第34話 増える……領地と仲間
「う、うわああああああ!」
超高速で降りてきたのは――――お父さんだ。
「お父さん~お帰りなさい!」
「セシルうううううううう!」
「ひい!?」
目にも止まらぬ速さでやってきて、僕の頭をぐりぐりしてきた。
「い、痛いよ~お父さん~」
「セシルのせいで酷い目に遭ったんだぞ! それに急にスラちゃんに捕まって空を飛ぶとか聞いてないぞ!!」
「あはは~楽しかったでしょう?」
「楽しいわけあるかああああ!」
二度の頭ぐりぐりの刑にあった。
「父ちゃん。おかえり~」
「ただいま。こんなに早く帰ってこれるとは思いもしなかったな。今日ルーク殿の村に遊びにいくんだろう?」
「うん!」
おじさんは優しそうな目でマイルちゃんの頭をなでてあげた。
「おじさん。マイルちゃんはしっかり守るから心配しないでね」
「…………お前がセシルか」
「そうだよ~」
おじさんの拳骨が頭に落ちてくる。優しい拳骨が。
「あいた!」
「ったく……お前に巻き込まれて大変な目に遭ったぞ」
「僕は悪いスライムじゃないよ~?」
「くっくっ。実物はこうなってるのか。まあ、なんだ――――いろいろありがとうな。マイルをよろしく頼む」
「任された~! おじさんは村に遊びに来ないの?」
「それはまた今度な。いまは商会の指揮を執らないといけないからな」
「父ちゃん? 私も手伝うよ!」
おじさんはマイルちゃんの頭に優しく手を上げる。
「心配すんな。こう見えても指揮を執るのは得意だからな」
「「え……?」」
「ったく。ちょっとくらいは俺を信じろってんだ!」
アデランス町に僕たちの笑い声が響き渡った。
「わあ~! 空がすごく綺麗~!」
雲一つない空を夕焼けが照らす。
初めての空の旅にマイルちゃんは楽しそうだ。
「セシル」
「お父さん。目を瞑っていては、せっかくの空の旅が台無しだよ?」
「かまわん。それよりセシル」
「あい?」
「ブリュンヒルド家の爵位は知ってるか?」
「ううん。うちって貴族なのは知ってるけど……」
「そうか。うちは『特別子爵』というものだ」
「え~!? 子爵ってすごく位が高いんじゃないの?」
「え~!? ルークさまって子爵様だったんですか!? わ、わたし……なにか無礼なことをして……」
「マイルちゃん。大丈夫だよ。そのときは僕がお父さんに文句いうから」
「セシルくん……」
「ごほん。話を続けるぞ」
それはいいけど、お父さんはずっと目を瞑っているつもりなんだろうか?
「まあ、何か特別かはさておき、男爵と子爵の違いというのは、領地を持てるかどうかなんだ。たとえば、ニーア街は今までセサミ子爵が管理していたんだ」
「ほえ~じゃあ、ニーア街の領主様はセサミ子爵様なんだね?」
「ああ。ただし、領主の続きに『領主代理』が付くのさ。ニーア街領主代理セサミ子爵。みたいな感じなんだ」
「ほえ~じゃあ、僕たちの村も――――って、うちの村の名前ってあるの?」
「ないぞ?」
「じゃあ、名の無き村領主代理ブリュンヒルド特別子爵ってなるの?」
名前がとても長い。それにしてもうちの村にも何か名前がほしいな。
「いや、うちに代理は付かないんだ。領地には所有権があって、南部の大半を持つのはアセリア辺境伯様という方が持っている。他に個人の領地を持つ子爵も何人かいて、うちもそのうちの一家なんだ。ここまではいいかい?」
「あい~」
理由はわからないけど、お父さんは何らかの功績を立てて領地をもらい、そこに村を建てたんだね。そして、ニーア街の所有権を持っているのはアセリア辺境伯様と。
「ニーア街とアデランス町が――――ブリュンヒルド領になった」
「…………?」
「わあ! ルークさま、おめでとうございます!」
