第43話 学校防衛戦②
「二体横を抜けた、由那!」
「うん、まかせて!」
「そこに魔法を撃つ、飛んで……」
通話中のスマホからそんな美月の声がした。
「りょーかい!」
言われた通り大きく飛び上がると、グラウンドの上を幾筋もの稲妻が走り、モンスターを焦がしていく。
だが中にはそれらの間を縫って進むものもいる。
「行かせるか!」
ソイツらは俺が着地すると同時にすかさず斬り伏せる。
三人での戦いはもうすっかり慣れたものだ、今ならお互いがどのタイミングでどう仕掛けるか、ある程度わかるようになってきた。
今なら安心して後ろは任せられる。
なら俺は前だけに、迫り来るモンスターだけに集中できる。
「にしても、なんだよこの数」
これだけの大規模な襲撃、ダンジョン内部でも滅多にあるものではない。
一体一体の強さはともかくとして、単純な規模だけならば『静寂の氷河』の時をも上回る。
それに加えて心なしか少しずつモンスターが強くなっている気がする。
「一旦下がる、援護を頼む!」
「わかった!」
俺が一度大きく後ろに退がると、当然モンスターの群れは押し寄せてくる。
そこを二人の魔法で迎撃する、一掃するには十分な火力だった。
「やっぱり威力上がってるよな?」
「うん、なんか最近すごい調子がいいの!」
「成長した……」
「ホントにな、まさかこんなグラウンドをめちゃめちゃにできるようになるなんて」
「それは言わないで」
ダンジョンにいる時は気にしたことがないが、こうして現実世界で周囲の地形が壊れていくのはどうも奇妙だ。
とはいえ今はそんなことに気にしている場合じゃないのは二人もわかっており、なんだかんだで吹っ切れていそうだった。
「それよりコイツら相手なら魔法の方が効率良さそうだな」
個々の強さは大したことなく、現時点では秘剣を使う必要性はない。
そうなると俺が一体一体斬っていくよりも、一箇所に集めたところを魔法で殲滅させる方が早く方がつきそうだ。
「俺が上手いこと敵を集める、そこを狙ってくれ」
「わかった、でも気をつけて……」
「仕掛ける時は声を出すからすぐ逃げてね」
「おう!」
俺は屋上から敵の中心へと一気に飛び降りる。
「全員かかってこい!」
うじゃうじゃと四方八方から敵が集まってくるが、一番近くにいるやつから片っ端に斬っていく。
ただ俺が倒すペースよりも寄ってくる数の方が早い、そのため次第に後手後手になり、気づけば完全に囲まれていた。
「今からいくよ!」
「避けて……」
そのタイミングで二人の声が聞こえた。
俺は進むことだけに集中し、目の前にいるモンスターを斬り伏せながら包囲網を突破する。
その直後、再び背後で爆発が起きた。
「よし、作戦通り!」
周辺のモンスターをまとめて処理できた。
それでもまだ勢いは止まるところを知らない。
「もう一回行く、準備してくれ!」
俺は再びモンスターを誘き寄せるため、敵陣深くに切り込んでいく。
そして十分に集まったところを魔力で一掃、そんな流れを5,6回は繰り返しただろうか。
「なんだよこれ、一体どうなってるんだ」
いくらなんでも数が多すぎる。
いや、まだそれだけならいい。
明らかに時間が経つにつれて、モンスターが少しずつ強くなってきている。
「作戦変更だ、一旦下がる!」
「りょーかい!」
二人が魔法による援護で俺が後ろに退がる時間を稼いでくれる。
とはいえこのまま退くだけではすぐにまた攻め立ててくるはず。
「参の秘剣・クラウソラス」
クラウソラスによる巨大な光の結界を作り出す。
これなら奴らが束になって来ようともこれ以上の侵攻は食い止められる。
その間に体力を回復させると同時に現状を整理する。
「大丈夫?さすがに悠真くん一人に任せすぎだよね」
「いや、それはいいんだ。ただ、モンスターがどんどん強くなっている気がする」
「ホントだ……あれ、最近見た覚えがある」
美月が指差す先にいたのは、以前『静寂の氷河』で遭遇したモンスター。
いよいよEランクモンスターまで現れ始めたらしい。
「こんなの聞いたことがないぞ」
「私も……モンスターが外に出たって話は何度か聞いたけど、どれも数体程度だったはず」
「考えるまでもなく異常事態、だよな」
こういう時はどうすればいいのだろうか。
一応モンスターを発見した時点で二人の方から探索者協会への連絡は済ませてもらっている。
だが由那が言ったように過去にこうした事例は数体の出現が観測されたのみ。
恐らく近くにEランク相当の探索者が複数人いるとわかれば、向こうも簡単に事態は収束するだろうと踏んで援軍を送ったりはしていないはず。
「とりあえずもう一度連絡してもらっていいか」
「うん、すぐにするね」
元々モンスターが外に出ること自体がイレギュラーではあるが、今回はその中でも殊更に異常事態。
それが伝わればすぐに動ける探索者をこちらに向かわせてはくれるだろうが、それでも到着まではまだ時間がかかるはず。
もうしばらくは俺たちだけで凌ぎ切る必要があるだろう。
「はぁ、いよいよアレまで出てきたか」
俺たちの視界に現れたのは一際大きな氷を纏った龍。
『静寂の氷河』の第九階層で出てきたモンスターだ。
「こうなったら俺たちがいただけマシって思うしかないな」
もしもこの場に居合わせていなかったら、学校どころか周辺一帯の街が全てダメになっていただろう。
つまり今何万人もの命が俺たちの双肩に掛かっている。
「どこまで続くかわからないが、こっからは全力だ。二人も付き合ってくれ」
「もちろん!」
「でも、悠真くんは大丈夫なの……?」
美月は俺を心配そうに見つめる。
この三人で戦うとなると、どうしても俺が一人で前衛を務める必要がある。
その負担が大きくなることを言っているのだろう。
「心配してくれてありがとな。でも大丈夫、なにせずっと一人で戦ってきたんだからな」
だが俺は由那と出会うまでの5年近く、ずっと一人で『龍の巣窟』に潜り続けたのだ。
中にはこうしてモンスターに囲まれることもあった、その度に俺は窮地を乗り越えてきた。
仲間がいる今、この状況など恐るるに足らない。
「それに何より、俺にはコレがある」
敵は倒す、校舎は守る、どちらもやらねばならない。
だが俺にはある、これまで一人で全てを乗り切るために使ってきた武器が、攻防一体の奥の手が。
右手をまっすぐに伸ばし、そこに巨大な剣を創造する。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます