第34話 vs 七つの大罪 ⑤

 デカい、あまりにもデカすぎる。

 圧倒的な存在感を放つそれは、遙か上空から俺たちを見下ろしている。

 どうやら俺たちは勘違いしていたらしい。

 さっきの龍は周りより少し強かっただけの個体、この霜の巨人こそがこの『静寂の氷河』のボス。


「グォォォッッッ!!!」


 大気がビリビリと震えるほどの雄叫びを上げながら、巨人は両手を組んで振り上げる。


「マズイ、みんな後ろに!」


 俺が『七つの大罪』を壊滅させたせいで奴らは動けない。

 

「参の秘剣・輝剣クラウソラス」


 ユナたちにはこちらに来てもらい、全員まとめてクラウソラスで守るしかない。

 ドーム型に作られた結界は巨人の一撃を受け止め、そのまま横に逸らしていく。

 だがそれによって地面の氷は砕け散り、俺たちはさらに下へと落ちていった。


「みんな大丈夫か?」


「うん、大丈夫♡」


「この程度なんてことない」


「倒れてた人たちも無事だよ!」


 さて、コイツらを守りながら戦わなければならないのだが、少々厄介だ。

 ティルヴィングは一度解除してしまった、あの剣の奥義を使うにはもう一度モンスターを斬る必要があるのですぐには使えない。

 となると別の剣で戦う必要があるのだが、その状況で最適なものとなると──


「凛さん、アイツを倒すのに協力してくれませんか?」


「ええ、もちろん。私は何をしたらいい?」


「時間稼ぎをお願いします」


「わかった」


 正直なところ、無理難題を押し付けたと思われてもおかしくない。

 だが彼女はそれだけ答えると、身体強化魔法を重ねがけして霜の巨人に突っ込んでいく。

 相手は果てしなく巨大なモンスター、だというのに凛さんは少しも力負けしていない。


「ユナ、ルナ。二人も協力してくれ。なんでもいい、ここの氷を融かして欲しいんだ」


「融かすんだね、わかった!」


 あの調子ならしばらく時間稼ぎはできるはず。

 その間に二人にはここにある氷を火炎魔法で溶かしてもらう。

 ここには見渡す限り一面の氷があるのだ、それらが融けて水になれば。


「ありがとう、もう大丈夫だ」


 俺はクラウソラスを解除し、ヤツを倒すための剣を創造する。


「陸の秘剣・湖剣アロンダイト」


 アロンダイトは水を操る剣、氷や水蒸気を操ることはできない。

 だが逆に言えば、水であればどうにだってできる。

 例えばその温度すらも自由に変えることができる。


「なにこれ、急に周りが白くなってきた……」


 二人が氷を融かして作ってくれた水を操り、その温度を沸騰するギリギリまで上昇させる。

 それによって周囲の氷は急激に融け、水に変わって行く。

 そして新たにできた水を操り、ということを繰り返し、このダンジョン見渡す限りに存在する氷を水に変えていく。


「凛さん、ありがとうございます。あとは任せてください」


「うん、わかった」


 足場の氷は残しておく必要があるが、それ以外は必要ない。

 俺は見上げた先に広がる氷を全て融かし尽くし、俺の武器に変える。


「ようやく見えたな、コイツの全身が」


 天井に張っていた氷が消えたことにより、数10mある巨人の姿が露わになった。

 これだけの巨体を倒すには生半可な攻撃では不可能、だがこれならいける。

 俺の頭上にはヤツの全長よりもさらに巨大な水の塊が浮かんでいるのだから。


「奥義・胡蝶泡沫乱舞」


 数も形も大きさも変幻自在のその剣は、無数の蝶へと姿を変える。

 それは巨人の周囲を飛び回り、ヤツの姿を覆い隠してしまった。

 しかしそれはただの蝶ではない、その羽根はダイヤモンドすらも斬り裂く鋭利な刃。


「やれ!」


 周りからは無数の蝶が舞を踊るように飛び回っているように見えるかもしれない。

 しかしその中では、蝶が身体の近くを飛び交う度に鋭利な羽根によって全身を切り刻まれていく。

 

 相手がどれだけ大きかろうと関係ない。

 この奥義の前では水に浮かぶ儚く小さな泡のように、なす術なく踊り狂う蝶に蹂躙されていく。

 そして蝶たちもまた夢幻の如く、どこかへひらひらと飛び立って消えていってしまった。


「倒したの?あの一瞬で」


「ああ、これで終わりだ」


 巨人の姿はもうどこにもない。

 俺たちの視界にはどこまでも続く氷の大地が広がっているだけだった。


「今のが貴方の本気なのね」


「まあ、そうですね。でもこれを使えたのは凛さんやみんなのおかげです」


「それだけの強さがあってなお、そう言えるのね。なのに貴方はいつからか……」


 そう言って凛さんはサタンに憐れみの目を向ける。

 どうやら色々と因縁のようなものがあるらしい、だがそれらに決着をつけるのは後だ。


「まずはこのダンジョンを出ましょう。確か勝負は先にダンジョンを攻略した方の勝ち、でしたよね」


 俺が指差した先にはダンジョンのコアがある。

 実質勝負はついたようなものだが、正式に勝利を掴み取るとしよう。


「世界最強パーティに勝った記念だ、全員でぶっ壊そうぜ」


「うん、そうしよう!」


「よし、いっくよー⭐︎」


 俺とユナとルナの三人で、一斉にダンジョンのコアに攻撃を加える。

 その直後、氷の大地は激しく揺れ動き、Eランクダンジョン『静寂の氷河』は崩壊したのであった。

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