第16話 異世界でも……般若の顔

「セ~シ~ル~」


「ひい!?」


 外から聞こえる声にびっくりして、みんなで視線が屋根裏部屋の扉に向いた。


 扉のドアノブがゆっくりと回り、ゆっくりと扉が開いてくる。


 眩い光りが部屋に差し込み、世界で一番綺麗だと思われる美しい金色の髪が波を打ちながら、ゆっくりと入ってきた。


「こ~んなところに隠れて~お兄さんたちまでたぶらかして~何をしているのかな~?」


「ひい!? お、お母さん? え、笑顔が……怖いよ?」


「ふふっ。やっぱりセシルちゃんは話が早いわね~」


 笑顔なのに後ろに般若はんにゃの顔が見える!


「え、え、えっと……! こ、これは…………」


「うふふ~ちゃんと話してくれる~?」


「はいっ!」


 笑顔のお母さんの前に僕、リア姉、ソフィだけでなく、ノア兄さんたちも一斉に正座して並ぶ。


「町に行きたかったです!」


「知ってるわよ」


「行けないと落ち込んでいたら、スラちゃんから見ること・・・・ならできるって教えてもらって! それでいろいろ試してみたら、魔力をいっぱい使うけど、スラちゃん同士で視界を共有することができたよ! それで離れたお父さんたちを見守ろうとしたんだ!」


 段々表情がポカーンと変わったお母さんは、スラちゃんの上に映し出された画面を見つめた。


「あら、本当にあの人が映ってるわ!」


 だがしかし、お母さんの怒りゲージは下がる気配がない。ど、どうしよう……。


 そのとき、ソフィが手を上げた。


「お母さん~お兄ちゃんが失敗したらお母さんが悲しむから私達だけで試してから、ちゃんと動いたらお母さんにも言おうって言ってたの!」


 ソフィぃぃぃぃぃ!


 目を大きくしたお母さんの怒りゲージが一気に下がっていく。


「そうだったの。うふふ。やっぱりセシルちゃんって優しいわね~まさか、家族水入らずでお母さんだけ仲間外れ・・・・・・するわけはないんだよね~?」


「も、もちろんだよ! ほら! 椅子だって家族みんなが座れるように作ったから!」


「うん。本当のようね。ふふっ。それなら早く言ってくれればいいのに~じゃあ、私は紅茶を用意してくるね?」


「お母さん~私も手伝う~」「私も~」


 リア姉とソフィがお母さんと一緒に屋根裏部屋を後にして、僕達はその場に倒れ込んだ。


「ぷっ。あはは~あはははは~!」


 ノア兄さんを皮切りにみんな大声で笑った。


「お母さん、すごく怖かったな~」


「変な汗掻いちゃったよ~」


 こうして兄さんたちと笑うのっていつぶりだったかな……。


 毎日があっという間に進んで自分のことで精一杯で、周りを見る余裕なんてなかったけど、これからはそういうところも気を付けたいな。


 長椅子ソファに腰を掛けているとお母さんたちが香ばしい紅茶とお菓子を持って上がってきてくれた。


 それらを飲みながらスラちゃんの画面を見つめる。


「セシルお兄ちゃん? そういえば、これって名前ってなに?」


「名前?」


「うん。呼び方~」


 あ~考えたことなかったな。


 画面というだけだとわかりにくいし…………前世の知識からスクリーンっぽいからスクリーンでもいいかな?


「そうだな~じゃあ、名前は『スクリーン』ってことにしよう」


「スクリ~ン! うん!」


『スクリーン! は~い』


 ソフィもスラちゃんたちも気に入ってくれたみたいでよかった。


 スクリーンに映るのはお父さんの後ろ姿。ほかにも衛兵さんが三人映っている。


 馬車に乗っているのはお父さんと衛兵五人。前方に三人と後ろに二人みたいだ。


 最初は何気ない談笑をしながら進んでいた馬車だけど、一斉に慌ただしくなった。


「オークだな。俺が対応する! お前たちは馬車を頼むぞ」


「かしこまりました! スラちゃんたち。領主様をよろしく頼むぞ!」


 スラちゃんたちがぴょんぴょん跳ねて応えてから、お父さんと一緒に前方に群れている魔物に向かった。


 オークと呼ばれた魔物は緑肌を持った猪の顔をした二足方向の人型魔物だった。


 体付きからわかるように、非常に強そうな体をしている。


「お母さん? オークって強いの?」


「ええ。とても強いのよ。それにオークは単体が強いだけでなく、群れるからもっと強いわね」


「そうなんだ……お父さんは大丈夫?」


「ふふっ。それは問題ないわね。あの人は――――もっと強いから」


 お母さんの言葉通り、お父さんが一気に間合いを詰めて剣でバッタバッタ倒していく。


 あまりの鮮やかな動きに、本物の映画を見ているような気持ちになる。


「お父さんすごい~!」


 みんな興奮しながら見守り、あっという間にオークを殲滅したお父さんがこちらに向いて手を振った。


「あら、私達・・に手を振ったわよ?」


「ふふっ。違うよ? お母さん。あれは馬車に向かって手を振ってるんだと思う」


「そうだったわね。それにしてもこの魔法は不思議だね~」


「魔法じゃなくてスキルみたいだよ? スライムスキルだって」


「へぇ……でも今まで多くのスライムテイマーたちがいたのに、どうして誰も使ったことがないんだろう?」


「う~ん。スラちゃんが言うには、使えるのは知っていても使えないみたい。使うのには魔力がいっぱい必要なんだって」


「魔力? もしかして、今もセシルちゃんの魔力を使って見せてるの?」


「そうだよ?」


「どれくらい……使ってるの?」


「えっとね。魔力の回復量といろいろ計算すると…………大体半日で五十万くらい?」


「ご、五十万…………セシルちゃんは疲れないの?」


「大丈夫!」


 ――――【スキル『魔力回復』を獲得しました。】


 もっと大丈夫になっちゃった。


 お母さんは何とも言えない表情で、溜息を吐いてまたスクリーンを覗き込んだ。

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