第61話 王女の初めての旅
翌日。
朝早くブルーの背中に乗り、王城にある別荘を訪ねた。
メイドさんに事情を説明すると庭に案内されて、紅茶を飲みながら待っていると、興奮した様子の姫様がやってきた。
「お、おはようですわ!」
「おはようございます。エヴァ様」
「さあ! さっそく行きましょう!」
「紅茶が少し余っているので、ちょっとだけ待ってください」
「わかったわ」
彼女は僕の隣でぽよんぽよんと飛び跳ねているブルーに近づき、恐る恐る手を伸ばして触ろうとする。
「ブルー」
『あい。だぜ!』
「わあ~!」
ブルーが彼女の胸に跳びこむ。
最初は少し驚いたようだけど、すぐにブルーのぷにぷにした感触を確かめて、頬が緩む。
「ひんやりして気持ちいいわ……。ねえ。まだ?」
いや、まだ十秒も経ってないよ。
急かされているし、紅茶を素早く飲み干した。
「イエロー。姫様をよろしく」
『わかりました~』
僕の胸ポケットに入っていた黄色いスラちゃんが出てきて、大きくなる。
「あら? こっちのスライムじゃないんですの?」
「スライムに雄とかはないんですが、性格的にブルーは男の子っぽいんで、こちらのイエローにどうぞ」
「そうですの? まあ、よろしく頼みますわ。イエローさん」
『は~い』
恐る恐る乗った姫様は、急に顔を赤らめてスカートを隠すように握り、俺を見下ろした。
「え、えっと……」
「大丈夫ですよ。スラちゃんには魔法がかかっていて、人を乗せると付着させて髪とか服とかなびきませんから。それと下からも見えないようになってますよ」
スラちゃん達って普段は透けるからね。女性はちょっと気になるよね。
「それは助かるわ! さあ、速く行きましょう!」
「わかりました。えっと、セバスさん? 護衛は付けなくてもいいんですか?」
「はい。セシル様やスライム達が守ってくれるなら護衛は要らないと」
「では夕飯を食べてからまたお連れしますね」
「よろしくお願いします。これはお嬢様の旅路で使ってくださいませ」
セバスさんから金貨を三枚受け取った。
ただ遊びに行くのに金貨を三枚も……まあいいか。
僕はエヴァ様を連れて、一緒に屋敷に戻った。
「初めまして。セシルの姉、リアと申します」
「私はソフィです。よろしくお願いいたします。エヴァ様」
すぐに二人が出迎えてくれる。
エヴァ様は貴族の挨拶を交わすと、すぐに僕の服をつまむ。
「今日はここで過ごさなくちゃいけないのかしら……?」
「どちらでも好きに過ごしてくださっていいですよ。リア姉とソフィと一緒にお出かけしてきてもいいですし」
「え、えっと……貴方は?」
「僕はこれから支援物資を運ぶ仕事がありますから」
「それに一緒に行くのはダメかしら!」
「えっ。もちろん、いいですよ。リア姉とソフィもそれでいい?」
「「は~い」」
好奇心旺盛なんだな。
そのあとはライムさんが準備してくれる間に、アネモネ商会で指揮を執っているマイルちゃんにエヴァ様を紹介すると、マイルちゃんは「はわわ~! お姫様とお会いできるなんて~!」と目を丸くしてその場で小さく飛び上がっていた。
うん。マイルちゃん可愛い。
準備が終わり、ライムさんと一緒にスラちゃん達にまた大量の物資を持ってもらい、僕達は空の旅に出た。
「わあ~! すごい~!」
エヴァ様はスラちゃんの特性をすでに把握したようで、リア姉達と並んでスラちゃんに横たわり、景色を堪能していた。
物資はある程度運び終わったのだが、実は東の山脈近くに住んでいる村から、食糧難にあるということで、最優先で対応することになったのだ。
「ねえねえ! あれって、ディーアル山脈じゃありませんの?」
「そうですよ~」
「すごいわ~! 本では見たけど実物があんなにすごいなんて……!」
「王都からだと少し距離はあるけど……初めて見るんですか?」
「そうよ。それを言ったら、私、さっきの王都の下町を見たのも初めてだもの」
「ほえ! そうだったんですね」
「世界は……こんなにも広いんですわね」
王国の頂点といえば、王都だし、王城だと思うんだよね。そこに住んでる彼女こそが一番の頂に住んでいるはずなのに、世界が広いという発言は少しだけ皮肉にも聞こえる。
でも彼女は本心からそう話したわけで、誰かを貶すつもりは全くないことくらい、今日の反応を見てよくわかる。
ディーアル山脈近くにある村に着くと、ライムさんがすぐに物資を分け与える。
僕達はその間に村を回る。
「ねえ、あそこは何?」
「あれは、工房ですね」
「行ってみたいわ!」
ダダダッと走っていくエヴァ様。
護衛は常にイエローが彼女の体に付着しているし、空にはリア姉とソフィのナンバーズ達と七つのスライム達が見守っているので心配はない。
工房から「いらっしゃいませ~ほわあ! 可愛い方がいらっしゃいました!」と女の子の声が聞こえてきた。
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