第35話 その村……名前は
「「わあ~!」」
僕とマイルちゃんは同時に声が上がる。
うちの屋敷のすぐ隣の空き家の掃除を終えてピカピカになった。
「スラちゃんたちすごい~! 口から水を出すのもすごかったけど、やっぱりセシルくんが思いつくことはすごいね!」
「うちのスラちゃんたちがすごいからできることだから~!」
空き家なのもあって、みんなで掃除しようとしたらスラちゃんたちが任せてということで、掃除をお願いしたら、僕を通してソフィの魔力を使い、最弱威力で水魔法を使って掃除をしてくれた。まるで散水ホースから出る水のように壁とかいろいろ水かけをしてくれた。
何故かその姿に前世のルンバを思い出した。
スラちゃんは食べたものを消化できる『分解』スキルがあるので、ゴミとか処理してくれる。それと水を足せば…………食べながら掃除までできるのでは!? と思い付いた。
さっそくスラちゃんにはごにょごにょと伝えると、それはもう見事の――――水色のぷるんぷるんしたルンバになってくれた。
通り過ぎた場所を『ゴミを吸収』⇒『その場に水拭き』⇒『水を再度吸収』⇒『ゴミ及び水を分解』を超高速で行いながら滑る。ゴミを処分してくれるだけでなく、通った場所まで綺麗にしてくれる『お掃除スラちゃん』が誕生した。
「マイルちゃんと一緒にいると、いろんな案が浮かび上がるから助かったよ~これでスラちゃんたちにお掃除をお願いすることもできるよ~」
『ご主人様~お掃除は任せて~』
『やってやるのれす~!』
『ぴっかぴか~』
そういえば、進化したスラちゃんたち。個体の自我も少しずつ強くなってる気がする。以前もそれぞれあったけど、それがより濃くなった感じだ。
それによって意志が強くなり、僕のためになるならと自らの意志で善意をやってくれるのだ。つまり、スラちゃんたちは満面の笑みでビッグボアを狩ってくるようになった。結構な量を。
倒して運ぶのもスラちゃんたちだけでできるし、倒すときも肉にはできるだけ傷をつけずに戦っている上に、ビッグボアの角は素材として販売できるらしく、角も山積みになってきた。
「マイルちゃん~スモールボア肉とビッグボアの肉とビッグボアの角。全部買ってくれる?」
「う~ん。無理っ! 量が多すぎて、まだ資産がないうちの商会では買いきれないよぉ」
「じゃあ、無期限無利子で!」
「え~!? そんなことしたら、セシルくんたちが損になる可能性もあるよ?」
「問題ないよ~ボアってスラちゃんたちがいくらでも狩ってくるから」
こういうのは全自動狩りシステムとでもいうべきだろうか……?
スラちゃんたち様様だね!
それからスラちゃんたちは『お掃除モード』となり、建物を綺麗にお掃除してくれる。
村の全ての家やアデランス町、ニーア街の家々も勝手に掃除し始める。
いまやスラちゃんたちは、女神様の使徒として愛されているから、誰も嫌そうな顔一つしなかった。
「スラちゃんたちって何でもできるんだね~お肉の解体なんてできたら、もっと助かるんだけどね~」
『お肉の解体~?』
マイルちゃんの言葉を聞いたスラちゃんの一匹が、ドヤ顔をしながらビッグボアに向かう。
全身をくるくる回しながらビッグボアに突っ込んだ。
『水刃斬り~』
ゆる~い声とは裏腹に、目の前のビッグボアは一瞬で解体した。
「「すごい~!」」
ただ斬るのではなく、アデランス町のお肉屋さんと同じ形で切ってくれた。断面も非常に綺麗で無駄がなく、ただぐるぐる回ってるように見えたのに、斬るときに細かい動きをしてくれたみたい。
それだけ進化したスラちゃんの高い器用さがわかる。
「これならスラちゃんたちでお肉も裁けるね~」
『ご主人様~それは――――たぶん難しいぜ!』
「え……?」
難しい? それにこのスラちゃん。口調が少し変わってる……?
『これは僕ちんの特殊能力だから、他のスライムは無理だと思うぜ!』
「え、えっと……?」
『僕ちんたちが進化してから、一は全の中からはみ出た者がいるんだぞ。その一人が僕ちんだね!』
「えっと、それってつまり……僕の従魔じゃなくなったってこと?」
『うん? 何を言ってる? ご主人様。僕ちんたちはご主人様の従魔に決まってるぜ!』
「お、お…………それで君は解体が得意だと?」
『僕ちんは水魔法の操作が得意ぜ!』
そう話したスラちゃんは水魔法をまるで手や足のように動かし始める。体もスライムなので繋がってるように見えるけど、色とか微妙に違う。
『ご主人様の魔力があれば、僕ちんに任せてくれれば、解体は全部請け負うぜ!』
「それは助かるよ。ずっとじゃなくていいからできる範囲で解体を手伝ってね」
『了解ぜ!』
それから僕ちんスラちゃんは次々解体を進める。他のスラちゃんたちはせっせと肉を運び始めた。肉の塊を体に入れた巨大なスライムが空を飛び村からアデランス町へ向かう様は、異世界ならではの面白い光景だ。
「マイルちゃん。本部にも伝えておい――――って、言わなくても、もうやってるか」
さすがはマイルちゃん。すぐに相棒のスラちゃんに頼み込んで本部とのスクリーンを繋ぎで事情を説明していた。
気のせいかスクリーン越しの従業員の顔が青ざめているような気がする。
それから数日が経過して、うちの村とアデランス町を結ぶアネモネ商会の支店が誕生した。
従業員は毎朝アデランス町からスラちゃんに乗って出勤してくれるし、マイルちゃんも手伝ったりする。
「さて、アデランス町との繋がりもできたので、そろそろ村に名前を付けようと思う。そこでみんなの案を聞きたい」
夕飯のとき、お父さんはそう話した。
「スライムの村?」
「そのまますぎないか?」
「「セシルの村!」」
「「却下!」」
「「…………」」
「ノアたちはどうだ?」
「ん~スラちゃんたちが多いし、スライム村もいいなぁ……」
ふっふっ。オーウェン兄さんはスライムの良さがよくわかってるね!
「ボア肉もいっぱいあるから~ボア村?」
ジャック兄さんの言う通り、うちってボア肉が名物となってるもんね。スラちゃんたちが狩りまくってるから。
あれだけ狩っても狩っても尽きないんだから、異世界って不思議だね。
「ノアはどうだい?」
「ん~」
ずっと深く考えていたノア兄さん。
「この前セシルくんに教えてもらった楽園の名前はダメかな?」
「ん? 楽園の名前?」
「うん――――エデン。とても素敵な名前だと思ってて、ずっと頭に残っていたんだ!」
「ふむ……とても素敵な響きだな。それはセシルから教わったのか?」
「うん! 楽園を意味する言葉なんだって!」
目を輝かせるノア兄さんたちと、目を細めるお父さん。
ほ、ほら、ノアといえば、エデンでしょう!? 何とは言わないけど。
でも楽園を意味するエデンという村の名前はとてもいいと思う。
「まあ、いいんじゃないか? とても素敵な響きだし。これからうちの村は――――エデン村だ!」
「「「「わ~い!」」」」
こうして、僕に領地を押し付けられないように着々と準備を進めたことが結果に結びついた。
ノア兄さん……! きっといい領主様になれるよ~!
お父さんはずっと目を細めて僕を見つめていた。
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