第3話 開花する才……能?
「スラちゃん! 行ったよ~!」
返事はないけど、「らじゃ~!」って気配が伝わってくる。
僕から子猪が逃げ始めて、そのさきに三匹のスライムが待ち構えていた。
ぷよ~んと勢いのある音が響いて、子猪にジ〇ットス〇リームア〇ックを仕掛ける。
ぽよん~ぽよん~ぽよん~と三連続の音が響いて、子猪がその場で目が×になって倒れた。
「みんな~! お疲れ~!」
三匹のスライムだけでなく、他にも待機していたスライムたちが一斉に出てきて僕にやってくる。
「うわあ!?」
僕の全身にスライムたちがくっついて、ぼよんぼよん~ぷよんぷよん~と音を響かせる。
異世界に転生して数年が経ち、僕も五歳になった。
人族に興味がないというスライムだけど、何故か僕にはものすごく懐いてくれる。
さらにスライムがスライムを呼び、赤ちゃんの頃こそ一匹だったスライムは、この五年で三十匹に増えた。
名前を付けようとしたけど、どんどん増えてしまって、どのスライムがどのスライムなのかまったくわからなくなって、名前を付けるのは諦めてみんなを「スラちゃん」と呼んでいる。
倒れた子猪をスラちゃんたちが担いで村に戻る。
うちの村は百棟くらい家があり、五百人規模の村だ。子どもはうちだけでも六人いるくらいなので、他の家も子どもは多くて、二百人を超えている。
「ただいま~」
「セシルちゃん!? また狩りに行ってたの!?」
ものすごく心配そうな表情で走ってくるのは、絶世の美女……でもあり、僕のお母さんだ。
五年経ったいまでも彼女が僕のお母さんだという感覚は薄い。だって……精神年齢では彼女より年上だからね。
「セシル! ケガはしてない!?」「お兄ちゃん! ケガはしてない!?」
お母さんの左右から現れたミニお母さん――――じゃなくて、お母さんの娘であり、顔から髪色やら雰囲気やら全てが似てる二人が僕に飛びついてくる。
「ケガなんてしてないよ? スラちゃんたちが強いから!」
「もぉ……セシルちゃんはまだ五歳だよ? まだ開花だってしていないのに狩りだなんて…………」
「あはは……スラちゃんたちの運動にもなるし、美味しい肉も食べれるから!」
心配そうに溜息を吐くお母さん。
赤ちゃんの頃に魔力の暴走だかを起こした僕をいまだ過保護してくれる。魔力の暴走は魔力を持つ人がまだ安定する前に起きる病気で、一度暴走したら確実に死んでしまうみたい。あのとき、お母さんが慌てたのはそういう理由だった。
あれから魔力の操作はずっと練習してるからもう暴走なんてしないけど、それを話す訳にもいかず、こう過保護を受けている。
「それに――――明日には【開花式】があるから、それまでに神様にアピールしておかないと!」
「セシルちゃんって……たまに変なこというわね」
「お兄ちゃん? アピールするとどうなるの?」
「きっと神様が頑張ったねっていい才能をくれると思うよ!」
「そっか! じゃあ、私も頑張る!」
「うんうん。ソフィも素晴らしい才能を開花すると思うよ!」
「えへへ~」
頬を膨らませているリア姉は、すでに才能を開花させてしまったからな。どんな才能を持っているかはしらないけど、きっと素晴らしい才能だと思う。なんたってお母さんの娘だから。
「セシル~! また肉を狩ってきたんだね」
「うん! 兄さん!」
長男のノア兄。後ろから次男のオーウェン兄と三男のジャック兄も苦笑いを浮かべて子猪を見つめた。
そして、その後ろで誇らしげに笑う赤髪の超絶イケメン――――ルークお父さんだ。
兄さんたち三人はお父さんに似てて、赤髪赤目のイケメンで全員が剣術の才能を授かったようで、毎日剣術を頑張っている。いずれ強い剣士になれるとお父さんは嬉しそうにしていた。
僕も剣術系の才能を授かったら兄さんたちと一緒に剣術の訓練を受けるだろうし、魔法系ならお母さんに教わることになりそう。
五歳で知ることができる【ステータス】。
僕はどんなものが目覚めるのか楽しみだ。
せっかくの異世界。自由に楽しく堪能できるといいなと思いながら、自分が転生した意味はなんだろうと思ったり、強い才能を授かって心躍る冒険を想像してみたりと、毎日が楽しい。
そして明日、僕は遂に自分の才能を知ることができる。
スラちゃんたちが倒してくれた子猪は美味しい晩御飯になった。
◆
翌日。
家族全員がソワソワした朝を迎え、簡素に朝食を食べてから僕はとある場所にやってきた。
残念ながら十字架はないが、前世でいう教会そのものだ。
中には綺麗な女神様の像が建てられている。創造の女神【アテニブル】様である。
多くの村民や家族に見守られる中、祭壇に立つお母さんの下にゆっくり歩き出す。
お母さんは聖職者系の才能を持っているようで、生まれて五歳を超えた子どもを開花させる力を持っている。
祭壇の前でひざまずいて、頭を下げた。
「――――汝、セシル・ブリュンヒルドに女神の加護があらんことを」
お母さんの両手から眩い光があふれだし、僕を包み込む。
心の奥から激しい炎のようなものを感じる。
まるで魔力の暴走のときのような。でもどこか異質でまったく違うものを感じる。
そして目を開けると、目の前に淡い水色の画面が一枚視界に入る。
空中に浮かんだままそれは、通称【ステータス画面】である。まるでゲームのウィンドウのようなその画面は、自分にしか見えない画面だ。
そこに書かれていることは基本的に口外しないように言われている。個人情報でもあり、場合によっては悪意に晒されてしまうからだ。
中には情報を教えろと強要する親もいるらしいが、うちの親は系統しか聞かない。これは普通のことだ。
ワクワクする心を躍らせながら、画面を見つめた。
…………。
…………。
…………。
「へ……? レベル……
僕は思わず声を上げてしまった。
そこに書かれていたのは、ありえない数字だったから。
---------------------
レベル:0/0
才能:無
魔力:999999
スキル:なし
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