第44話 学校防衛戦③

 それは俺の身長よりも全長の大きいヴァルムンクと比較してさらに大きい、というよりもゴツい見た目をしている。


「それ、剣……だよね?」


 由那がそう聞くのも無理はないだろう。

 剣というものは何かを切るための武器、刃のついた刀身は少しの歪みもなく、美しいほどに真っ直ぐでなければならない。


 しかしこの剣、デュランダルの刀身は本来のあるべき姿とは正反対。

 そこに真っ直ぐな部分は少しも見つからず、酷くゴツゴツとしている。

 一目見ただけでこれではすぐに引っかかってしまい、何も斬れないとわかる。


「ああ、まあ見ててくれ」


 デュランダルの切先を天に向け、腕を真っ直ぐに伸ばして構える。


「奥義・千古不易之鎧」


 剣に魔力を込めると、デュランダルは眩い光を放つ。

 その直後、俺の全身は魔力で作られた鎧で覆われ、デュランダルはその真の姿を現していた。

 先ほどまでとは打って変わって細く美しい刀身、だがその切れ味は今更いうまでもない。


「け、剣が鎧になった……?」


「凄いだろ?こう見えてこの鎧、重さは一切ないんだぜ」


 魔力でできているが故に重量はない、だがどんな攻撃も魔法も弾くほどの防御力を誇る。

 速さは失われず、あらゆる攻撃を防ぐ鎧と全てを断つ剣を両立させる。

 それこそが終の秘剣・鎧剣デュランダルだ。


「二人とも俺のことは気にせず魔法を撃ってくれ」


「ちょ、ちょっと!」


 こうして話している間にまた大量のモンスターが集まってきた、だがこちらも休息は十分。

 クラウソラスを解除するとモンスターが怒涛の勢いで迫って来るが、デュランダルの不滅の鎧で全身を覆っている今、恐れるものはない。


「そっちに向かう奴もいると思う、それは任せた!」


 真っ先に狙うは氷龍、行く手を阻むモンスターは斬っていくのみ。

 少し二人の負担が増えてしまうかもしれないが、それでも一際危険なコイツだけは最優先で倒しておきたい。


 そんな俺の考えが通じたのか、向こうもこちらに狙いを定めたらしい。

 大きく息を吸い込んだかと思うと、口から骨の心まで凍りつくほどの吹雪を吐き出した。

 俺と氷龍の間にいた有象無象のモンスターは瞬く間に氷付けになっていく。


 普段の俺ならば後ろか横に避けるか、或いはクラウソラスの結界で凌いでいただろう。

 だが今は違う、俺は足を止めることはなく、凍りついたモンスターを砕き割ながら真っ直ぐに突き進む。

 デュランダルが生み出した鎧があればこんな吹雪ですらそよ風と同じ。


「終わりだ!」


 その首に狙いを定め、デュランダルでもって横に一閃。

 その一撃で氷龍は霧散していく、だが周りにはまだ大量のモンスター。


「二人とも、俺を狙って魔法を撃ってくれ!」


「えっ!?で、でも」


「大丈夫、俺を信じてくれ」


「わかった、それじゃあいくよ……」


 俺がモンスターを相手しているところに、由那と美月の魔法が飛んで来る。

 散々この戦いの中で見てきたのだから、その威力はよくわかっている。

 それでもデュランダルなら、俺には一つも傷はつかない。


「このまま一気に決めにいく、二人も頼んだ!」


 足を止めることなく、むしろこちらから距離を詰めて戦線を押し上げる。


 デュランダルは現時点における俺の奥の手、最強の秘剣だ。

 この不滅の鎧はあらゆる物理攻撃も魔法も無効化し、攻防一体の無敵の戦闘スタイルを実現する。

 今のように周囲をEランクモンスターに囲まれていようと、危機に陥るどころか一方的に蹂躙することすら可能。


 しかしその代償というべきか、魔力の消費量は他の秘剣の奥義と比較しても殊更に激しい。

 だからあまり時間に余裕はない、デュランダルの持続時間中に全て終わらせる必要がある。

 

 前回は確か15分で限界が来た。 

 今回も同じと仮定するなら、もって後10分ちょいといったところか。


「敵はEランクばかり、全力でいくぞ!」

 

 相手が相手なだけに二人にも余裕はなく、絶えず上空から魔法が飛んでくるようになった。

 先ほどまでのように魔法で殲滅、とまではいかないがそれでも効果は絶大だ。


 俺は砂煙と降り注ぐ魔法の雨で満ちた戦場を駆け抜け、視界に映るモンスターを片っ端から仕留めていく。


 そうして戦い続けること5分。

 恐らくは1時間弱続いたモンスターの襲撃がついに止まった。


「ふぅ、ようやく終わったか……?」


 視界のどこにもモンスターの姿はない。

 俺はデュランダルを解除して元の姿に戻る。


「悠真くん!」


 すると二人も屋上から降りてきた。


「終わったの……?」


「ああ、多分な」


 俺たちは周囲をぐるりと見渡す。

 グラウンドこそ見るも無惨な光景になってしまったが、校舎はもちろんのこと、それ以外のどこにも被害は見当たらない。

 一般人にも怪我はないと考えていいだろう。


「なんとかなったみたいだな」


「待って!あれ!」

 

 ようやく終わったと思ったその時、由那はグラウンドの中央を指差した。

 その上空には真っ黒な空間の歪みが広がっている。

 かと思うと、その中から何かが少しずつ姿を現す。


「おい、嘘だろ……」


 何かの悪い冗談だと思いたい。

 いくら序盤は弱いモンスターが相手だったとはいえ、1時間にも及ぶ継戦の疲労は凄まじい。

 もう今すぐ学校ではなく家に向かってゆっくり寝たい、そんな気分だったというのに。


 このタイミングで現れたソレは俺たちに黒い影を落とした。


「そ、そんな!あれって!」


「この前、悠真くんが倒した……」


 『静寂の氷河』の最深部にいた霜の巨人、奴がこの現実世界に現れたのであった。

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