第52話 特異なダンジョン

 歩いていくほどに頭がおかしくなりそうだ。

 見た目は至って普通の街並み、だがここは確かにEランクダンジョン。

 いつどこで凶悪なモンスターが出てきてもおかしくない。

 だが不思議なことに、ここでは先ほどまであった嫌な気配を感じない。


「モンスターがいない?そんなはずはないか」


 その証拠と言わんばかりに、しばらく歩いているとその辺りに何かが落ちていた。

 しゃがんで手に取ってみると、それはモンスターの素材と魔石であった。

 やはり気配がしないだけで、ここにもモンスターはいるらしい。


「いや、待て……」


 一度立ち上がりはしたが、違和感に気づいて再びしゃがみ込む。

 どうしてこんなところにモンスターの素材が落ちているのだろうか。

 いや、別にそれはおかしいことじゃない、誰かが倒した跡がその辺に残されているなんてダンジョンではよくあることだ。


 では、一体誰がここでモンスターを倒したのか。


 まさか、と思い慌てて配信を確認する。

 現在は普通に歩いているだけ、だがいつの間にか視聴者数が1万人近くに達している。

 さらにチャット欄の流れを見る限り、どうやら真琴が配信上でEランクモンスターを軽く捻っているらしい。


 何者なんだ、というコメントが散見するが、俺も全く同意見だ。

 彼女は本当に何者なのだろう。


「今はそんなこと気にしてる場合じゃないな」


 一般的なEランクモンスターは苦にしない、ということはわかった。

 だからといって安心はできない、ここは普通のEランクダンジョンではないのだ。

 変に奥に進まれてより危険なモンスターと遭遇する、なんて事態だけは避けたい。


 幸いにも真琴が戦った痕跡を辿ればいつかは追いつくだろう。

 こうなれば彼女を見つけ出すのも時間の問題、そう思っていたのだが。

 

「ん?なんだ?」


 何事もそう簡単にはいかないらしい。

 目の前に突如出現した空間の歪み、それは見覚えがある。

 グラウンドに霜の巨人が現れる直前にあったものと同じだ、ということはこのあと。


「グギャルァ!!」


 予想通りそこからモンスターが現れた。

 先ほどまでは気配どころか小さな予兆すらなかった、何も知らなければ慌てていただろう。

 ただわかっていれば対処は容易い、出てきたところをすぐに斬り伏せる。


「今ので終わり、なわけないか」


 一体倒したかと思うと、俺を取り囲むように幾つもの空間の歪みが出現する。

 やはり直前までなんの気配も感じ取れなかった、つまりコイツらはまさに今この場に現れたということ。

 ダンジョン内にモンスターが生息している理由は長らく不明とされていたが、恐らくはこうして生まれているのだろう。


 そんなことを考えている間に、周囲には数十体のEランクモンスターがいた。

 早く真琴と合流するためにも無駄に時間はかけていられない。


「肆の秘剣・操剣フラガラッハ」


 できるだけ魔力を温存しながら進みたかったが、こうなったからには仕方ない。

 基本はフラガラッハに任せつつ、残った敵を俺が片付けていく。

 幸か不幸か学校防衛戦のおかげで集団との戦いにはもう慣れた、相手がEランクモンスターであろうと今更苦労はしない。


「ま、こんなもんか」


 だいたい1分といったところか。

 俺も前に比べて強くなっている気がする、今なら霜の巨人クラスの相手が出てこない限りなんとかなりそうだ。

 まあまさにそのレベルのモンスターがこのダンジョンの奥底に潜んでいる可能性が高いので、早く真琴を見つけないといけないのだが。


「またモンスター?いや、あれは違うな」


 再び進み始めて少しした頃、また俺の目の前に空間の歪みが現れた。

 しかしそれは先ほどまでの渦巻くような歪みとは違い、霧がかかったかのようにモヤモヤとしている、つまりダンジョンの入り口だ。


「ダンジョンの中に別のダンジョンか」


 以前『希望のほとり』で同じものを見たため驚きはしない。

 それに今は別のダンジョンにまで気を回す余裕はない、一旦は無視して先を急いだのだが。


「また別のダンジョン?」

 

 二つ目の入り口を発見した。

 どうやら『渾沌の領域』には内部に異なる複数のダンジョンが存在しているらしい。


 景色は現実のそれに近く、モンスターは突然出現し、別のダンジョンの入り口が複数ある。

 同じEランクであるはずの『龍の巣窟』や『静寂の氷河』とも全く違う、改めてここは常軌を逸したダンジョンだと思い知らされる。


「というか、真琴は大丈夫か?」


 もしこうして存在する別のダンジョンに入られたら見つけるのがもっと大変になる。

 そう思って配信を開いたのだが、どうやら彼女はまだ『渾沌の領域』内にいるらしい。

 しかもよくみると高い丘の上に聳え立つ神殿を目指していた。


 これはありがたい、俺も神殿を目指せばきっとどこかで会えるだろう、ようやく彼女を捕まえる兆しが見えてきた。

 俺はスマホをポケットにしまうと、真琴と会うために神殿を目指して走り出した。

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