第46話 学校防衛戦⑤
「とりあえず少し休んでて。二人はまだ戦える?」
「わ、私は大丈夫……」
「私もです、でも悠真くんは?」
「体力の回復に専念。アイツを一撃で倒す、そうですね?」
俺の問いに凛さんはこくりと頷くと、槍を構えて霜の巨人と対峙する。
「じゃあ行く、援護はお願い」
地面が抉れるほどの勢いで大地を蹴り、凛さんは一気に巨人との距離を詰める。
それに二人も続く、残された俺は一度凛さんたちに任せてその場に座り込んだ。
恐らく今俺が戦闘に加わってもヤツを倒すことは可能だ。
だがその途中で奴が暴れたり、或いは後ろに倒れたりでもしたらとんでもない被害が出る。
だから凛さんは一撃で完全に葬り去ろうとしているのだ、確かに俺と凛さんの力を合わせればそれも可能だ。
そのために僅かでも休んで体力と魔力を回復させる。
「ウォォォァァァァッッッ!!!」
だが霜の巨人は休む暇を与えてはくれない。
巨人が叫ぶと再び氷塊が流星群のように降り注ぐ。
それを見た凛さんは腰を落とし、深く沈み込んだ体勢を取る。
次の瞬間、彼女の姿は俺たちの視界から消えた。
その直後、遙か上空に存在する大量の氷塊が次々と砕け散る。
「す、すごい……」
由那はその光景を口を開けながら見上げ、思わずそうこぼしていた。
だがその気持ちもわかる。
散りばめられた氷の粒を背景に空を舞う凛さんの姿は、まるで一枚の絵画のようであった。
「由那、見惚れてないで私たちも……」
「そ、そうだね!」
二人は息を合わせて魔法を放つ。
もう1時間も戦闘を続けてきた影響もあってさすがに威力は弱まっている、とはいえそれでもちょっと前に比べれば格段に強力。
少なくとも霜の巨人を怯ませたり、目眩しになったりはする。
その隙に凛さんは俺の元に帰ってきた。
「後10分くらいでいける?」
「いや、もう大丈夫です」
きっともう少し時間を稼いでくれるつもりだったのだろう、だがその必要はない。
既にヤツを一撃で葬り去る方法を思いついた。
俺はそのための手段、霜の巨人を倒すための武器をこの手に創造する。
「伍の秘剣・剛剣ヴァルムンク」
俺が生み出すあらゆる剣の中で最も大きく、最も重い剣。
こいつには斬るだとか突くだとか、剣としての用途はあまり求めていない。
ただ純粋な攻撃力・破壊力は随一。
そしてもう一つ、ヴァルムンクには大きな利点がある。
それは他の秘剣と比べても魔力の消費量が格段に少ないということ。
結界を作ったりあらゆる攻撃を防ぐ鎧になったりだとか、そんな特殊な能力は持ち合わせていない。
特徴を挙げるとすればただひたすらに硬く、決してその刀身が壊れることはない。
そんなすごくシンプルな剣であるが故に魔力をほぼ使わないのだ、その分俺には大きすぎて操り難いのだが。
そんな色々と尖った性能の剣ではあるが、この状況においてヴァルムンク以上に適したものはない。
「由那、美月、後少しアイツの足止めを頼めるか?」
「何か策があるんだよね……?」
「わかった、頑張るよ!」
「凛さんは俺に向かって攻撃して来てください、それも全力で」
そう言いつつ、俺はヴァルムンクを両手で持って体の後ろに持っていき、地面と平行に構える。
「冗談?」
「本気ですよ、文字通り俺たち二人の攻撃を同時にぶち込みます」
いきなりこちらに向かって攻撃しろ、なんて言ったら頭がおかしくなったのではないかと思われても仕方ない。
ただ凛さんはしばらく俺の目を見つめた後、こくりと頷いた。
「わかった、悠真を信じる」
「お願いします。これでアイツを一撃で倒せます」
二人も疲労が凄まじいだろうに、魔法の連続によって霜の巨人の動きを制してくれている。
こうして作ってくれたこの好機、逃すわけにはいかない。
「それじゃあいく、準備はいい?」
「いつでも来てください」
そう答えると同時にヴァルムンクをもう一度強く握りしめる。
次の瞬間、凛さんは全力の一撃を槍の先に込めて放った。
そのタイミングに合わせ、俺はバッターの如く全身を使って身体を回転させながらヴァルムンクをフルスイングする。
そしてヴァルムンクと凛さんの槍がぶつかった。
「ぐっ……」
やはりというべきか、凄まじい威力だ。
これまでのどんなモンスターを相手にした時とも比べ物にならない、ひたすらに強力な一撃。
普通の剣なら粉々に砕け散っていただろう。
だがヴァルムンクは砕けない、むしろここから真価を発揮する。
「凛さん、しゃがんで下さい!」
全身に力を込め、勢いそのままにヴァルムンクを振り抜く。
「奥義・天穹金剛交差」
それは俺が持つ8種の奥義の中で唯一の
相手が放った攻撃をダイヤモンドよりも遥かに硬い刀身で受け止め、ヴァルムンクの威力を上乗せしつつ全てを弾き返す、大空をも斬り裂くほどの一撃を放つ技。
それこそが奥義・天穹金剛交差。
今回はそれを利用し、凛さんの全力の一撃と俺のヴァルムンクの攻撃、その二つを合わせた。
もはやその威力は計り知れない。
ただ一つわかるのは、俺がヴァルムンクを振り抜いて再び顔を上げた時には、霜の巨人は跡形もなく消滅していたということだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます