書籍一巻発売日記念SS。みんなで遠足
「セシルちゃ~ん。準備できたわよ~」
嬉しそうなお母さんの声に頬が緩む。
普段から明るいお母さんだけど、今日は一段と明るくて楽しみにしていたのが声から伝わってくる。
家から出てくるお母さんの後ろには、スラちゃん達が大事そうに箱を抱えていた。
「とても楽しみね~」
「うん! さっそく行こう~!」
僕とリア姉、ソフィ、マイルちゃん、お兄ちゃんたち、お父さん、おじさんが待っている中にお母さんも合流して、僕たちはスラちゃんに乗り込んで空を飛んだ。
向かうのは――――エデン村の東にある湖だ。
ここは元々スイレンちゃんが捕まっていた場所。
彼女は今も僕の背中に鞄のようにくっついていて、ときおり僕の肩から顔を出しては周りをキョロキョロと見つめたりする。
最初こそ、お父さんとお母さんは困ったようにスイレンちゃんを見ていたし、スイレンちゃんも同じ感じだったけど、今では頭を撫でてくれるようになった。
スラちゃんたちが先に家や村に住み着いてくれたおかげで、魔物に対する嫌悪感のようなものはなくなったのかもしれない。
それにスラちゃんたちはとても働き者で、スイレンちゃんも喋れるからと、スラちゃんたちの声を代弁してくれたりするし、村の人たちに大人気でもある。
湖の中央に作られた芝生が生えた島に降り立つ。
これは今日のためにオークルやブルーにお願いして作ってもらった場所だ。
「わあ~! 綺麗だわ!」
珍しく、誰よりも先にお母さんが声を上げる。
それくらい今日を楽しみにしていたんだね。
島は僕たちが走り回っても大丈夫なくらいの広さに作られている。
むしろ、ここに別荘を建ててもいいかもしれない。
一応、湖の周りには強力な魔物が現れるため、常にスラちゃんたちが護衛をしてくれている。
ナンバーズや七つのスライムたちが手分けして魔物を狩ってくれている。
空を飛んできたスラちゃんが森の中に入って素材を持ち運んでいくのは、ナンバーズたちが倒してくれた証だ。
それからはみんなでのんびりと景色を楽しみながら時間を過ごす。
「靴を脱いで歩くなんて、すごく久しぶりだわ」
芝生には石一つなく、ふかふかの土と芝生があるので、みんな靴を脱いでいる。しかも足が汚れない特殊な土なので、シートに上がってきてもいっさい汚れない。
リア姉、ソフィ、マイルちゃんは水辺のところで、足を水に入れたりしながらキャッキャウフフなことをしていて、お父さんとおじさんはボールを投げ合っている。
これは僕が教えたキャッチボールだね。
最近、村でも流行りつつあるけど、身体能力が同じくらいの人同士じゃないと、つまらないかもね。
お兄ちゃんたちはスイレンちゃんのお話に夢中になっている。
「昔ね。海に行ったことがあるのよ」
「海! たしか、お母さんが住んでいたところの近くだったよね?」
「そうね。馬車じゃないといけない距離だったけど、スラちゃんならひとっ飛びで行けそうね」
前世でも海は見たことがあるけど……それは幼い頃だけだった。仕事をするようになってからはほとんど行けてないな。いつも山ばかりだったし。
今世は海なんて遠すぎて行けないのよね。
「僕も海に行ってみたい!」
「ふふっ。セシルちゃんなら……どこまでも羽ばたいていけるわ」
少しだけ寂しそうな目をしながら、空を見上げる母。
「お母さんだって、いつでも行けるよ? スラちゃんがいるし!」
「そ、そうね。とても楽しみにしているわ」
「またみんなでこうして海にも行こうよ」
「ええ」
お母さんは手を伸ばしてくれて、俺の頭を優しく撫でてくれる。
少しくすぐったいけど、これもずいぶん慣れてきた。
それからは、みんなとたくさん遊んだ。
そして、お待ちかねの、みんなで食事タイム~!
お母さんが朝から作ってくれた弁当がずらりと並ぶ。
「さあ、みんな。召し上がれ~」
「「「「いただきます!!」」」」
お母さんのご飯が美味しいのは知ってるけど、口に入れるとやっぱり美味しくて頬がまた緩んでしまう。
「おいひ~」
「うふふ。まだたくさんあるからね?」
僕たちは美味しいご飯を食べながら、自然いっぱいの絶景を楽しみつつ、楽しい一日を過ごした。
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