第45話 学校防衛戦④
さて、どうする。
前回はダンジョンに存在していた氷のほとんどを水に変えることで、アロンダイトの奥義で倒すことができた。
だが今は近くにそんな大量の水はない。
デュランダルならば倒せたのだろうが、残りの魔力量を考えるとさすがに今は時間が足りない。
何より一番の問題は、ここが現実世界であるということ。
倒すだけならまだしも、周囲に存在するもの全てを守りながら戦わなければならないのだ。
それも立っているだけで両足がグラウンドの端から端まで及ぶ、高層ビルくらい大きいのではないかという敵を相手に。
「早速かよ!」
巨人が腕を振り上げる。
前回『静寂の氷河』で戦った時はドーム型に障壁を作って攻撃をいなしたが、今ここでそんなことをしたら周りにどんな被害が及ぶかわからない。
「参の秘剣・輝剣クラウソラス」
当然避けるわけにもいかない、真っ向から受け止める。
「攻撃は任せた!」
魔力の消費は多くなるが、いつもよりもさらに強力な結界を張り、巨人の拳を受ける。
とはいえこれだけで終わる話ではない、これからヤツを倒すまであらゆる攻撃をこうして受け止める必要がある。
それができるのは三人の中で俺だけ、一人でなんとかやるしかない。
「肆の秘剣・操剣フラガラッハ」
俺はフラガラッハの柄に乗る。
向こうがどう仕掛けてくるかわからない、由那や美月を狙うかもしれないし無造作に攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
それら全てに対応するため、フラガラッハに乗って空を飛ぶ。
「敵はアイツだけ、俺たちでなんとかするぞ!」
巨人は再び拳を握りしめて攻撃を繰り出そうとしている。
俺はすかさず二人の前に入り、空中で結界を展開して攻撃を地面に当てさせないようにする。
さらに右手にもう一つ剣を創造し、背後に回り込んで首の後ろを斬りつける。
「問題なく斬れる、けどこれじゃほぼ意味がないな」
かなり深く切りつけた、相手が人間がそこらの普通のモンスターならばこの一撃で間違い無く倒せる。
ただこの巨人にしてみれば、皮膚の表面に傷が入って僅かに血が滲んだ程度に過ぎないのだろう。
少しも効いた様子がない。
「悠真くん!」
「魔法を撃つ、逃げて……」
二人は巨人の顔目掛けて魔法を放つ。
俺は急いで上空に避難し、魔法が命中したのを確認するとクラウソラスの結界を足場がわりに使い、追撃にフラガラッハを飛ばす。
「さて、効いてるといいんだけどな」
次のヤツの動きを待っている間に煙が腫れてきた。
すると確かにフラガラッハは額の真ん中に突き刺さっている、しかしそれでも巨人は動き出した。
「ウォォォァァァァッッッ!!!」
そして天を仰ぎながら叫び声を上げる。
ビリビリと全身が震えるほどの轟音、周辺のガラスは振動で砕け散っていく。
「おいおい、マジか」
しかもただ叫んだだけではない。
上空から大量の氷塊が隕石のように降り注ぐ。
「全部撃ち落とすぞ、一つでも落ちたら大変なことになる!」
飛ばしたフラガラッハとクラウソラスの結界だけでは全てを防ぎ切ることは不可能。
二人にも魔法での迎撃に協力してもらい、どうにか空中で消滅させていかなければならない。
「この数、どうにかなるの……?」
「いくらなんでも多すぎるよ!」
「頼む、火炎魔法で撃ち落としてくれ!」
右手に握りしめていた普通の剣は消滅させる。
そして二人が氷塊の一つを火炎魔法で溶かしてくれた瞬間、そこに向けて右腕を伸ばす。
「陸の秘剣・湖剣アロンダイト」
秘剣の三種同時使用、これだけ疲弊した上に魔力も使った今の身体ではかなりしんどいが、それでもやるしかない。
氷塊が溶けてできた水をすかさず操り、熱湯へと変えながら他の氷塊の元へ向かわせる。
そうして次々と水の量を増やし、俺たちの頭上に熱湯でできたカーテンを作ることに成功した。
これでいくら降ってきたとしても、全て上空で水となってカーテンの一部に加わっていく。
だがそれに気づいた巨人が再び咆哮を上げる。
すると天高くに一際巨大な氷塊が生み出された。
さらに両手を組んで自らもまた攻撃を仕掛けようとしている。
「ふざけるなよ、このクソ野郎!」
俺は上空に存在している大量の水を一箇所に集め、それを氷塊に向けて飛ばしつつクラウソラスの結界で迎撃する。
その直後、周辺一帯に豪雨のように大量の水が降り注いだ。
なんとか両方防いだがさすがに魔力的に厳しく、アロンダイトの方は解除せざるを得なかった。
やはり普通に戦うのと違って条件が厳しすぎる。
攻撃を避けてはいけないだけならまだしも、自分とは全く無関係なものまで対処しなければならないのは負担が大きすぎる。
それを万全とは程遠い今の状態でやらなければならないのだから大変だ。
「アイツ、あと数分で倒せそうか?」
「数分⁉︎それは多分、無理……」
「私たち二人だと倒すだけでも精一杯……」
「まあさすがにそうだよな……」
霜の巨人はEランクモンスターの中でもさらに上位種、本来二人に任せていい相手ではない。
どうやってこの状況を打破するべきか、そう必死に考えを巡らせていたその時だった。
何かが流星の如き速さで巨人の頭に突っ込み、その動きを止める。
そして地面にできたいくつもの水溜りが陽の光を反射して煌めくその中心に、世界最強と呼ばれ続けて来たその人、凛さんが降り立った。
「ごめん、遅くなった」
「大丈夫です、来てくれて助かりました」
もうあれこれ策を巡らせる必要はない、後は俺たち四人で奴を倒すだけだ。
「三人とも大丈夫?」
「はい、まだいけます!」
「あと少しなら頑張れる……」
「よし、さっさとアイツを倒して全部終わらせよう!」
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