第2話 窓からやってきたのは……生きている水玉でした
お、お、お、落ち着け!
そんなはずがない!
窓から現れた
転生してから見下ろされるばかりだな。前世でもいろんな意味で見下ろされていた気がする。それに気付けたのはいいが、もうどうでもいいことだな。
いやいやいやいや! いまはそれどころじゃない!
窓から僕を見下ろすそれは――――大きな水玉に目が付いたナニカだ。
自分が何を言っているのかすら理解できない。
一言でいるなら模ゲームで出てくるようなスライム的な? いや、まんまスライムだな。
お互いに目と目が合って、数秒固まった。
いや、向こうはものすごい――――笑顔で僕を見つめる。
いやいやいやいや! 待て待て待て待て!
スライムってあれだろう? モンスター的なあれでしょう!? 僕ってまだ赤ちゃんだよ!? 戦うなんてできないし、逃げることもできないし、声を上げることもできないんですけど!?
「あああうあう~」
ほらよ! この艶やかな可愛らしい声! いやそれじゃなくて! 早く誰かに助けを……体を動かし…………動かねぇええええええ!
水玉はゆっくりと窓から壁を伝って降りてくる。
粘着性があるのか、壁をそのまま歩いて(?)くる。
いやいやいやいや! 冷静になっている場合かっ!
早く誰か…………!
水玉はやがて僕が眠っているベッドの中にまでやってきた。
ああ…………赤ちゃんになって一か月。最初はお母さんにされるがままの人生に恥ずかしかったけど、いつも優しく微笑んでくれる両親に今世はちゃんと親孝行したいなと思っていた。
まだ喋ったことはないけど、お兄ちゃんたちもいて、お姉ちゃんもいて…………なのに…………僕の新しい人生は短く終わってしまうのか…………。
後悔……ばかりだな。前世と同じじゃないか。
いやだ。こんなところで死にたくない! だって僕は……まだ何もできてないんだ! 自分の意志で、自分のために、家族のために、仲間のために、楽しい毎日を過ごす!
その時、心の奥に何か
僕の視界に何やら蒼い光が灯り始めた。
これって……? え……?
目の前のスライムが体を揺らし始める。きっと僕を食べようとしているんだろう。
そのとき――――
「セシルちゃん!」
お母さああああん! た、助けて!!
「危ないっ!」
僕が食われてしまうよ!
真っ青な顔で走ってきたお母さんは――――何故かスライムではなく、僕を見下ろした。
「セシルちゃん! 落ち着いて! ほら! ママだよ?」
え、えっ!? お母さん!? 僕、食われそうになっ…………。
「ほらほら~怖くないですよ~ママが一緒にいるからね? スライムに驚いちゃったのかな? 大丈夫でちゅよ~だから魔力を抑えようね~ほら~」
ま、魔力ってなに!? というかどういうこと!?
体の奥から溢れる蒼い光がどんどん広がり始める。
「いけないっ! どうすれば…………っ! そうだ!」
そう話したお母さんは――――僕の顔を胸に近付けた。
…………うん。
最初こそ恥ずかしくて死にそうになったけど、生きるためには仕方ないよね。ぷにぷにしてるそれのおかげで心が落ち着く。
「ふぅ……やっと落ち着いてくれたわね……まさか子供のころから魔力の暴走が…………困ったわ……」
魔力の……暴走……? いったい……なに……を…………眠ぃ…………。
僕はそのまま眠りについた。
◆
魔力の暴走寸前だった我が子を見つめながら、ミラは安堵した笑みを浮かべた。
「それにしても……まだ生まれたばかりで魔力の暴走だなんて…………上の子たちはそんなことはなかったのに……」
「ミラ!?」
「貴方!?」
「大きな魔力を感じて急いで帰ってきたんだ!」
「貴方…………実は、セシルが魔力の暴走を……」
「魔力の暴走!? 一歳なのに!?」
ミラはこくりと頷いた。
魔力を認知できる五歳ならまだしも、生まれたばかりの赤ちゃんが魔力を暴走させるなんて前代未聞だった。
「どうやらスライムに驚いたみたいです」
ベッドから笑顔で見上げる一匹のスライムを見つめる。
「ふむ……不思議なこともあるもんだな。人族に興味を示さないスライムがセシルに近付くのも不思議だ」
「そうですね。ひとまず、これから私はセシルちゃんから目を離さないようにします」
「ああ。すまないがよろしく頼む」
二人は静かに眠っている我が子を見つめ、優しい笑みを浮かべた。
「どうか、大人になるまで暴走に巻き込まれずに、すくすく育ってほしい」
「ええ。私たちがしっかり守りましょう」
「ああ」
◆
「あう~」
手を伸ばすと、まん丸い体の一部を手のように伸ばして僕と手を合わせてくれる。
や、やわらか~い~!
「あうあう~」
僕のベッドの中で嬉しそうに体を揺らすスライム。
どうやらこの世界にはスライムが生きていて、普段は
僕も前世からぷにぷに癒しグッズは好きだったので、スライムの体を触るのはとても気持ちいい。
少しひんやりしてて、水のような液体を触る感覚。何かに比べるのが難しいくらいやわらかくてひんやりしててスライムの温もりが伝わってくる。
まるで――――ごほん。それ以上はやめておこう。
スライムはうちのペットになることが決定したが、名前は僕が大きくなったら付けることで決まり、お兄ちゃんたちもときおりやってきては、僕とスライムを撫でてくれる。
そんな幸せで穏やかな日々を過ごして数か月後。
僕に――――妹ができた。
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