第33話 vs 七つの大罪 ④
ティルヴィングが吸収してきたモンスターの魂を解放し、俺の魔力で創り出した肉体に憑依させる。
そうして出来上がるのは、俺の意思で自由自在に操ることのできるモンスターの群れ。
100を軽く超えるEランクモンスターで構成された軍隊が俺の前に現れた。
「なっ、なんだこれは……」
「そっちは六人でいいのか?」
俺は鋒をサタンに向ける。
するとモンスターは一斉に動き出した。
「くっ、俺たちを舐めるなよ!ここまでどれだけのモンスターを倒してきたと思っている!」
確かに姑息な手を使ってきたとはいえ、奴らは歴としたEランクの探索者。
このモンスターたちよりも高い実力を誇るだろう、俺が差し向けた軍隊を相手に五角以上に渡り合っている。
だが奴らは一つ重大なことに気づいていない。
「何体いやがる、全然減らねぇぞ!」
「言っておくがそいつらは不死身の軍隊。倒しても倒しても、何度でも蘇ってはお前達に襲いかかる」
ただモンスターを操るだけが奥義なはずがない。
恐れを知らず、何度でも甦り、進み続ける最強の軍隊。
それを生み出し、操るのが魔剣ティルヴィングの奥義・凶禍百鬼夜行。
これだけの強力な奥義の発動には大量の魔力を消費するため、他の剣は使えなくなってしまう。
そのため今はクラウソラスの結界が解け、龍も動けるようになっているだろう。
だが心配はいらない。
「こっちは任せて」
「私たちだって!」
「守られてばかりじゃないよ⭐︎」
凛さんを中心にユナとルナが戦ってくれている。
多分彼女は俺と同じくらいかもしかしたら俺より強い、放っておいても勝手に倒してくれるだろう。
その分俺は『七つの大罪』に集中できる。
「しばらく俺はなにもしないでやる。来れるものならこっちまで来てみろ、最強のパーティなんだろ?」
「この、クソ野郎がァッ!」
追い詰められたせいか、俺の軽い挑発にも簡単に乗ってくれる。
もはやこれが世界中に配信されていることなど忘れているのだろう。
あまりの豹変ぶりにリスナーも困惑している、こうなればもはや奴らの言葉に信憑性はない。
この配信が終わったあと全てをバラしてもみんな信じてくれるはずだ。
まずは奴らを完膚なきまでに叩きのめすのが先だが。
「そろそろ俺も参加していいか?」
腐ってもEランク冒険者が六人。
その実力は凄まじく、常人なら1秒ともたないであろうEランクモンスターの大群をどうにか凌ぎきっている。
だがモンスターを使役するだけがこの剣ではない、当然俺自身が戦うこともできる。
現時点で互角、そこに俺が加わったらどうなるかなど考えるまでもない。
「それじゃあいくぜ」
これだけの大群に囲まれていたら俺の接近にも気がつけないだろう。
まずは一人、最も近くにいたやつに忍び寄り、背後からバッサリと一閃。
もちろん剣の腹でやっているので殺してはいない、気絶させただけである。
俺はそのまま奴らの中心に移動する。
「あと五人、誰からやられたい?」
「このクソガキが、舐めるなァッッ!」
「俺に気を取られてていいのか?この大群はまだまだ襲ってくるぞ」
今まで六人でどうにか持ち堪えていたところを、俺が一人倒してしまったのだ。
その瞬間バランスは崩れ、モンスターの押し寄せる勢いはさらに増す。
「次はどうする?モンスターを誘き寄せるか?それとも魔力でも封じてみるか?」
もちろんモンスターに意識を向けようものなら、その隙をついて俺が斬る。
既にいわゆるチェックメイトの状態、やろうと思えばいつでも全滅させられる。
だがギリギリまで追い詰めてやる、少なくともサタンは。
俺はわざと軍隊の勢いを弱めつつ、ジリジリと窮地に追い込んでいく。
「負けを認めるなら今のうちだ」
「調子に乗るんじゃねェ!」
「この状況でもそれが言えるのか?」
どうやらモンスターの群れを相手にするのに必死で気がついていなかったらしい。
既に自分以外の仲間は俺にやられていたことに。
「この勝負、俺の勝ちだな」
俺は剣の先をサタンの眼前に突きつける。
共に戦っていたはずの仲間たちは皆地に伏せており、周囲は俺の使役する不死身の軍隊に包囲されており逃げ場はない。
もはや何の疑いの余地もない、決着はついた。
「こっちも終わった」
時を同じくして氷龍は糸の切れた人形にように崩れ落ちたかと思うと、そのまま霧散して消えて行く。
もうティルヴィングも必要ない。
能力を解除すると、周囲の軍隊も跡形もなく消えていった。
「……クソッ」
ようやく負けを悟ったのだろう。
サタンは拳を強く握りしめ、悔しそうに項垂れる。
これにて一件落着、めでたしめでたし。
そう思ったのだが、何かがおかしい。
「ダンジョンのコアがない?」
ボスはダンジョンのコアを守っている。
それはこの前三人でクラーケンを倒した時も同じ。
だが今この場には、どこにもコアが見当たらない。
その時だった。
「ゴォォォッッ!!!」
足元の分厚い氷を割って、全身に氷を纏う巨人が現れた。
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