第18話 悪徳商会と……喋る〇〇〇〇!?
アデランス町。
人口約8千人が暮らすその場所は、イグライアンス王国の南部に位置し、穏やかな気候や魔素の安定感からほのぼのとした田舎町らしい町である。
だが、田舎町ならではの特殊なルールが存在する。それは王国法ではなく――――
町の中心部に他の建物とは比べ物にならないほどに広い建物が一つ。入口の上には大きな看板が掛けられており『クザラ商会』と書かれていた。
神妙な表情で商会に入る金髪の若い男性。若干30歳という若さながら六人もの子どもを持ち、村民500人を束ねる
「いらっしゃい」
男が中に入ると、不愛想な声が聞こえてくる。
「どうも」
「これはこれは……
ふてぶてしい太った男は、まるで
辺境領主は彼の感情を受けてもなお、表情一つ変えずに前に立つ。
「いつものスモールボア肉と、調味料を交換していただきたいんですが……」
「ええ。構いませんとも。どれくらいの量でしょう~?」
「いつもより多く、今回は二百頭分です」
(二百……? いつもより四倍も多いな……? ふむ…………)
店主はすぐに頭を働かせ、卑しい笑みを浮かべた。
「最近塩の値段が上がってしまいましてね~いつもの量が銀貨一枚から三枚に上がってしまったんですよ」
「なっ!? …………っ」
「我々クザラ商会としても領主様の力になりたいんですが、
にやけた表情で
「そういや、領主様も大変ですものね! あんな――――
「…………」
死の道とは、アデランス町よりもはるかに南に存在する村まで続いている道である。
オークが生息しており、魔素から生まれる魔物は狩り尽くすことができないため、常にオークが現れ続ける。それによって被害が多く、村に行きたがる王国民は誰一人いず、いつの間にか『死の道』とも呼ばれるようになった。
「それで~どうなさいます~? 交換なさいますか~?」
卑猥な笑みで問いかける店主に、辺境領主は拳をぐっと握りしめて、返答を――――しようとしたそのときだった。
「え~高いよ~」
「「「へ?」」」
辺境領主、衛兵、店主、店員、その場にいた全ての人が間抜けな声を出した。
それもそうである。まるで、無力極まりないその声。しかも――――普通の声とはまるで違う音質だったからだ。
辺境領主の視線が後ろの地面に向く。
そこには一匹のスライムが笑顔で辺境領主を見上げていた。
「え……? せ、セシ……ル?」
「そうだよ~」
「ええええ!?」
「お父さん~そのレートは高すぎだよ~塩はもっと安いよ?」
「スライムが喋ったあああ!?」
「こんにちは~僕は悪いスライムじゃないですよ~」
誰よりも驚く店主に笑顔を向けるスライムだが、店主はカウンター内にしまっていた剣を取り出して、震える手でスライムに向けた。
「く、くるなっ! なぜこんなところにスライムがいるんだ!」
「店主さん。申し訳ない。うちの村の従魔なので人を襲ったり悪さをしたりはしませんので」
店主が辺境領主とスライムを交互に見つめる。
「ほら~僕、悪いスライムじゃないですよ~」
「セシルッ! あ、あとで詳しく聞くから……」
「お父さん? そんなことよりも――――」
「そんなこと……」
「塩がその量で銀貨一枚なのすら高いのに三枚とかありえないよ~」
その声に店主の顔が真っ赤に染まって怒りだす。
「ふ、ふざけるな! うちはこんな田舎に塩を運んでくるだけでも大きな損失があるんだぞ! 一袋銀貨一枚だけでも十分安いのだ! い、今は仕方なく三枚になっただけだ!」
「え~でも他の商会は同じ量で銅貨十枚ですよ~? 同じ物、同じ量で三十倍も高いなんて~僕には理解できないですぅ~」
「っ! な、なんだと! それなら買取はなしだ! いらないなら出ていけ!」
「は~い。お父さん、違う商会に行こうよ~」
「ま、待てセシル!」
辺境領主がスライムを連れてみんなと距離を取った。
「よく聞けセシル。塩が高いのは知っている。だがこの辺境地まで調味料を大量に運んでこられるのはクザラ商会しかいない。彼らとことを構えると、こちらの商品を売ることも、調味料を手に入れることも難しいんだ」
実際、その言葉は事実であり、アデランス町だけでなく、王国南部はクザラ商会が支配しており、彼らに反抗するということは、商品を手に入れる機会を失うことになる。
アデランス町にクザラ商会以外の商会があることも知っている辺境領主だが、そこだけでは村を賄えるほどの商品を手に入れることはできないからこそ、クザラ商会にずっと従っていたのだ。
「え~でも~三十倍はおかしいと思うな~」
「セシル……頼むから……」
「お父さん? 僕は――――」
スライムから聞こえた自分の息子の言葉。その言葉に辺境領主は目を大きくした。
辺境領主はかつてないほどにどうすればいいか悩み始める。
だが、それもすぐに終わることとなる。
スライムから四男だけでなく、全ての子どもたち、そして、最愛の妻の声が届いた。
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