第8話 スライムは……成長する!?

 『騎士』


 自らの剣で敵を打ち砕き、愛する家族や民を守る気高きその姿は多くの子供が憧れる職業である。


 『バイコーン』


 それは馬型魔物の一種でありながら、非常に賢く、丈夫で長距離移動、短距離移動でも大活躍する魔物であり、全身が黒いという特徴ももっている。


 彼らは餌をくれる人を主と認識するため、全世界中で人々と共存している。


 そういうことも相まって、多くの騎士はバイコーンに乗り込み駆け巡り、多くの子供達に安心と夢と希望を与えているという。




 そんな中、とある村ではバイコーンよりも速く走れるものに乗り込んで走る――――子供たちが大人気である!




「わ~い! たの――――」


 一瞬で駆け抜けたソフィの声が聞こえなくなってしまった。


 それくらい――――スライムの走る速度はとんでもなく速い。


 僕の才能が開花…………といっても無だけど、開花してから一年が経過した。


 この一年、毎日のようにスライムたちに魔力というご飯を与え続けたら、びっくりすることにもりもり成長してしまった・・・・・・


 普段はぼよ~んと音を立てて飛び跳ねていたスライムたちは、成長したおかげで『滑り走り』を習得した。


 それによって跳ぶことなく、地面をするする~っと滑りながら動いている。


 普通に考えれば、滑るんだから遅いと思うんだけど、そこは異世界不思議か――――めちゃくちゃ速い!


「…………セシルや」


「うん? どうしたの? お父さん」


「いまさらだと思うが…………スラちゃんたち、すごくないか?」


「そうなの? 魔物ってこんな感じじゃないの?」


「そんなわけあるか! どこの世界にバイコーンよりも速く走れるスライムがいるんだよ!!」


 あはは……でもこうしてスラたちが素早く動けるようになってるからね。


 ソフィだけでなく、リア姉や他の子供たちもスラちゃんに乗ってびゅ~んびゅ~んと動き回っている。


 さらにもう一つ利点があって、スラちゃんの体はぷにぷにしているだけでなく、不思議な粘着力があって、体にいろんなものをくっつけることもできる。


 乗り込んだ僕たちが落ちないように体にしっかりくっつけてくれて、ぽよんぽよんと飛び跳ねても落ちる心配がいっさいないのだ。


「それにスライムって……こんなに大きくなるものか!?」


「たしかに三倍くらい大きくなっちゃった……」


 ご飯をもりもり食べて、僕たちが乗っても十分すぎるくらい体も大きくなってる。


「もうちょっと大きくなったらお父さんたちも乗れちゃうね!」


「…………それはちょっと楽しみだな」


 もちろんお母さんの方も言葉にはしないけど、目を輝かせてスラちゃんたちを眺めていたり。


 少し遊んだソフィたちが帰ってきて、みんなで向かうのは――――僕が去年才能開花式を受けた教会だ。


 速やかに準備を終えたお母さんが綺麗な制服に着替えて祭壇に立つ。


 去年は緊張しててまったく気付かなかったけど、お母さんはまるで女神様のように神々しく、上部から差し込む一筋の光は、より彼女を美しく照らしてくれた。


 その前に何人かの子供が洗礼を受けて、みんなそれぞれ才能を開花していく。


 そして――――最後。


 彼女が向かう前に僕を見つめた。


「お兄ちゃん。行ってくるね?」


「いってらっしゃい。気楽にね」


「うん~!」


 とびっきりの笑顔を見せたソフィは緊張感一つ見せずに、ゆっくりとした足取りで祭壇の前に立った。


「――――汝、ソフィ・ブリュンヒルドに女神の加護があらんことを」


 洗礼によってお母さんの両手から眩いキラキラした光がソフィに降り注ぐ。


 ――――ドクン。


 何か心臓が鳴り響く感覚が伝わってくる。


 ――――【スキル『応援』により、『進化』を獲得しました。】


 ん!? 新しいスキル……? これってなんだろう?


 洗礼を受けたソフィは、自信満々の笑みを浮かべて僕のところに戻ってきた。


「お兄ちゃん~ただいま! これからは私がお兄ちゃんを守ってあげるからね! リアお姉ちゃんには負けないから!」


「あはは……ありがとう。ソフィ。でもリア姉とも仲良くしてほしいな?」


「…………仲いいよ?」


 今の一瞬の間あったでしょう!?


 何故か僕を間に挟んでソフィとリア姉の間で火花を散らした。




 その日の夜。


 寝ようと思ってベッドに入ろうとしたとき、ノックの音が聞こえてきた。


「どうぞ~」


 開いた扉からは、夜でも輝いている綺麗な金色の髪を持った女性――――リア姉とソフィが入ってきた。


「二人とも?」


「「お邪魔します~」」


 うちは辺境地だけど、村の領主ということもあって家に部屋がたくさんあるから、一人一室もらえている。


 姉妹が訪れるのは久しぶりな気が……?


「今日はセシルに言いたいことがあってきたの」「きたの」


 オウム返しのようにソフィがリア姉の語尾を真似る。


 というか、さっきは火花を散らしていたのに、やっぱりこういうところは仲良しだなと思う。


「うん。いいけど、どうしたの?」


「私たちはセシルがレベル0だってわかるのに、セシルは私たちのことわからないでしょう?」「でしょう?」


「それはそうだけど……でも【ステータス】は大事だよ?」


「セシルに隠すことなんてないの! 本当はもっと早く言いたかったけど、ソフィちゃんが開花して一緒に言うって約束していたから」「いたの~」


「あはは……」


 それからリア姉とソフィはお互いの才能を告げた。


 なるほど……姉妹だからなのか、才能も反転・・しているんだ?


 でも何となくイメージ通りというか、二人ともものすごい才能を持っているんだなと感心した。


 ちなみに、その日は二人とも枕を持ってきており、ベッドに潜り込んできた。


 今まではソフィが才能開花するまではお互いに禁止にしていたらしく、これからは毎日くるって言ってたけど…………いくら兄妹とはいえ、いいのだろうか?


 姉弟だし、まあいいか。


 明日はソフィと一緒に初狩りに出るとワクワクしながらみんなで眠りについた。


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スキル:

魔力操作=8941/99999

スライム使い=8533/9999

応援=29816/99999

進化=コンプリート

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