第10話 ありがとう

「お……おぉ…………」


 お父さんは口を大きく開いて、山積みになっている子猪を見上げた。


「セシルや? これはいったい……?」


「あはは……リア姉とソフィが張り切ってしまって……」


「あは……はは…………はぁ……まだ幼いのに……」


「お父さん? 才能があるってこんなにすごいものなの?」


「いや。それはたぶんないな」


「えっ?」


 意外にも言い切ったお父さんに驚いた。


「俺はいままで多くの才能を持った子を見てきたさ。もちろん、ノアたちもそうだが、王都でも有数の才能を持つ人々を見てきたが……ここまで強い才能は見たことがない。例え……最高才能である『剣聖』や『賢者』であったとしても、この成果はあまりにも高すぎる」


 お父さんの視線が今度はノア兄さんたちに向く。


「リアちゃんとソフィちゃんがすごいのもあるが、ノアたちも十分すぎるほど強い。それについて一つ気がかりがあるのだ」


「気がかり……?」


 不思議そうな表情を浮かべたお父さんは――――


「どうしてか、ノアたちの動きがだな…………去年から急に・・・・・・強くなった。それが不思議で仕方がない」


 去年…………? 去年? 去年から!?


 …………。


 …………。


 まさかああああああ!?


 そのとき、お父さんと目があった。


 あ…………。


「セシル」


「う、うん?」


「ちょ~っと来てもらっていいかな?」


「え、えっ? い、い、いいよ?」


 にこやかに笑うお父さんの表情の奥に『わかるよね?』という無言の圧を感じた。


 さらにそれを察知したのか、お母さんも一緒についてきて、家の中に入った。


 ソファに座り、僕の前の床にお父さんとお母さんが座り込み、ちょうど目の高さが合った。


「セシル。何かわけを知っていそうだな」


 僕は小さく頷いてみせた。


 二人とも少しだけ呆れた(?)ような表情で溜息をはいた。


 い、いや……僕だって悪いことはしてないよ!?


「えっと…………前にも少しだけ話したけど、スキルを獲得しているって話したよね?」


 お父さんお母さんは大きく頷いた。


 魔力操作をリア姉に教えて、あれからリア姉は努力を続けて、魔力操作スキルを獲得した。


 これでわかったのは、スキルを獲得する方法は何もレベルだけじゃないってことがわかった。


 お母さんはリア姉の師匠として魔法を教えていて、魔力操作を覚えたことに大いに驚いていたけど、あの時は何も話さなかった。


「一年前に僕が覚えた変なスキルがあって、それをみんなに使ってあげてたんだ」


「そ、それはどんなスキルなんだ……?」


「えっと、『応援』というスキルだよ?」


 お父さんとお母さんが顔を合わせてポカーンとなる。


「ミラ? 聞いたことあるかい?」


「いえ……私でも知らないスキルがあったのに驚きましたわ」


 そういや、うちのお母さんの不思議なのは、豊富すぎる知識量だ。スキルから魔法、魔物の情報やらあらゆる知識を持っているのがすごい。


 あれかな? 知識オタク的なものかな? 家の一角には図書館にも似た場所があり、難しい本がたくさんあったりして、僕たちが勉強するとなると参考書を出してくれるのも大助かりだもんな。


「名前が『応援』なんだから、応援するスキルなんだろうけど……」


「ミラ。それかもしれない」


「えっ……? 応援するのが……ですか?」


「ほら、ミラに応援されると俺は何でもできる気がする」


「貴方……」


「ミラ……」


 …………おいっ! 息子の前だぞ! イチャイチャを見せつけるなっ!


「こほん」


「「!?」」


 顔を赤らめていた二人は急いでお互いの視線を外した。


 そりゃ……子供が六人もいるんだから、二人がお互いのことをどれだけ好きなのかくらい知ってるよ。たまに口を重ねているところを見かけることもある。


 …………彼女か。ふっ…………うわああああ!


 ぼ、僕は六歳児だから! 精神的には違うけども!


 この世界なら僕もいつか彼女ができたり恋人ができたりするのかな? 前世では毎日仕事ばかりだったが…………あれ? 今でも毎日スラちゃんたちにご飯をあげているだ……け?


 …………。


 …………。


 いや、きっと大丈夫だ。異世界だもの。また過労死なんてするものかっ!


「やっぱりセシルちゃんの応援スキルのおかげだと見て間違いなさそうですわね」


「ああ。去年のノアも十分強かった。ジャックも才能はあるが…………たった一年で、去年のノアよりも強くなってる。間違いなくセシルのおかげだと思うべきだな」


「あれ~? でも……」


「「でも」」


「僕、応援って――――お父さんお母さん村民たちスラちゃんたちにも使ってるよ?」


「それかあああああ! だからスラちゃんたちがああなるのかああああ!!」


 お父さんが目を大きく見開いて大声をあげた。


「あれ? そういや……今年やけに力が湧くのって…………狩りの時間が減ったからではないのか」


「そうですわね。私も無性に魔法が使いたくなってますわ」


 あはは…………これ以上弟妹が増えないことを祈りながら、そっと二人にまた『応援』を掛け直した。


「あ~セシルちゃん?」


「は~い」


「スキルの熟練度というものがあるでしょう? 数字みたいなの」


「うん!」


「それは数字が上がれば上がるほどにスキルが強くなっていくの。最大値になれば、次のスキルに進化したりもするので、スキルはたくさん使うといいわよ。でも一度に1しか上がらないし、長い時間をかけて進化させるものだから、気長に頑張ってね!」


「は~い!」


 そっか。スキルって進化するんだな。


 そろそろ『スライム使い』が最大になるし、どう進化するのか楽しみだね。


 あれ? そういや、『進化』というスキルは数字がなくてコンプリートってなってるから、強くなることもなく、進化することもないってことか。


 それにまだ『進化』って試したことなかったな。これから試してみようかな~。


 窓からすごい目付きでこちらを見つめているリア姉とソフィ。


「お父さんお母さん! 僕、みんなと約束があるからそろそろ行くね?」


「あ、ああ」


 家から出ようとした時――――


「セシル!」


「は~い? どうしたの? お父さん」


「村を預かってる領主として、ありがとう。セシルのおかげで村民たちの生活がよくなった。これからもよろしく頼む」


 あまりにも意外なことに驚いた。


 異世界にくるまで、誰かに「仕事頑張ったな」とか「よくやった」と言われたこともなく、「ありがとう」なんてもってのほかだ。


 でも――――それはお父さんお母さんが愛情を込めて僕たちを育ててくれたから。僕がみんなを守りたいと思ったのは、他でもなく二人の背中を見てきたからだ。


 村で一番偉いはずなのに、誰よりも働いて、子供の面倒を見て、朝から晩まで汗を流して働くその姿。


 前世の自分にも似ているが、なにより二人はいつも――――笑顔だった。


 その笑顔に僕の荒んだ心はすぐに癒され、頑張りたいと思えた。だから赤ちゃんの頃から日々魔力操作をやってきたし、こうしてスラちゃんたちとも仲良くできたと思う。


「お父さんお母さん」


「「うん?」」


「こちらこそだよ! いつも僕たちと領民たちのために――――ありがとうね!」


 ポカーンとなった二人を残して、僕は待っているリア姉とソフィのもとに走った。

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