第40話 次の配信は
「なんか、久しぶりな気がするね……」
「そうだな。実際そんな時間が経ってないはずなんだけど、最近色々あったしな」
サタンとの激闘から数日後、勝利を収めたことにより世界最強だなんて呼ばれるようにもなり、配信業に追われて大忙し。
なんてことはなく、むしろ今俺は──
「そのせいで遠足のしおりづくり、遅れちゃったね……」
こうして美月と共に庶務委員の仕事に追われていた。
本当は毎日少しずつやっていくつもりだったのだが、それもこれも『七つの大罪』のせいだ、文句でも言ってやろうか。
なんて言っててもしょうがない、やるしかないのだ。
「はぁ、なんで俺が行き先のおすすめスポットなんて調べなきゃならねーんだか」
「でもやってみると楽しいよ……ほら、このお店美味しそう」
「お、ホントだ。見てると腹減ってくるな」
しおり作りと言っても全てをやる必要はない。
表紙・裏表紙を作成したり、空きページや隙間に入れるイラストを描くのが主な仕事だ。
プラスでもう一つ、今回の遠足は現地についてからは完全な自由行動。
なので周辺の有名な観光地やおすすめの施設などをこちらで調べて書いておいてほしい、そう頼まれてしまったのだ。
そんなの個人でやればいいのに、と言いたくなったが承諾するしかなかった。
しかし他のページはパソコンで作るんだろうから、この作業も同じようにさせてくれたらいいのに。
手書きなせいで労力は数倍だ。
「俺もちょっと調べるかな」
とりあえずページを作るにも、まずは何を書くか決めなければ始まらない。
そのためにスマホを取り出したのはいいのだが。
「あー、次の配信どうしよ」
そうするとどうしても配信のことが頭をチラついてしまう。
「最近ずっと悩んでるよね……」
あれ以降配信をしていないのは、こうしてプライベートで他のことに追われてて忙しいから、というのも当然ある。
だが一番の理由は次に何をしていいのかわからないのだ。
ちらりとSNSや配信のアーカイブに寄せられたコメントに目をやると、『次の配信はいつですか?』とか『今度は何をしてくれるのか期待して待ってます!』だとか楽しみにしてくれている人が多い。
それ自体は非常にありがたいことなのだが、どうにも期待値が上がり過ぎている気がする。
歩夢さんはいつも通りでいいというが、前のようにただダンジョンの攻略解説を行う配信をしても、どうしても前回と比較されてしまうのではないだろうか。
まあそれを言ってしまえば、そもそも『七つの大罪』との勝負を超える配信などあるのか、という話になってしまうのだが。
「なんか『日本一の配信者』とか『世界最強』とか言われてるけどさ、そんな期待されてもって感じだよな」
「そうだね……でも、Eランクダンジョンに行くだけでみんな盛り上がると思うよ……?」
「Eランクダンジョンね……」
やはりそれが無難だろうか、いつも通りかつある程度期待に応えられるものとなるとEランクダンジョンの攻略・解説配信くらいしか思いつかない。
ただ『龍の巣窟』に行くことは禁止されている。
他のEランクダンジョンは詳しくない、攻略配信をするためには事前準備にそれなりの時間を要するだろう。
「どっちみちすぐに配信はできないか……いや、待てよ」
俺は『龍の巣窟』以外のEランクダンジョンに関してはほとんど知らない、だが詳しそうな人に一人心当たりがある。
「凛さんに協力してもらえればいけるな」
俺と違って何年も最強の人類と呼ばれてきている彼女のことだ、Eランクダンジョンの経験も知識も俺とは段違い。
なんなら彼女を中心に配信してもいい、まさか俺の配信に出るなんてほとんどの人が予想しないだろうし、盛り上がること間違いなしだ。
「よし、そうと決まれば……ってごめん、自分のことばっかり。今こんなことしてる場合じゃないよな」
「いいよ、連絡して……」
「大丈夫、先にさっさとこれ終わらせようぜ。凛さんには明日の朝話すよ、どうせまた俺の家来るし」
凛さんは月曜以降俺の家に毎日来ている、おかげで高校に遅刻する心配はない。
それどころか昨日の夜には朝食を持って行く、という連絡があり、実際に今朝はそれを持ってきて一緒に食べた。
さらに今日駅で別れる際には、『明日は食材を持って行って家で作るから』とか言ってた気がする。
別にいいと言ったのだが、俺の食生活が不安だからと押し切られてしまった。
ということで明日の朝は家に来るはずなので、その時にでも今度配信を手伝って欲しいと言えばいいだろう。
「それより問題はこっちだよ。とりあえず調べて真っ先に出てきたやつでも書いとくか」
配信をするためにも早くこの仕事を終わらせる必要がある。
そう思って作業に取り組んだのだが、どうにもおかしい。
「ん、どうかしたのか?」
美月の手が止まっていることに疑問を感じ、顔を上げる。
すると彼女は大きく目を見開いてこちらを見ていた。
「家に来るって、どういうこと……?」
その冷たい雰囲気を俺は知っている。
「どうって、そのままの意味だけど」
「何それ……そんなの私聞いてない……」
「そりゃ言ってないし」
確かに由那にも美月にも実はりんさんの家が近かった、という話をするのを忘れていた。
いや、別にそこまで大したことではないと思うのだが。
「じゃあ、今日これ終わったら行く……」
「行くって、俺の家?」
そう尋ねると、美月は力強く頷いた。
「まあ俺は別にいいけど」
俺以外誰も住んではいないし、見られて困るものもない。
俺としては家に来る分にはなんの問題もなかった。
「そうと決まったら、早く終わらせる……」
それからの美月は凄かった。
かなりあったはずの仕事を一瞬で終わらせてしまい、今日だけでしおりを完成させた。
そのあと美月は両親に連絡して、スーパーに寄って食材を買ってから俺の家に来た。
普段コンビニの弁当などで済ませることも多いので、栄養バランスを考えた料理を作ってくれたのは非常にありがたかった。
おまけにとても美味しかった。
そのあと適当に談笑したあと、俺は美月を駅まで送り届けた。
神に誓ってやましいことは何もなかったことだけはしっかり言っておく。
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