第32話 魔法が……使える!?

 進化したスラちゃんたちは強かった。うん。すごく強かった。


 東の森には子猪しか出ないが、さらに奥までいくとビッグボアが出現する。ビッグボアというのは、あの日、スラちゃんたちを多く亡くす原因となった大きい猪魔物のことだ。


 そして、本日――――


『スライム~フォ~ルアタックゥ~!』


 一匹のスラちゃんが空中からビッグボアに突っ込んでいく。金色に輝くスラちゃんがビッグボアの体を――――貫通した。


 ビッグボアは一声すら上げることなく、その場で倒れた。


「スラちゃんたちも強くなったわね~」


「一撃で仕留めるなんて、スラちゃんたちもやるわね~!」


 ビッグボアを倒したスラちゃんは、そのままソフィにやってきてなでなでをおねだりする。


 残りスラちゃんたちはビッグボアを村に運び、新しいスラちゃんたちが空からやってくる。


 それを何度か繰り返してお昼の時間になったので村に帰った。


 村に近付くにつれ不思議な光景が見えた。村から――――とんでもなく大きな白く淡い光が見えた。というより、村を抱きかかえるかのような光か?


 いや、微妙に動いたりするので、村にかけられたものではなさそうだ。


 その光の中心部に向かって向かってみる。


「お母さん?」


「あら~セシルちゃん~ビッグボアをこんなにも捕まえてきたの~」


「スラちゃんたちが進化してすごく強くなって捕まえるようになったんだ」


「そうなのね~こんなにいっぱい捕まえて、みんな大忙しになっちゃうわね~」


「でも最近元気みたいで、仕事もテキパキしてるよ? ほら」


 僕が指差した場所ではビッグボアやスモールボアを一瞬で解体する村民たちの姿が。彼らは、解体を生業にしてくれる村民たちで、『応援』もとい『激励』により、解体すればするほど強くなっていき、今では一瞬で解体をするようになった。


「うふふ。みんなセシルちゃんの応援のおかげだね~」


「それはそうと、お母さん? 一つ聞きたいことがあるんだけど……」


「うん? どうしたの?」


「えっと、お母さんが出しているひか――――」


 次の瞬間、一瞬で僕の口は手で止められ、慌てた様子で僕を強制的に抱き上げて、一目散に家の中に入っていった。


 大慌てでソファに僕を座らせると、僕と目線を合わせるように足を崩したお母さんがまっすぐ僕の目を見つめる。


「セ、セシルちゃん? 光ってどういうこと?」


「うん? お母さんからすごく出ている光って、不思議なだと思って」


「!? み、見えるの?」


「うん? うん。魔力操作が進化したら、みんなの魔力が見えるようになったんだ」


「そ、そんな!? 魔力操作が進化って…………魔力支配ってこと!?」


 さすがは歩く百科事典のお母さん!


「そうだよ~」


「…………」


 目を丸くしたお母さんは力が抜けたようにその場に座り込んで頭をがっくりと落とした。


「お母さん? な、なにかまずかった?」


「まずいってもんじゃないわよ~!」


 珍しく慌てたお母さんの姿にクスッと笑みがこぼれる。


「だ、だって……魔力支配って…………そんな……」


「? でもそんなに悪くもないよ? 魔力が見えるようになったり触れるようになったくらいだから」


「…………まさか、スラちゃんたちと繋がって……?」


「うん。繋がってるよ」


「…………それって…………セシルちゃんがスライム魔法を使えるってことなんだよね?」


 え……? スライム魔法……?


 僕はおもむろに自分の中にある魔力を使って『魔法』をイメージしてみる。


 イメージしたのは、いつもの――――スクリーンだ。


 僕の前に出たスクリーンには、お父さんの真っ青な顔が映っていた。


「お父さん、何か落ち込んでるみたい?」


「セシルちゃん? 落ち着きすぎじゃないかしら? いまはスライム魔法が使えたことを驚こう?」


「わ、わあ~スライム魔法が~使えた~」


「え~! うちのセシルちゃんがスライム魔法を使えるようになったの!? す、すごいわ!」


「…………」


「…………?」


 お母さん。本当に天使みたいな人だな。


「どうしてスライム魔法が使えたんだろう?」


「それはスラちゃんの魔力にセシルちゃんの魔力を足したから使えるようになったんだと思う。セシルちゃんはスライムじゃないけど、スライムしか持てない魔力だからこそ使える魔法だね。スキルはスラちゃんのスキルが魔力に溶け込んでいるから、それをセシルちゃんが使えるようになったんだと思うわ」


 ほぉ……自分にスキルがなくても、スキルを持つ人の魔力ならその人のスキルが使える……? いや、スキルというより、魔法か。なんとなく、魔法限定なのがわかる。だって、その人のスキルが全部使えるなら僕もスラちゃんたちのスキルが使えるはず。いまの僕はスラちゃんみたいな体にはなれないからね。


 あれ……? 魔法が…………使える? それってつまり――――


 僕はとある魔法を使って見せた。


「セシルちゃああああん!? そ、そんな魔法、お母さん知らないよ!? いや知ってるけど、スラちゃんたちは使えないはずだよ!?」


「うん。だってこれは――――」


 僕は窓を指差した。


「リア姉の魔法だから」


 目を丸くするお母さん。


 僕が使って見せたのは、リア姉の光魔法の一つだ。


 やっぱり光魔法って普通の才能じゃ使えないんだね。でもこれで僕も使えるようになったのは、いろいろ助かる部分が多い。


 そして、余ったもう片手にはソフィの火の魔法を浮かばせてみる。


 小さい火の玉だが、濃い赤色――――さしずめ紅蓮色とでも言える濃い色は威力も見た目以上に大爆発を起こすのだ。なのですぐ消した。


「魔力支配って……ダブルスペルもいけるの?」


「ダブルスペル? それはわからないけど、僕に繋がっている人の数分いけるかな? スラちゃんたちが千匹はいるから、魔法千個くらいなら同時に使えるかも? やってみ――――」


「だめ! 絶対にだめっ!」


 僕を止めるように僕をぎゅっと抱きしめるお母さん。


 困ったら抱きしめる癖は赤ちゃんの頃と変わらずに今もだ。


「お母さん? スラちゃんたち強くなったから、東の森じゃなくて北に行ってきてもいい? 僕たちはスラちゃんに乗って空の上から見るだけにするから」


「戦わない?」


「上から魔法を撃つだけ~」


「約束できるならいいわ。スラちゃんたちが危なくなっても、向かうんじゃなくてこちらに逃げてくるのよ?」


「うん!」


 お母さんのおかげで魔法についていろいろ知ることができてよかった。これで僕も――――スライム魔法と教皇魔法、賢者魔法が使えるようになった!


 …………。


 …………。


 あれ? そういや、お母さんの光がとんでもない大きさな理由は教えてもらえなかった。


 まあいっか~。


 僕は窓の外からものすごい怖い目で睨んでいるリア姉とソフィとともに、スラちゃんに乗って北の森に入った。


 強力な魔物のオーク。


 そんなはずだったオークだったが、空を覆う五百匹のスラちゃんたちと、僕とソフィによる魔法迎撃によって、一瞬で殲滅された。


 これなら――――マイルちゃんにあれを提案できそうだ。

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