第12話 スラちゃんたちの覚悟

 僕の体の何十倍も大きい猪。禍々しい気配に全身が震えるが、そんなことよりも守りたい一心で新しいスキルを使って蹴り飛ばす。


 意外なことに巨大猪は僕の一撃でやってきた道をまた戻るように吹き飛ばされた。


 ただ、これは僕の力ではなくスキルであることは簡単に理解できた。


「お兄――――」


「ソフィ! リア姉に向かって走れ!」


「!? は、はい!」


 ソフィは両目に大きな涙を浮かべて、リア姉に向かって全力で走り始める。


「スラちゃんたち! 全力投球だ!」


『あいあいさ!』


『ご主人様を守れ!!』


 いつもはふわふわしているスラちゃんたちなのに、僕たちを守ろうとするのがものすごく伝わってくる。


 ――――そのとき。


 僕の体をスラちゃんたちが覆い始めた。


「えっ!? スラちゃんたち!?」


『ご主人様を守れー!』


 そのまま動きを取れなくされて、巨大猪からどんどん離れ始めた。


 僕だけじゃなく、ソフィとリア姉も一緒に運ばれていく。


「スラちゃん!? な、何をしてるの!」


『ご主人様は村に~!』


 スラちゃんたちは僕たちを運びながら、残った子たちは倒れた巨大猪に向かって体当たりを繰り返す。


 遠目からでもわかるほど、体当たりするだけで全身がボロボロになっていくのが見える。


「待って! 逃げるならみんなで逃げよう!」


『ご主人様のお父様が来るまで守るの!』


 巨大猪が見えなくなった頃、また轟音が鳴り響いて段々と地鳴りが始まった。


 僕たちを狙って走ってくる巨大猪がまた見えて、それを阻止しようとするスラちゃんたち。一匹また一匹が弾かれて地面に落ちてから動かなくなっていく。


 さっき覚えたスキルなら! また巨大猪を飛ばしてお父さんがくるまで時間稼ぎを!


 スキルをまた使おうとした時、『疾風迅雷』が三分に一度しか使えないのがわかった。


 それならまた新しいスキルを……また新しいスキルを覚えてくれて時間稼ぎを!


 吹き飛ばされた一匹のスラちゃんと目があった。


『ご主人様……ありがとぉ……』


 違う……ありがとうっていうのは君じゃなくて僕だよ…………ごめん……本当にごめん……。


 なんでこんなことになったんだろう。エンダーの森は初級魔物しかでないはずなのに……奥に入れば強い魔物もいるとは聞いていて、深部には入らないようにしていたはずなのに…………どうして……。


 僕たちはただただスラちゃんたちを見守ることしかできなかった。


「やめてくれえええええええええ!」


 スラちゃんたちとは生まれてから毎日一緒にいた。


 そんなスラちゃんたちを守ることもできず、ただ守られる側で、心のどこかで異世界を甘くみていたし、今まで通り何とかなると思っていた。


 そんな考えが甘かった…………全て僕のせいだ…………。


 地鳴りがどんどん近付いてきたその時――――


 風を斬る音とともに巨大猪の巨体がその場にビタッと止まった。


「貴方! セシルちゃんたちは確保したわっ!」


「…………ああ」


 初めて聞いた。


 お父さんの怒りにそまった声・・・・・・・・


 後ろからでもわかるほど、お父さんの体からは凄まじいオーラが立ち上っている。


 それからは一瞬だった。


 圧倒的。お父さんの剣戟は一つ一つが強く、スラちゃんたちが頑張っても止められなかった巨大猪を、いとも簡単に抑え込み――――倒すことができた。


 倒れた巨大猪。その周囲に痛々しい姿で横たわるスラちゃんたちの亡骸。


 僕は知らなかっただけだった。ずっとずっと……お父さんたちが守ってくれててこの世界異世界がいかに恐ろしい場所なのか感じられないくらい、平和で幸せいっぱいの村を作ってくれていたことを。


 リア姉とソフィがお母さんの胸の中で大声を上げて泣くのが見えた。


 ああ……これも全て僕が…………。


「セシル」


 後ろから聞こえるお父さんの声。


 きっと僕はいらない子として捨てられるのだろうか? 姉さんと妹を危険な目に遭わせてしまった。


 振り向いた先のお父さんは――――目に大きな涙を浮かべていた。


「よく生きてくれた。ありがとう。リアとソフィをよく守ってくれたな」


「ち、違……僕じゃ…………スラちゃんたちが…………」


「ああ。スラちゃんたちのおかげでもある。でも――――それも全てセシルが今まで頑張ってくれたからだ」


 僕の足元には多くのスラちゃんたちが集まって、心配そうに見上げていた。


『ご主人様、ケガはない?』


 それが彼らの本心なのは長年一緒に暮らしてきたからこそ、誰よりもわかる。


 スラちゃんたちは僕を責めることなんてせずに、むしろ心配してくれる。


「ごめん……スラちゃんたち……みんな…………本当にごめん……」


『私たちはご主人様が元気ならいいの!』


 生きていることに、スラちゃんたちの言葉が、助かった事実が、姉さんと妹が無事なことに、多くのスラちゃんたちが亡くなったことに。


 僕はただただ涙を流すことしかできなかった。



 ◆



「――――黙とう」


 お父さんの言葉に合わせて、僕たちは目をつぶって頭を下げる。


 どうか…………安らかに眠ってください。


 目を開けると、僕の両腕をぎゅっと抱きしめるリア姉とソフィ。


「亡くなったスラちゃんたちのためにも、生きよう。足掻いて足掻いて、彼らの分まで生き延びよう」


 二人とも大きく頷いた。


 スラちゃんたちは僕たちを助けるために四百匹もの多くが亡くなった。


 あのあと、お母さんにいろいろ聞いたところ、魔物同士が体をぶつけ合うと、お互いに反発して両方にダメージがあるという。だからスラちゃんたちがぶつかっただけで亡くなった原因みたい。


 足元にいる亡くなった仲間たちを見守るスラちゃんたちをみんなで優しく撫でてあげた。



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スキル:

魔力操作=13726/99999

スライム使い=9581/9999

応援=47129/99999

危機感知=121/99999

威圧耐性=972/9999


進化=コンプリート

疾風迅雷=コンプリート

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