第23話 ニーア街……到着

 総勢三十人。武装した盗賊たちはスラちゃんたちに一瞬で制圧されて、逃げ出す盗賊たちも全員捕まえた。


 スラちゃんは体を大きくできるだけでなく形を変えることもできる。


 今は体を伸ばして身動きが取れないように体をぐる巻きにしている。


 これって何かに応用できそうなので覚えておこう。


「おじさん。人数がずいぶんと多いですね?」


「そうだな――――こいつら、おそらく本隊がいそうだ」


「本隊……ですか?」


「ああ。おそらくここら辺の山のどこかにいそうだ」


 おじさんは何かを考え込むが、それから何も話してくれなかった。


 盗賊たちはスラちゃんたちが拘束したまま、次の街に向かって進んだ。


 数時間後、盗賊たちが目を覚ましたが、全員喋れないように口に布やらを入れて縄でしばってるし、手足も縄でしばってるし、スラちゃんたちが体を拘束していて誰一人身動きも声も出せずに現状を受け入れて肩を落としていた。


 その日の夜。


 おじさんは盗賊のリーダーと思われる男にいくつか質問をした。首を縦か横に振るだけの質問をいくつかしたけど、男は一向に答えなかった。




 二日後。


 盗賊と荷物を抱えた大量のスライムたちが進む光景は、とても不思議で異世界らしいといえば異世界らしいかもしれない。


「あれがニーア街だぞ」


「すごい~! 大きい~!」


「くっくっ。やっぱり子どもみたいな反応だな」


「え? 僕、子どもですよ?」


「…………そうだった。お前と話していると子どもっぽく感じないからな。忘れてたわ」


 失礼な! これでもれっきとした六歳だぞ! 体は。


 ニーア街に近付いていくと、前方から大勢の兵士がやってくる。


 おじさんは戦う意志がないことを表明するかのように両手を上げてその場に止まった。


「失礼する。我々はイグライ――――オルタ様!?」


「よ、よっ。久しぶりだな。いや、お久しぶりです」


「敬語なんてやめてください。我々は――――」


「あーあーそ、そんなことはどうでもよくて、それよりこちらの盗賊たちを引き取ってほしい」


 おじさん。兵士さんたちと知り合いなのかな?


「なるほど。わかりました。調書の件もあるので、我々と一緒に来ていただけますか?」


「ああ」


 兵士さんが軽く敬礼をしてニーア街に向かう。


 おじさんは少し気まずそうな表情でその後を追いかけた。




 ニーア街は僕が想像していたよりもずっと発展している街で、うちの村もアデランス町も高い建物なんて全然ないのに、外からでも見えるくらい高い建物がある。


 むしろ二階建てなんて普通で、三階建てから五階建てのビルのような建物が非常に多い。


 リア姉から、村にはいないけど、魔法を使って建物を建てる『建築魔法士』なんてものがあるらしい。


 大通りを兵士さん先頭に歩いていくと、大勢の住民たちがこちらを興味ありげに見つめていた。


 そりゃそうだよね。大量の人たちがスライムに拘束されている様は中々見るものじゃないと思うから。


「ママ~! 可愛い~!」


 道沿いからスラちゃんを指差して微笑む子どもの姿と「そうね」と微笑む母の姿が見えた。


 ふっふっふっ……! うちのスラちゃんたちは可愛いんだから、存分に癒されるといいっ!


 ニーア街はかなり広くて、基本的に中を馬車で移動するとのことだけど、盗賊たちの件があるからそのまま歩いて高台に見える大きな城を目指す。


 大きな街には王国を象徴するかのように城が建てられて、領主様が住んでいるという。


 うちの村はまだ小さいからただのお家だけど、それでも村では一番大きいからね。


 けっこう長い大通りを進み、体感で一時間は歩いてようやく城に着いた。


 すぐに兵士さんたちに盗賊たちを引き渡して、スラちゃんたちは城の脇にある庭に集められ、武装した兵士たちに見張られる。


 おじさんはさっきの兵士さんと一緒に中に入ったが、僕(スラちゃん)は中に入れてもらえなかった。


 スクリーンを映している指揮スラちゃんにお願いして、兵士さんに近付いてきてもらった。


 すぐに身構える兵士さんたち。


「こんにちは~」


「は!? スライムが喋った!?」


「僕は悪いスライムじゃないですよ~お話しましょう~」


「…………悪い者は自ら悪いとは言わないと思うが?」


「え~でもさっきの盗賊たちは自分たちが悪者だ~って言ってましたよ?」


「……う、うむ。それもそうだな」


「ニーア街についていろいろ教えてください~」


「スライムなのにずいぶんと賢いな?」


「こういう珍しいスライムだっているんですよ~」


「……世界って広いんだな」


 うん。それは僕の台詞だけどね。


 それから兵士さんにニーア街や王国の南部のことをいろいろたくさん聞けた。


 最初こそ警戒していたけど、スラちゃんたちの愛くるしい姿に段々と表情が緩んで、そのうちスラちゃんたちを抱っこまでしてくれたりした。


 イグライアンス王国は珍しく王都が国土の中央に存在しており、そこから東西南北に大きく四つに分かれている。


 僕が住んでいる村やアデランス町、二―ア町は王国南部に位置する。


 王国南部の中でも一番大きな街は、ここニーア街だ。


 ここからさらに南だと、アデランス町とうちの村があるけど、うちの村のことを知っている兵士さんは誰もいなかった。どちらかといえば、アデランス町という超田舎だけが印象みたい。


 ここら辺一帯を牛耳っているのが――――クザラ商会だということも知った。

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