第54話 ソフィの実力

「こんにちは! アグウスさん」


「いらっしゃい」


 お父さんの旧知の仲だという飛竜騎士団の騎士団長アグウスさんを一人で訪れた。


 護衛にはスライ戦隊がいるので、赤青緑土黄のスライムが僕の体にまといついている。


「王都にしばらくいると言っていたが、もう慣れたか?」


「おかげさまで慣れました! いろんな人がいて面白いです」


「それはよかった」


「それで、今日は一つお願いがあって来たんですけど」


「ふむ」


「実は王都のずっと東にあるディーアル山脈から魔物の進行が起きてて、あと数日で大量の魔物がやってくるんです。それに通り過ぎる町とかも被害に遭うかも」


「…………」


「あの? どうかしたんですか?」


「いや、子供の悪戯にしては妙に具体的だなと思ってな」


「おじさん? 子どもでもこういうことを冗談で言わないと思いますよ?」


 アグウスさんは目を細めて僕を見つめる。


「セシルくん。一ついいかい? 君がもしそういう嘘をついてしまうと、両親に迷惑がかかる。それでも魔物の進行は本当であると?」


 目線を合わせるために屈んで、真っすぐ目を見てくれる。


「はい。ものすごく危険なときですから、一刻も早く対処した方がいいと思います」


「…………わかった。ではまず、現状を確認しに行かねばならないな」


「それだとちょっと遅いと思うので、これから魔物の進行をお見せします」


「お見せする……?」


「はいっ。ブルー頼んだよ」


『あい。だぜ!』


 ブルーの上にいつものモニターが展開される。


 アグウスさんは最初は目を大きくして驚いたのだが、すぐに画面を食い入るように見た。


 そこに映っているのは、森を横断する黒い影。遠くからは黒い蛇のように見えるが、どんどん画面をズームアップしてもらうと、黒い影は魔物の群れなのがわかる。


「セシルくん! これが今の現状というわけか!?」


「はい。この魔物達が王都に着くと大変なことになると思いますから」


「それはそうだな……急いで飛竜騎士団と魔導師団に声をかけねば……」


「あ、アグウスさん。このモニターのことは秘密でお願いしますね~」


「わかった。これだけの力を持ってるとなると、他の貴族に目を付けられると困るだろうしな」


 話が早くて助かるね!


 アグウスさんは急ぎ足で飛竜騎士団を後にして、王城に向かった。


 これで魔物の進行は大丈夫かな……念のため、僕達も力になるようにしておかないとね。


 一度グリーンに乗って屋敷に戻ってきた。




「お兄ちゃん~おかえり。どうだったの?」


「アグウスさんが魔導師団というところに声をかけるみたい」


「魔導師団! 見てみたい!」


「ソフィ? 魔物の行進は遊びじゃないよ?」


「え~でもぉ……」


 そのとき、ソフィの肩の上に七つのスライムのルストとラースが乗ってきた。


『主。あの程度の魔物ごときに遅れは取れません。お任せください』


 ラースは七つのスライムたちのリーダー。ナンバーズのワンくんとともに、スラちゃんの中では最強戦力だとブルーが言っていた。


「本当に? 大丈夫?」


『はい。命令とあれば、今すぐに殲滅してきましょう』


「えっと、それでもいいけど……」


 するとマイルちゃんが近付いてきて、彼女の背中で護衛していたスイレンちゃんが僕の背中に移ってきた。普段彼女の護衛はスライ戦隊のレッドにお願いしてるけど、飛竜騎士団に行くからスイレンちゃんと変わっていたのだ。


「主~見るくらいなら空の上からでも問題ないし、大丈夫だと思うわよ」


「そっか。スイレンちゃんもそう言うなら……じゃあ、お邪魔にならない程度に見てみよう」


「お兄ちゃん、先に少しだけ魔物を倒したいな~」


「えっ!? でも……」


「最近魔法を使ってないから魔力が余ってるんだよ。ダメ?」


 お願いポーズをするソフィがまた可愛らしい。


「じゃあ、遠くから撃つだけだよ?」


「わかった!」


「セシルくん。気を付けてね?」


「ありがとう。マイルちゃん。気を付けて行ってくるよ~その間、みんなをお願いね。レッドも護衛をよろしくね」


『あいあいさ~』


 ソフィにせがまれて、その足でグリーンに乗り込み、ソフィやスライ戦隊、七つのスライムを連れて、魔物の進行の場所まで向かった。



 ◆



 ブルー曰く、スラちゃんの飛ぶ速度も僕が知っているのが通常速度で、高速飛行モードというのがあるという。


 それで移動するようにお願いすると、今まで飛んでいた速度とはまるで違う、とんでもなく速さで飛ぶと、周りの景色がどんどん通り過ぎていく。


「わ~い! 速い~!」


 ソフィは楽しそうにしているけど、お父さんはたぶん無理かもね。


 飛んでいる間も、スラちゃん達がスライム魔法で向かい風が体に当たらない魔法を使ってくれて、とても快適だ。


 空の旅はあっという間に進み、魔物の進行の上空にたどり着いた。


「ソフィ~延焼したら大変だから、火魔法はダメだよ~」


「わかった~!」


 ソフィの瞳に魔法陣が浮かび上がる。


「魔眼発動。連続展開四重魔法! インディグネイション!」


 ソフィが空高く両手を掲げると、上空に巨大な魔法陣が展開される。


 そして――――魔法陣から無数の雷が魔物達に向かって落とされた。


 轟音が鳴り響いて魔物達が殲滅された。


 それにしても、とんでもない量の魔力が使われたな。


「あ~!? ソフィ! 全部倒しちゃったらダメでしょう!!」


「あっ! てへっ。お兄ちゃんの前だから張り切っちゃった!」


 可愛らしく笑うソフィだったけど、僕は地上にできた多くのクレーターを見て溜息をついた。


 アグウスさんに嘘をついたと誤解されて怒られて、お父さんにも怒られたらどうしよう……。

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