第36話 五色の……スライム?
『騎士』
自らの剣で敵を打ち砕き、愛する家族や民を守る気高きその姿――――
え? これ、前にも二回くらい聞いたって?
…………。
…………。
でも今回は違うっ!
『竜騎士』
異世界最強魔物として一番有名な竜種と心を通わせて空を翔ける騎士。多くの子どもが騎士になりたがる一番の理由は、その上位でもある『竜騎士』の存在があるからだ。
さらに『竜騎士』というのは、才能ではなく称号。力を示し、竜を従える。竜こそ力。力こそ竜となり、二人は一心同体となる。
そんな『竜騎士』に憧れる少年少女が多いこの世界で、不思議な魔物に乗り込んで空を翔ける騎士に憧れる少年少女たちがいる村があるらしい。
大陸で最も南に位置し、その存在すら知っている者はごくわずか。そんな小さな村の空には――――空を翔ける『スライム騎士』が大流行りだとかなんとか。
「セシル様! ほ、本当にいいの?」
「もちろんだよ。代わりに大切にしてくれないとダメだよ? 悪いことをしたらすぐにスラちゃんを迎えにくるからね?」
「はい!」
ものすごく嬉しそうに笑う彼は、僕より年上ではあるんだけど、僕は領主の息子だから普通に接しているうちの村に住む子どもだ。
年齢は下だけど精神年齢は僕が村で一番高いからな…………うちの村は若者たちだけで構成されていて、年配の方はいない。新しい村だしな。
以前はゴミ処分や狩りしかできなかったスラちゃんだったが、お掃除スラちゃんのようにいろんなことができるようになったスラちゃんたちを村民一人に一匹預けることにした。
というのも、元々護衛として預けていたけど、正式にペット的な扱いで預けることにして、彼らはともに過ごしともに成長してほしいと願っている。
何故かというと、いろいろ理由はあるけど、大きく二つだって、一つはスラちゃんが空を飛べるようになったから。これならいつでも隣町だったり、ニーア街だったり、行けちゃうから。
そしてもう一つの理由は――――
「これからよろしくね! チャッピ!」
『あい~!』
そう。スラちゃんたちに名前を与えるためでもある。
一人また一人と離れていく。スラちゃんを大事そうに抱えているので、きっと彼らは大きく成長すると思う。
「さて、スラちゃん分けはこれで終わりだね。あとは――――」
僕が視線を向けると、びくっとなった五匹のスラちゃんが空高くぴょ~んと飛び跳ねる。
『!! みんないくよ~! スライレッド~!』
『スライブルーだぜ~!』
『スライグリーンだわ~』
『スライエローよ~』
『スライオークルど……』
五匹は全身の色を変えて着地する。それと同時に各々の魔法を派手に使って後ろに爆発が起き、みんな丸い姿のまま手を伸ばしてポーズを取った。すごく可愛い。
スライエローだけ名前が合わなかったんだよね。スラ、イエローなのか。スライ、エローなのかでいろいろ揉めそうだけど気にしない。
『ボス! スライ戦隊ただいまここに!!』
「みんな、今日も村のために困ってる人を助けてあげてね」
『『『『は~い!』』』』
そう言いながらブルーを残してみんな散っていった。
土色のスライオークルだけ口数が少ないので返事はしないけど、根はとても優しい子なのを知っているのでまったく気にならない。
「ブルーちゃん。今日は解体ないんだって?」
『そうぜ! だからご主人様に提案しに来たぜ!』
この子は僕が初めて認識した『自我が強くなった個体』の僕ちんスライムのスライブルーちゃん。
自我を持ったから名前を付けてあげると言ったら、直後にスライムネットワークを通して全スラちゃんたちに伝わったらしく、一気に自我を開花させたスラちゃんたちが生まれた。
色のようにスライブルーは水魔法が得意で、スライレッドは火魔法が得意だったりする。
中でもスライオークルくんは土魔法が得意で、ものすごかった。畑を育てられる土を魔法で作ったり整地したりと、村で一番忙しい。
スライ戦隊は、なんとなく五種類の魔法が使えるスラちゃんたちだったから、前世で見た戦隊モノを真似て名前を付けてみたら、みんなに大好評だった。
中でもリア姉が大興奮だった。
「提案? 悪さはダメだよ?」
『僕ちんはご主人様じゃないぜ!』
「…………」
最近スラちゃんたちにすら口で勝てなくなった気がするのは気のせいかな……。
『村に川を引こうと思うから許可が欲しいぜ!』
「え? 川?」
『僕ちんたちが水を出しているけど、川が近くにあった方がいろいろいいと思うんだぜ!』
「それはそうだけど……引っ張るって、どこから?」
『南からだぜ!』
「南って……お父さんに絶対に入るなって怒られたよ?」
『それはご主人様だからだぜ!』
「…………」
な、なんか負けた気がする!
「待って! 僕もついていく!」
『ご主人様。お父様の許可を取ってくれだぜ!』
「…………待ってて!」
大急ぎでお父さんのところに走って行き、事情を説明する。
「ダメだ!」
「え~! スラちゃんに乗って地上には下りないから!」
「それでもダメだ! 南には空を飛ぶ魔物もいる!」
「スラちゃんはいいのに?」
「いや、できればスラちゃんも止めてほしい。南には極力近付いて欲しくないんだ」
「だって~ブルーちゃん」
『…………ご主人様のばかぁぁぁぁぁ!』
ブルーちゃんは涙をながしながらどこかに走り去った。
「あ。お父さんが泣かせた」
「俺のせいにするなっ」
お父さんのゲンコツが降りた。
「でも川があったらいろいろ便利だと思うんだよね。ノア兄さんのためにも」
「…………」
「危なくなったらすぐ帰ってくるし、スラちゃんたちもできるだけ全員連れていくから~」
「…………川はどこらへんにあるんだ? ブルーちゃん」
逃げたはずのブルーちゃんが僕の影から出てくる。
「うお!? いつの間に?」
『ふっふっ! 新しく覚えた忍術というものだぜ!』
戦隊モノを説明したときに忍者についてもあれよこれよと伝えたら、まさか忍術を真似るなんて。今度教えてもらおうっと。
『ここだぜ!』
お父さんが開いた地図を指差したブルー。
「なるほど。ここまでなら入っても構わない。ただし、その奥に進まないこと。それまでに出会う魔物は極力――――倒すこと。いいね?」
「あいっ!」『あいっ! だぜ!』
「はぁ……そのご主人にその従魔って、よく言ったもんだ」
「それを言ったら僕はお父さんの息子だよ?」
「…………」
ふふっ! 勝った! まだお父さんになら勝てるっ!
こうしてスライ戦隊たちと大勢のスラちゃんたちと南の森に入ることになった。
当然のようにリア姉とソフィも来ることになった。
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