第51話 スラム街開発終了

「セシル?」


「お兄ちゃん?」


「セシルくん……?」


 三人娘は目を細めて僕が手に取った物を見つめた。


「あはは……偶然だよ?」


「偶然でどうしてこんなにレア薬草が取れるの!」「取れるの!」


 リア姉とソフィが両手を腰に当てて声を上げる。相変わらずのソフィのオウム返しが可愛らしい。


 薬草採取を楽しんでいたけど、思っていたよりも楽しくて何度も採取をおこなった。すると大体一割くらいの確率でレア薬草になった。


 多分だけど、新しく獲得したスキルのおかげみたいだ。


 そのとき、少し離れた場所から魔物の気配がした。


 現れた魔物は、四十センチくらいの大きなネズミ。赤い目と鋭い牙は、子どもたちには脅威なのは間違いない。


 子どもたちを守っていたスラちゃんが一匹飛んでいき、一瞬でネズミ型魔物に体をぶつける。


 バーンと大きな音が聞こえたわりには、ネズミは吹き飛ぶこともなく、そのまま力なくその場で倒れた。


 ネズミをそのまま体の中に入れて保管して、また守っていた子どもたちに戻っていく。


 エデン村でもこうしてるけど、一人一匹のスラちゃんを与えているのは、こういう危険がある森でも護衛ができるから。移動するときも空を飛べば速いからね。


「セシルさま。スラちゃんたちが守ってくれて、安全に薬草採取ができます。本当にありがとうございます」


「ううん。こちらこそだよ。だって、この薬草って使い道がたくさんあるから、アネモネ商会もすごく欲しがっていたから。ね?」


「うん! このままだと弱いけど、粉末にして木の実の粉末と混ぜると傷薬になるから、すごく重宝するよ~」


「ほらね? だから、これからもよろしくね。アベルくん」


「はいっ! ご期待に応えられるように頑張ります!」


 他の子どもたちからも熱いまなざしを感じた。



 ◆



 採取を終えて、敷地に戻ると――――そこは以前のようなスラム街とはまるで違う姿に生まれ変わっていた。


 土は綺麗に踏み固められていて、敷地の手前にはこれからアネモネ商会が商売をする建物がいくつも並んでおり、店となる店舗は白色の塗装がされて目立っており、そこから後ろには倉庫が続いている。


 さらにそこから後ろにはブリュンヒルド家の屋敷や使用人達の宿舎が並んでいて、小さな村のように見えるほどだ。


「すげぇ~! いろんなものが建ってるぜ!」


 アベルくんが興奮したように声を上げて、子どもたちと目を輝かせて新たな我が家を見つめる。


 店舗の中から僕たちに気付いたのか、エイラさんが足早にやってきた。


「セシルさま。おかえりなさいませ」


「ただいま。エイラさん。進捗は……聞くまでもなく順調のようだね」


「はい。スラちゃんたちが頑張ってくれて、使用人たちも一丸になって力を合わせて進めております。一度休憩になさいますか?」


「みんなが休憩に入るけど、僕は中を回りたいかな」


「かしこまりました。では店舗内で少々お待ちください。私は皆さんを休憩場に案内致します」


「よろしくね~」


 子どもたちは使用人たちの休憩場へ、リア姉たち三人娘は屋敷の方に案内される。ここまでは歩きだったけど、敷地が広いのもあって、みんなスラちゃんに乗り込んで空を飛んでいく。


 やっぱりスラちゃんに乗って移動すると時間も短縮できていいよね。


 王都でもスラちゃんたちで飛べるようにしてもらえないかな? まだ許可が出てないから、王都の空を自由に飛んだり、スラちゃんに跨って移動するのはダメと言われている。


 店舗に入ると、壁も白く、全体的に綺麗さが目立つ白に統一されていて、中にいるだけでとても心が和らぐ。


 お店の中央には長いショーケースが並んでおり、それぞれ会計ができるようになっている。ショーケースの中に商品と値札が並んでいて、お客様はショーケースの中を見て注文をし、お金を支払って商品を受け取る仕組みだ。


 これはこの世界の仕組みと一緒だ。


 前世ではコンビニのように自分の手で商品を取って籠に入れて、カウンターまで持っていくのが常識だったけど、この世界はそこまで商品数が多くないので、基本はカウンターの外から商品を眺めて口頭で伝えるやり方を取っている。


 ショーケースの硝子は、意外にも簡単に作れて、そういう特殊な木の実があるのだとか。これもシリウス商会から仕入れたものだ。


 シリウス商会はこういう家具だったり、日用品などの雑貨を扱っているから、とても助かった。


 お客様の待合椅子に座って周りを眺める。入口から入ってすぐに番号札があって、それを取ると番号順に呼ばれて、カウンターで買い物ができる。


 どんな商品が売っているかは、実は中に入らなくても外からでも見えるように展示されている。これも前世のアイデアで作った展示スペースだ。


 外からは硝子越しで見るしかできないので盗まれる危険もない。内側からは鍵が掛けられているから、堂々と盗むこともできない。それに守りには最強の守り手がいるから心配ない。


「お待たせしました。セシルさま。これから中をご案内いたします」


 いつの間にエイラさんが戻ってきて、店舗内を案内してくれる。


 カウンターの中では、接客店員がメモを取り、後ろに待機している在庫管理の者に渡すと、在庫から商品を集めて持って来てくれる。このとき、お客様が取った番号札をそのまま持ってもらい、商品を準備している間に待合椅子で待ってもらう。


 すると商品を在庫や倉庫から集めてきた店員がお客様の番号札と交換する仕組みになるのだ。


 もちろん大口購入もできるので、そのときは裏口で受け取るように案内したりする。余談だけど、王都内大口購入の場合のみ運びはうちのスラちゃんたちが対応してくれるサービスもある。


 店舗から繋がってる倉庫に向かう。外から入れないようにしてるのは、お客様が間違って入ったりしないようにするため。


 倉庫は非常に大きい代わりに、店に繋がっている通路以外では大きな入口が一つだけだ。多すぎても管理できないからね。


 もちろん護衛はスラちゃんたちがいるから、盗人や強盗の心配はないけど、念には念をいれての作りだ。


 大きな入口から外にでると、塀が建てられていて、内側に入れないようになってる。内側は使用人達の宿舎やうちの屋敷がある敷地だからだ。


 まだまだ使ってない敷地の空き地が多いのは、いずれここが人気なところになったら、どんどん開発ができるようにするためだ。急いで何かを建てなくてもいい。今はここで利益を出しながら王都に根付くのが先決だ。


「セシルさま。さっそく明日から練習を兼ねて、短時間の開店となるようです。オルタさまが指揮なさるようですよ」


「そうなんだ。じゃあ、明日はおじさんの頑張りを見守ろうか~屋敷はどんな感じなの?」


「はい。屋敷もとても順調です。ただ……まだ少し慣れないメイドたちもいるので、どうかご容赦くださいませ」


「うん。大丈夫。最初からみんな上手くなくていい。少しずつ練習していこう」


「ありがとうございます」


 店舗を見終えて屋敷に向かった。

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