第4話 才能がなくても……あれれ?なくてもいい?
「お母さん! すっごく美味しいよ!」
「セシルちゃん……」
「いや~僕の開花を祝って美味しいご飯を作ってくれて本当にありがとう~!」
そう話してもお母さんの目から大粒の涙が流れた。
「ごめんなさい……私なんかがセシルちゃんの開花をしてしまったせいで……」
いやいやいやいや! そんなことないから!
開花式。人生を決めると言っても過言ではない異世界でもっとも大切な式だ。
この世界には【レベル】という概念がある。魔素から生まれる魔物を倒すことでレベルが上がり、才能によってステータスが上昇したり、スキルを得たりする。
僕の才能は【無】。なにもない。才能がないんだからレベルもない。だからレベルも【0】だ。
そしてもう一つ大きいのは――――レベルがないと、スキルを獲得できないこと。
レベルはなくてもせめてスキルがあれば、あれやこれやできたはずなのに、レベル0ということでまさかスキルも獲得できなくなってしまった。
思わず「レベル0」と声を上げてしまって、お母さんにも家族にも村民にも伝わってしまったのだ。
お母さんは開花した人としての責任を感じてしまって、絶大なダメージを受けて落ち込んでしまい、ずっと涙を流している。
「お母さんのせいじゃないよ? それにレベルが上がらなくても……………………何とかなるよ! うん!」
いや、レベルが全ての世界で、レベルがないことがどれくらい大変なのか容易に想像できる。
しか~し!
僕にとってはどこか他人事なんだよね。だって…………何だかゲームみたいな感覚というか、ステータス画面とか前世だとなかったし。
それに何より大きいのは――――【魔力999999】。
ただし、スキルがないので魔力は使えなくて魔法が使えない。
…………うあああああ! 僕の人生真っ暗!?
ん? でも僕は赤ちゃんの頃から魔力の操作は繰り返していて、魔力の暴走にならないようにできたんだよな…………スキルがないのに魔力って操作できるものなのか? というか、そもそも魔力って才能を開花したときに手に入れるもののような気が…………?
ひとまず考察より落ち込んでいるお母さんを説得し続ける。
ふとソフィが口を開いた。
「ん~お母さん~? レベルがないとダメなの?」
おふ。火事場に油!
ほら! お母さん、もっと泣きそうになってるよ!
お母さんの代わりにリア姉が答えてくれた。
「ソフィ? レベルがないとスキルは手に入らないし、強くなることもできないの…………」
「う~ん? それってセシルお兄ちゃんが強くなれないってことぉ?」
「そ、そう……ね……」
リア姉も落ち込んだ。
無理もない。今日はみんな僕を祝ってくれようとしていたから。
僕とソフィ以外は完全にお通夜ムードだ。
兄さんたちもみんな口を閉ざして落ち込んでいる。
家族のみんなが僕の気持ちを汲み取ってくれて、悲しいときに一緒に悲しんでくれるだけで僕はこの世界に生まれ変わってよかったと思う。
前世ではまともに家族と話したこともない。段々仲が悪くなった両親。父は帰ってこなくなり、母は毎日酒に溺れて毎晩どこか遊びに行っていた。
一人残された部屋でいつかヒーローのようになりたいなんて思ったこともあったけど、現実はそう甘くなかったな。
会社に入って十年間、ただ流されたのは家族から逃げる口実を探していたの……かもしれないな。
そう思うと、ブリュンヒルド家は本当に心温かい。
「みんな! そんな悲しい顔をしないで? 僕のことを思ってくれるのはすごく嬉しいよ! でも、僕のためにみんな悲しむのは少しだけ悲しいかな?」
「セシルちゃん…………そうね。赤ちゃんのときだってセシルちゃんは乗り越えたものね! これからだって何があるかわからないわ! レベルがなくたって家族が一丸となれば、何でもできるはずよ!」
「そ、そうだな! 今でもあのセシルが……信じられないが、これもまた女神様が与えた運命かもしれない」
みんなの表情が明るくなり始めた。
うんうん。やっぱりみんな笑顔がいいよ。レベルがなくたって死にやしないさ! これでも十年間超ブラック企業で働いた実績があるんだ! レベルが0だって気にしない気にしない!
「う~ん」
そんな僕たちの間に、ソフィの不思議がる声が聞こえた。
「ソフィちゃん? どうしたの?」
「お母さん? 私、よくわからないことがあって……」
「よくわからないこと?」
「セシルお兄ちゃんはレベルがなくて強くなれないから大変なんだよね?」
「そ、そうね」
「う~ん。あれれ~おかしいな~」
一瞬、ドキッとする。
なんだその台詞。どこで学んだ!?
………………ちょっとした出来心で僕が言ったことを覚えていたみたいだ。
「ソフィちゃん? 何がおかしいの?」
「だって――――」
そして、ソフィから衝撃的な言葉が放たれた。
「だって、お兄ちゃんって今でもものすごく強いんでしょう? 強くならなくてもいいんじゃないの?」
えっ…………?
僕含む全員がポカーンとして、ソフィが何を言っているのか理解できずにいた。
「だって、お兄ちゃんって今でも魔物倒せるし~スライムたちに大人気だよ? なんか今日はいつもよりも集まってるよ?」
ソフィが指差した窓の外。
そこにはスライムたちが――――何匹もタワー状になって窓から僕たちを見つめていた。
いやいやいやいや! いくら可愛いとはいえ、そんなにぎゅうぎゅう詰め状態で窓いっぱいに並んでるとホラーだよ!?
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