第56話 謁見
イグライアンス王国の王城。
スラム街の一件であまり見えてなかったけど、王都はすごく発達していて、夜も魔道具によって明るく照らされているくらいだ。
その中心となってる王城は当然のように多くの最新式の魔道具や調度品が並んでいた。
僕とリア姉、ソフィの三人はアグウスさんとヘインさんに連れられ、王城の入場路と呼ばれている色とりどりの石で作られた通路を歩いていく。
メイドさん達も多く、巡回しているのか兵士の姿もよく見えた。
真っすぐ続いていた通路の先に大きな門の扉が開いており、中に多くの人が並んでいるのが見える。さらにその先の高台には高級感溢れる玉座があり、一人の若い男性が座っていた。
お父さんよりも少し若いかな?
中に入るとき「アグウス・シサリウス伯爵~。ヘイン・ルサリオ伯爵~」と兵士さんが声を上げた。
二人とも伯爵様だったの!? それなら早く言ってよ!
多くの貴族に見られながら二人の後ろを追いかけて高台の前に着くと、二人が跪いたので僕達もそれを真似て跪く。
「面を上げよ」
「「ははっ」」
二人は一緒に跪いたまま顔を上げた。
やっぱり玉座に座っている人って若いね。
「シサリウス伯爵。報告を」
「ははっ。ディーアル山脈から起きた魔物の行進は、どういうわけか真っすぐ王都に向かって森を突き進んでおりました」
周りの人達から驚く声が上がる。
「そこで最近王都にやってきたブリュンヒルド子爵のご子息達のおかげで迅速に対応できて、魔物の行進を止めることに成功しました」
後ろの貴族の方から小さい声で「ブリュンヒルド子爵って聞いたことあるか?」「いや、初めて聞くな。どこか田舎の貴族なんじゃないか?」と聞こえてくる。
うちって超辺境貴族だからね。やっぱり知ってる人の方が少ないよね。
そういえば、アグウスさんはお父さんお母さんを知っていたけど、ヘインは知らないみたいだし、王様も知らないのかな?
そのとき、後ろから嫌みたっぷりの声が聞こえてきた。
「そんな子供達の力を借りないと満足に戦えないなんて、王国を代表する飛竜騎士団と魔導師団の名が笑えますな!」
声がする方に顔を向けると、そこにはデ――――ごほん。ふくよかな体の、高そうな服と貴金属を身につけたおじさんが、ニヤケ顔で僕を見下ろしていた。
「それにこんな礼儀も知らぬ子供なのだ」
と言いながら僕を指差すと、周りの貴族達が一斉に大声で笑った。
確かによく見たら、リア姉もソフィもアグウスさんもヘインさんも跪いて王様を見たままにしてる。
王城マナーなんて学んでないから、振り向いたらダメだって知らなかったよ!
でも……。
「あの? ――――王様の前でそんなに大声で笑う方がおかしくないですか?」
僕がそう話すと、前方から「クスッ」と笑う声が小さく聞こえてきた。
他にも周りの貴族で笑いを我慢する者も多く、その様子にふくよかなおじさんの顔が真っ赤に染まる。
「えっと、王様、許可なく喋って大変失礼しました~」
そう話すと、必死に笑いを我慢する王様の顔が見えた。
空気を換えるかのように、アグウスさんが一つ大きく咳払いをした。
「ごほん。陛下。こちらのご子息ですが、世にも珍しいテイマーでして、彼らの力を借りることで魔物の行進に迅速な対応ができました。彼らに恩赦を与えるべきかと進言致します」
「テイマーか。どんなテイマーだ?」
「スライムです」
「…………シサリウス伯爵?」
「本当です。一度見て頂ければと思います」
「……いいだろう」
するとアグウスさんが顔を僕に向けて「スライムを」と声を掛けてくれた。
リア姉とソフィと一緒に立ち上がり、僕のポケットから最小化したスラちゃん達を取り出す。僕はブルーとグリーン。リア姉がオークル、ソフィがイエローだ。
「ブルー、いつものサイズになって」
いつもの僕の頭くらいのサイズに変化したブルー達に、周りからは驚く声が聞こえる。
それと同時に王様の隣に立っていた強そうな騎士さん二人が王様の前に立った。
「ご心配なく。このアグウス・シサリウス伯爵が安全を保障致します。では今回力を借りた姿をお見せ致しましょう」
「ブルー、乗れるサイズになって」
するといつも僕達が乗って移動するときの大きなサイズに変わった。
僕とリア姉とソフィがそれぞれ乗り込み、いつも通りに少し宙に浮いた。
「スライムが空を飛んだ!?」
「そんなバカな!」
「空を飛ぶスライムなんて聞いたことがないぞ!」
と後ろに立っていた人達が口にする。
「最近スラム街で空飛ぶスライムが見えていたと聞いているが、まさかそのスライム達では?」
「あれは平民の噂だったんじゃないのか?」
「いや、茶会である男爵が実際見たと言っていたぞ」
どんどんエスカレートしていき、謁見の間が騒がしくなった。
「沈まれ!」
アグウスさんの声に、謁見の間がまた静寂に包まれた。
「陛下。御覧の通り、彼のスライムのおかげで魔導師団を速やかに派遣できました。飛竜騎士団だけでは大きな犠牲を伴ったでしょう。ですが、魔導師団の力もあり、今回の魔物の行進は犠牲一つ出さずに済みました」
「それは素晴らしい」
王様は飛んでいる僕を興味ありげにずっと見つめていた。
「名を何という?」
「セシル・ブリュンヒルドと申します」
「姉のリア・ブリュンヒルドでございます」
「妹のソフィ・ブリュンヒルドでございます」
スラちゃんに乗ったまま挨拶して無礼だと怒られそうだけど、誰も何も言わないからいいか。
「その名、覚えておこう。では、今回の活躍に褒美を与えよう。何か欲しい褒美はあるか? 何でも言ってみるといい」
「本当ですか! それなら――僕のスラちゃん達が王都の空を自由に飛べる権利をください!」
「空を自由に飛べる権利? 今は飛べないのか?」
「飛竜騎士団の皆さんの迷惑になるといけないので、うちの敷地内だけで歩いてて、王都では歩いているのですが、空が飛べるとすごく便利なので!」
「ふむ……いいだろう。そもそも空を飛ぶスライムなんて聞いた事も見た事もない。ではこれから、空飛ぶスライムはイグライアンス王国内を自由に行き来できる権利を与える! 飛竜騎士団及び各町や貴族に通達せよ!」
「「「「ははっ!」」」」
ええええ!? 王都だけじゃなくて王国内!?
ふと見えたアグウスさんの口元は、口角が少し上がっていた。
「「ありがとうございます。陛下」」
リア姉とソフィがスライムの上から優雅に挨拶をした。
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