第53話 謎

「真琴!」


 丘の頂上に先回りしていると、少しして予想通り真琴がやってきた。


「あれ、先輩じゃないですか!どうしてこんなところに?」


「それはこっちのセリフだ!なんでこんな危険なところに……って今はいい、早く帰還するぞ」


 詳しい話を聞くのは後でいい、今はここから出るのが最優先。

 そう思って彼女に手を伸ばしたのだが、軽やかな身のこなしで避けられてしまった。


「帰りませんよ、私はここを攻略しないといけないんです」


「それなら別のダンジョンでもいいだろ、ここは危険なんだ!」


「いえ、ここでないとダメなんです!」


 真琴はそう言って神殿に走っていく。

 

「おいバカ、待て!」


 俺も急いで真琴を追いかける。

 だがその瞬間、目の前にダンジョンの入り口が開いた。

 突然のことに反応が遅れてしまい、俺はそこに突っ込んでしまう。


「く、しまった!」


 真琴を追うつもりが別のダンジョンに入ってしまった。

 そしてそれは別のダンジョンの上空に繋がっていたらしい。

 俺の身体は重力に引かれて落ちていくが、どうにか体勢を整えて着地する。


「危なかった……下手したら死んでたな」


 いきなりダンジョンの入り口が現れたと思ったら上空から落とされるなんて、まるで罠のようだ。

 しかもこうして連れてこられたここもまた普通ではない。

 周囲には床が高い木製の家が並んでいる、あまり詳しくはないが東南アジアとかそこら辺の雰囲気がある。

 このジメジメと暑い気温も熱帯、といった感じだ。


「なんて分析している場合じゃないな……」


 色々と気になることはあるが、今は真琴を捕まえるのが最優先。

 同じ入り口を通ってあの神殿に戻りたいのだが──


「そう簡単にはいかないってわけか」


 周囲に幾つもの歪みが生まれたかと思うと、俺がここに来るのを待ち構えていたかのようにモンスターが姿を現した。

 恐らく一体一体が超強力なモンスター、だがここで足止めを喰らうわけにはいかない。


「壱の秘剣・聖剣エクスカリバー」


 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「頼むから厄介なことに巻き込まれてくれるなよ」


 別のダンジョンでモンスターを片付けた俺は、同じ入り口を通ってすぐに『渾沌の領域』に戻る。


 その先で見たのは真琴の背中と空に浮かぶ禍々しく巨大な球体。

 一目でわかった、この世界に影を落とすあれこそがこのダンジョンのボスなのだと。

 だが動く気配がない。


「あれ、先輩?急にいなくなったと思ったら帰ってきてたんですね」


「他のダンジョンに巻き込まれてたんだ、それよりアイツは?」


「それならもう終わりましたよ!」


 真琴がそう言った直後、黒い球体に入った無数の亀裂から光が溢れ出し、粉々に砕け散った。

 その衝撃でこの世界もまた消えていく。


 そうして気がつけば俺たちは元の世界に戻ってきていた。

 

 俺は呆然としていた。

 かつて凛さんたちですら攻略できなかったという最難関ダンジョンを、真琴はたった1人で攻略してしまった。

 身体の随所に小さな傷が見て取れるとはいえ、あのダンジョンのボスと思われる個体さえも倒してしまったのだ。


「君は、一体何者なんだ?」


 何度も抱いてきた疑問、俺はとうとうそれを口にした。


「言ったじゃないですか、私は探偵です」


「そんなの、信じられるわけがない……空から降りてきて、何の常識もなくて、なのに世界で最も危険なダンジョンを簡単に攻略して……」


「そんなに深刻に考えないでくださいよ!これくらいできないと困るじゃないですか、私は悠真先輩の後輩なんですから!」


 俺は真剣に尋ねたのだが、真琴にはそうはぐらかされてしまった。


「それじゃあ私は事務所に戻りますね!これで私も配信者の仲間入りです!」


 そう言って軽やかなステップを踏んでいたかと思うと、転移魔法で姿を消してしまった。

 

 本当に何なんだ。

 真琴だけではない、あのダンジョンもそうだ。


 他のどのダンジョンとも似つかない、まるで現実世界を模倣したかのような内部構造。

 さらに他のダンジョンの入り口も多数存在しており、モンスターは時空の歪みの中から突然現れる。


 これまでの常識がまるで通用しない、謎の多いダンジョンであった。


「はぁ……」


 ため息を一つつくと、ドッと疲れが押し寄せてきたような気がした。

 それもそうだ、この数日は本当に色々なことがあった。

 あの日、学校が無数のモンスターに襲われた日から何かがおかしい。

 結局あの謎もまだ解けていない、なぜ未だにダンジョンの入り口が見つからずに──


「……え?」


 その時だった、俺の中に荒唐無稽な一つの考えが生まれたのは。

 あり得ない、あり得るはずがない。

 思いついた自分ですらバカバカしいと一笑に付すようなくだらないもの。

 なのにその考えを捨てきれない。


 点と点が繋がってしまった、全ての謎が解けてしまったのだから。





 気がつけば俺は真琴の後を追って走り出していた。

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