちらはアネモネ商会の方々です。報告にあったような怪しい連中ではございません! さらに南部に住まうブリュンヒルド子爵家のご子息の方々でございます」
「ブリュンヒルド……」
隊長と呼ばれたおじさんは、僕やリア姉、ソフィをじっと見つめる。
「ルーク殿とミラ殿の子どもか」
「あれ? うちのお父さんとお母さんを知っているんですか?」
「ああ。旧知の仲だ。あの二人の面影があるな。令嬢たちはミラ殿に、君はルーク殿にとても似ている。そうか。今は南部に住んでいたのだな」
ほえ……うちのお父さんお母さんって、もしかして有名人だったりする……?
「俺は竜騎士の第二師団の団長をしているアグウスという。以後お見知りおきをな」
「僕はセシルです。よろしくお願いします」
それからおじさんやリア姉、ソフィ、マイルちゃんの紹介を済ませ、スラちゃんたちや王都には商売のためにやってきたと説明をした。
「にわかに信じがたいな……スライムがここまで…………だが実物を目の当たりにしたら信じるしかあるまい。わかった。アネモネ商会のことは俺から報告しておこう」
「ありがとうございます。アグウスさん」
騎士団長アグウスさんと握手を交わして、僕たちは王城が見える兵士駐屯地から街の方に向かった。
王城近くは貴族街らしく、道路も広々としており、馬車がひっきりなしに走っている。前世の車を彷彿させるもので、大通りは片側四車線くらいありそうなほど広い。
その道を大きくなったスライムに跨って進んでいく。
当然――――いろんな人がこちらを見つめる。
王都は広すぎて歩くと日が暮れてしまうから、市場近くまではこうしていかないとね。
市場に近付こうとしたとき、多くの――――子どもたちが僕たちを囲った。
「やめときな。このスライムたちは強いぞ」
静かに声を上げるおじさんに子どもたちは一瞬怯む。
子どもたちの身なりをみると、とてもじゃないけど、普通の子どもではない。ボロボロの服からみて、乞食の類だと思われる。
というのも、王都に着く前におじさんからもそういう話を聞いていたし、リア姉が竜騎士さんたちから乞食に気を付けるようにと言われている。
それにしても……多すぎない? ざっと二百人はいそうだ。中には鋭い目をした子どももいて、強そうに見える。
「あ、あの……何か恵んでいただけませんか?」
「大人たちからそう言われたのか?」
「い、いえ! 私たちは向こうに住んでる孤児なんです! どうか何か恵んでください!」
これだけ多くの子どもたちに言い寄られると、中々の迫力だ。
できるなら何か手を差し伸べてあげたいけど…………それは絶対にやらないように言われている。何故なら、一度手を差し伸べるとずっとたかられるからだそうだ。
そのとき、子どもたちがどんどん押し寄せてくる。
『ご主人様~これあげるの?』
僕は言葉を発することなく、大きく頷いた。
押し寄せた子どもたちの中から、一番強そうな男の子がスラちゃんの中に入っている高そうな素材に手を伸ばす。
食べ物ではない。本当に食糧に困っているならまっさきに干し肉に手を伸ばすはずなのに、彼はうちの森から取れた大蛇の牙を手に取った。
もちろん、スラちゃんが本気になれば無理だけど、わざと持っていけるようにしてあげた。
男の子が牙を盗み去っていくと子どもたちもそれに勘づいたのか諦めたふりをして去っていった。
「スイレン。大丈夫そう?」
「もちろんですわ。これくらい妾に造作もないことですじゃ」
そう話したスイレンのつぶらな黒い瞳が黄金色に変わる。
「あっちですわね」
子狐の小さな右前足を伸ばして指差す。
僕、リア姉、ソフィ、マイル、スイレンは、スライ戦隊と何匹かの護衛スラちゃんを連れてスイレンが指差した場所に向かい、おじさんとナンバーズ、七つのスライムたちは商品を持ってとある商会に向かった。
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