第41話 家族……じゃないよ‼
「本日よりセシル様の従魔となりましたスイレンと申します。これからよしなに」
「貴方」
「は、はい?」
「さっき、うちのセシルを――――ドラ息子なんて言ったわね?」
「ひい!? ご、ごめんなさい! そ、そんなことありませんの!」
黒い狐――――スイレンの封印は僕に繋がり従魔となった。
今はリア姉に見下ろされておどおどしていて可愛い。
「スイレン~また毛並みを白くできる?」
「はい! 仰せのままに!」
一瞬で毛並みが黒から白に変わった。
「「可愛い~」」
リア姉とソフィはスイレンの背中を擦ったり、頭を撫でたりする。
うちの番犬ならぬ番狐になってくれたらいいな。
「…………ミラ。これは夢じゃないよな?」
「そんなはずないですよ……私はこの肌でしっかり感じましたから」
「そっか……セシルには驚かされるばかりだが、これは予想だにしなかったな」
「私もですわ。川を引きに行って、まさか湖の中に入るなんて思いもしませんでした」
お父さんとお母さんが何かを話しているけど、そろそろ川を引かないと日が暮れてしまいそうだ。
「みんな~そろそろ川を村まで引かないと日が暮れてしまうよ~」
みんなが僕を見つめる。
「セシルのせいなのでは?」「お兄ちゃんのせいなのでは?」「「セシルがやったのに……?」」『ご主人様のせいだぜ……?』「主……」
…………。
「僕をそんなトラブルメーカーみたいな目で見ないでぇええええ~!」
湖の中から飛び出て上空に上がると、湖に穴を空けてくれたスローくんの魔法を解く。水は勢いよく空白となった部分に落ちていった。
「あれ? このまま水が氾濫したりしない?」
『大丈夫だぜ! 僕ちんがいるから!』
今度はブルーが何かの魔法を使うと、湖の水は反乱することなく、静かに元の状態へ戻った。
「…………主? そのスライムは何なのだ?」
「あ~僕の従魔たちだよ~」
「…………このスライム全部をか?」
「そうだけど?」
「…………はあ」
その溜息はなんだろう?
『ご主人様。これからオークルと一緒に川を引くぜ!』
「うん! 任せた! オークルもよろしくね。ワンたちとラスたちも二人を守ってね」
『かしこまりました』
『……ふん!』
ラスは七つのスライムたちのリーダーを任せられている。常に何かに怒っていて口は悪いけど、誰よりも仲間想いの心優しいリーダースライムだ。
ちなみに、ここにいる22匹の特殊スライムたちの中で最強だとみんなが口をそろえていう。
みんな湖から村までの方向に飛んでいき、最初にオークルが何かの魔法を唱える。
すると、湖の面の土がボコボコと動いて水路を作り始めた。
そこにブルーの魔法で優しく水を流し始めると、まるで水で作られた蛇が土を食べながら進んでいるかのような光景が広がる。
…………ミミズって言ったらダメだよ?
土が動く音が気持ちよく森に響くと、それを聞きつけた魔物が群れがってくる。
それらを二十匹の特殊スラちゃんたちが殲滅していく。
スライ戦隊の属性魔法、七つのスライムの特殊な魔法、ナンバーズの武器魔法がそれぞれ色とりどりで輝く。
倒した魔物は他のスラちゃんたちが次々運んでいく。
「セ、セシル……?」
「あい?」
「あの魔物の素材って……どうするんだ?」
「え? ――――売る?」
「…………」
お父さんはどこか空の遠くを眺めて長くて大きな溜息を一つ吐いた。
「これは全部領地の収入にしよう!」
「それだけはやめろ!」
「え~」
「え~じゃない! これはセシルの個人財産にしなさい! これは親としての初めての命令です!」
「え~!」
「え~じゃない!!」
「むぅ……」
「それと、勝手に家にお金を入れるんじゃないぞ? 絶対だからな!」
あ……バレた。
全額ノア兄さんを通して家に入れようとしたのに…………くっ!
そのとき、僕の担当をしてくれるスラちゃんがスクリーンを開いた。
「セシルくん~!?」
マイルちゃんは驚いた表情でスクリーンいっぱいに映っている。うん。可愛い。
「高そうな素材がいっぱい届いてるよ~!?」
「あはは~森の魔物が多くて、スラちゃんたちが張り切ってて!」
「川を作りに行ったんじゃないの?」
「その音で魔物が大量にやってくるんだよ。ほら、聞こえるでしょう? ごごごご~って」
「本当に聞こえるんだね」
「ほら~」
スクリーンを地面に向けると、マイルちゃんの「わあ~すごい~!」って聞こえる。
「その素材は全部いい感じで売ってくれる? お父さんから僕の財産にしなさいって言われちゃってさ」
「え~! これ全部セシルくんの財産になるの?」
「そうだね。お父さんが受け取らないっていうし、家のために使うなって言われて、たぶん怒られちゃうから……」
「ふふっ。ルーク様も困ってるんだね~」
「え~マイルちゃんも僕をトラブルメーカーみたいに言わないでよ~」
「えへへ~じゃあ、こちらの素材も全て売った額を戻す形でいい?」
「うん! よろしく頼むよ!」
「わかった! 任せておいて! それと、素材が多すぎてニーア街だけでは捌ききれなくて、王都とかにも持って行きたいんだけど、スラちゃんたちの力を借りてもいい?」
「もちろんだよ。それなら――――アネモネ商会専属のスラちゃん隊を作ろうか!」
「いいの?」
「もちろん! マイルちゃんだって――――もう家族だし」
「「「!?」」」
僕の両肩をぐいっと握り絞めるものがあった。
「セシル?」「お兄ちゃん?」
「「家族にした覚えはまだないけど……?」」
「あ、あはは……う、うん。ご、ごめん。まだ家族じゃなかったね」
「「「まだ?」」」
肩を握る手にもっと力が入れられる。
「んも! マイルちゃんだってうちのブリュンヒルド家のために頑張ってくれるから! 家族みたいなもんでしょう?」
「「「全然違うよ!!」」」
「ち、違うのか……」
まさかマイルちゃんからも拒否されるとは思いもしなかった。辛い…………。
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