第24話 顔合わせ
翌日、俺は昨日の約束通り『龍の巣窟』の入り口に来ていた。
時計を見ると現在は午前10時50分、そろそろ向こうも来るだろうか。
「お、いたいた!ニル!」
噂をすれば何とやら、ちょうどサタンが現れた。
それと後ろにもう一人いる。
会うのは初めてだが、その顔はさすがに俺でもよく知っていた。
「初めまして、サタンさん。ニルです」
「知ってるよ、最近すごいからな。あと今日は一人仲間がいる、べるふぇだ」
キリッとした目、整った顔立ち、後ろで束ねた赤く長い髪。
手にした武器は身長ほどの大きさがあろう細身の長い槍。
身長が高くスタイルも良い、そのためその美貌に目が行きがちだが、最も注目すべきは強さ。
最強と呼ばれる『七つの大罪』の中でも突出した実力を持ち、人類最強との呼び声高いダンジョン探索者。
それこそが彼女、べるふぇである。
「初めまして、ニルです」
「私はべるふぇ、よろしくね」
べるふぇこと木平凛は、俺の目をまっすぐに見つめてそう言った。
髪と同じ鮮やかな真紅の瞳はどこまでも深く、思わず吸い込まれそうになる。
「しかし珍しいよな、こういうのには滅多に来ないのに」
「そうなんですか?」
「基本べるふぇは配信の時しか集まらねぇんだ、俺も昨日連絡きた時は驚いたもんだぜ。最強と呼ばれる者として、気になったのか?」
サタンはどこか茶化すように言う。
だがべるふぇはそれに対して表情を崩すことなく、「ええ、そうね」と返した。
「私は貴方に興味がある、だからここに来た」
突然そんなことを言われたものだから、何と答えれば良いのかわからなかった。
配信ではその圧倒的な実力をもって、立ちはだかるモンスターを淡々と叩き伏せていくのを見たことがある。
そのため彼女に詳しいわけではないのだが、寡黙でクールというイメージを勝手に持っていた。
こうして実際に顔を合わせてみてもそれが間違っていたわけではなく、口調にあまり抑揚がなければ表情の変化にも乏しい、その辺りは概ねイメージ通り。
ただ上手くは言い表せないが、想像していたものとはどこか違っていた。
「ははっ、お前もそんな冗談言うんだな。さ、このまま立ち話をするのも何だしちょっと進もうぜ」
サタンの提案で俺たちはダンジョンの奥に向かう。
いつものことではあるが、日曜日の昼間とはいえダンジョン内に人影は少ない。
都会からは少しハズレのダンジョンだからと思っていたが、Eランクという難易度の高さも影響しているのだろう。
まあ今日のメンツに関しては俺は昔から何度も来ていたし、この二人も人類最強と呼ばれるような人たちのため何の心配もない。
「そういえば、サタンさんはどうして俺にコラボを持ちかけてくれたんですか?」
道中、俺は昨日から気になっていたことを聞いてみた。
「そりゃこの前の配信だよ、三人でEランクダンジョン行ってた奴。正確にはPとEの間くらいか?」
「それぐらいでしたね、というか見てたんですか」
「Eランクに行くやつなんてそうそういないからな、それこそ俺たちとか」
要は似たもの同士、的な感じで注目されたのだろうか。
「元々有名な俺たちと人気急上昇中のお前がコラボしたら、とんでもなく話題になると思うんだよな」
実際そうなるだろう。
ただの雑談配信でコラボがしたい、と言っただけであんなにも盛り上がったのだから。
「ちなみにやるとしたら何がいいと思う?俺としては勝負してみたいんだよね」
「勝負?」
「同じダンジョンをどっちが先に攻略できるかの勝負、それぞれの視点を配信すんのよ。もちろんEランクでな」
そういえばコメントでも勝負してほしい、という意見を見かけた。
たださすがに無しだ、俺と『七つの大罪』でやっても勝負にならない。
人数やら経験やら、何もかもが違いすぎる。
「結果が見えてたら面白くないと思いますよ」
「そうか?いいと思うんだけどな。Eランクダンジョンを攻略したパーティ同士の対決!って感じで」
「パーティ?あ、あの二人も呼ぶつもりでしたか?」
「ああ、せっかくコラボやるならそれしかないだろ?」
ならなおさらNGだ。
別に俺は由那や美月とグループで活動しているわけではない、こちらの都合でやるようなコラボに巻き込むのは申し訳なく思う。
ましてやそれがEランクダンジョンなんて危険な場所で行われるなら俺一人で行く方がいい。
「それは難しいですね。俺たちは全員個人なので、なかなか予定が合わせづらいんですよ」
「うーん。ま、詳しいことは置いといてとりあえずそういうの想定してたからさ、一旦Eランクダンジョンに行っときたかったんだ」
「それでここ集合にしたんですね」
「勝負するにしろ協力するにしろ、お互いの実力はある程度知っといたほうがいいだろ?本当にEランク行って大丈夫かも知りたいしな、万が一事故になったらシャレにならねぇからよ」
恐らくコラボをすれば大勢の人が見ることになる。
そこで誰かが大怪我を負ったり或いは命を落としたりしたら大変だ、それを避けるために向こうは知りたいのだろう。
前回のダンジョンはあくまでPとEの中間、本当のEランクダンジョンでも通用するだけの力が俺にあるのかどうかを。
「まあお手並み拝見、ってやつ?」
ならご要望に応えるとしよう。
「わかりました。じゃあもう少し奥、中層辺りに行きましょうか」
俺はいつも通り一本の剣を創造し、さらに先へと向かった。
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