「おめでとうじゃないよおおお! 俺は領地を経営したかったわけじゃないから!」
「わあ~お父さんおめでとう~」
「…………」
「え、えっと……僕のせい?」
「当然だああああ! セシルじゃなかったらこんな大都会を譲ってもらえるわけないだろう!! リア!」
「へ? 私?」
「これも全てリアのせいだからな!」
「え――――えへへ~セシルのためになったわ!」
「リア姉!? いったい何をしたの!?」
「うん? ニーア街は神聖なる場所だからね。スラちゃんたちが祝福しているブリュンヒルド子爵領にすると、より大きな利益が産めるでしょう~って言っただけだけど?」
「「ニア姉のせいじゃん!!」」
「えへへ~」
「「褒めてない!!」」
まさかこんなことになっているなんて……。
「セシル」
「あ、あい」
「責任を持って――――ニーア街とアデランス町の管理。任せたぞ」
「えっ? いいの?」
「まあ、あまり無茶なことさえしなければいいだろう。もちろん領主はまだ俺になっているが、せっかく領地が三つの町に増えたから兄弟で分けてもいいかもな。大人になったらな」
「お父さん? それはダメだよ?」
「ダメなのか?」
「そんなことしたら絶対喧嘩になるし、僕は他の兄さんたちにも自分の夢を追いかけて欲しいなと思うからね。全部ノア兄さんに押し付けよう!」
「お前な…………まあ、領地を全部寄越せと言わないだけできた息子だ。それにノアたちに関しては俺も同じ考えだからな。領地は――――ノアたちが嫌がったらセシルに押し付けるからな」
「…………任せて!」
「その顔、絶対にノアに何かする気だろう!?」
「え~! 目を瞑ってるのに僕の顔が見えるの!?」
「見えなくても見える!」
死の道と呼ばれる道の空にお父さんたちの笑い声が響き渡った。
「美味しい~!」
うちで夕飯を一口食べたマイルちゃんは目を輝かせて声を上げた。
うんうん。うちのお母さんの料理は世界一だからね。
正直、まさかここまでお母さんの料理が美味しいなんて驚きだ。
「ふっふっ。ミラはシガンデリア聖都の料理大会で優勝しているからな」
「貴方……そんな昔のことを……」
「ほえ~シガンデリア聖都って、教会の総本山だよね?」
「そうだな。父さんも母さんもそちら出身だから」
「「「「え~! そうだったんだ!」」」」
兄弟全員揃って声を上げた。
お父さんたちの出身を聞いたのは初めてだったから。
「ふふっ。マイルちゃん」
「は、はいっ!」
「うちのセシルちゃんのわがままに付き合ってくれてありがとうね。お礼と言うのはあれだけど、毎日うちにご飯を食べにいらして? むしろ、うちで住まない?」
「えっ!?」
「商会の出勤はスラちゃんに乗っていけばいいし、スクリーンを使えば遠くからでも指示は出せるからね。お父さんだって時間があればうちの村に来てもらったらいいのよ。スラちゃんならひとっ飛びなんだから」
「…………」
「マイルちゃん!?」
マイルの可愛らしい大きな目に大粒の涙がポロポロと落ち始めた。
すぐにかけつけたお母さんに抱きしめられているマイルちゃんを見て、やっぱり誘って大正解だったと思えた。
リア姉とソフィを見たけど、意外にも嫌そうな表情はしていなかった。
アデランス町で二人に親身になっていたマイルちゃんが功を奏したのかもしれないね。
その日から、うちの村にマイルちゃんも住むことになった。
帰る家があった方がおじさんも来やすいだろうということで、うちの屋敷の隣の家に住まうことになり、毎日うちで一緒にご飯を食べるようになった。
さらにアネモネ商会のうちの村の支店を出すことも決定した。
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