第32話 vs 七つの大罪 ③
わざわざ本物の階段を探す必要なんてなかった。
ここは全てが氷に包まれたダンジョン、ならばそれをぶち抜いてしまえば簡単に最下層に辿り着ける。
まさかちょうどそこに『七つの大罪』がいるとは思わなかったが。
「さすが早いですね、俺たちはズルしてきちゃいました」
「その発想はなかったぜ」
「初めは真っ向から行くつもりだったんですけどね。幻覚やモンスター誘引、魔力封じとか罠が多すぎて大変でした。第一階層からこの罠の数はさすがEランクって感じですね」
俺がわざとらしく言うと、サタンの顔がわずかにひきつった。
お前がやったのは気づいているぞ、というメッセージはしっかり伝わっているらしい。
「そうだな、だがここまでは互角。先にアイツを倒したチームが勝ちだ」
「そうですね。それよりどうやって正攻法でここまで来たんですか?ぜひ参考にさせて欲しいです」
「おいおい、アレが見えねぇのか?のんびり雑談してる暇はねぇぞ」
「ありますよ」
俺はクラウソラスを龍の足元に突き刺し、光の結界で奴を封じ込める。
「ほら、これでしばらくアイツは出てきません。これで雑談もできますよ」
笑顔を浮かべてそう言ってもサタンは表情を崩さない。
だが今ならわかる、奴は今心底俺のことを憎く思っているだろう。
もちろんこれで終わるつもりはない、なんのためにわざわざこの不利な勝負を受けたと思っているのだ。
必ずこの配信中にその本性を曝け出し、逆に俺がお前を堕としてやる。
それがユナとルナを巻き込もうとしたことへの報いだ。
「そう言って隙を見てアイツを倒すつもりだろ?」
「まさか、疲れてるんでそんな余裕はないですよ。なにせこの第九階層まで8枚も分厚い氷をぶち破って来ましたから」
「第九階層?」
俺の発言に反応を示したのは凛さんであった。
「どういうこと?ここは第八階層のはず」
「え、違いますよ。配信を後で見てもらってもわかるはずです、俺たちは8回降りてきましたから」
適当に鎌をかけてみただけなのだが、どうやらビンゴだ。
恐らく奴らは第一階層にだけ大量の罠を仕掛け、自分たちの転移魔法の行き先はあらかじめ第二階層に通したのだ。
多分配信中は罠がない場所に向かって罠があると言って、自分たちがあたかも全て見破ったように見せかけているはずだ。
そうなれば俺たちが罠に苦戦している間に自分たちは全て看破し、圧勝したかのように見せられる。
だが奴らにとっての唯一の誤算は俺たちが罠にかかってなおここまで来たこと。
そして最大の問題は。
「これはどういうこと?」
全てを凛さんに隠していたことだろう。
もしやとも思ったが、どうやら一連のことを凛さんには隠していたらしい。
あたかも第一階層から始まったかのように振る舞い、彼女を中心にここまで来たのだろう。
それでもここに辿り着くまでのスピードは凄まじい、さすがは世界最強と呼ばれるパーティだ。
最も、それも今日で解散かもしれないが。
「アレじゃねぇのか、もしかして俺たちが数え間違えたとか」
「そんなはずはない。もしかして──」
ここまでサタンはどうにか誤魔化そうとしてきた。
その本性がバレないように、これまで通りの誰もが憧れる英雄を演じようとしている。
だがそれも遂に終わりを迎える時が来た。
「不正をしていたの?真剣勝負では勝てないから」
「なっ、そんなわけが」
「いつかは戻ると信じていたけれど、そこまで堕ちたのね…….」
凛さんはサタンに憐憫の目を向けながらそう言ったかと思うと、今度は俺の方を見た。
「教えて、ここまで何があったのか」
俺は凛さんに全てを話した。
転移魔法陣の先がモンスターの巣の中に通じていたことから始まり、ここまで様々罠に苦しめられてきたことを。
それを聞いた凛さんは全てを悟ったかのようにため息をつき、再びゆっくりとサタンを見る。
「そうまでして得た名声に、何の価値があると言うの?」
「違っ、俺たちはなにも」
「私が今まで気づいていないと思った?貴方達が影で姑息な手を使っていたことに」
凛さんがそう言うと、サタンは唖然とした様子で言葉を失った。
「それでも今まで他人を蹴落とすような真似はしなかった、だから見過ごしてきたけど……もう終わりね」
ここまで凛さんに言われればもう言い逃れはできないだろう、サタンは終わりだ。
だが俺はさらに追い打ちをかける。
「ちなみにこの前の会話を録音してますよ。確か『世界最強の称号があれば美味いモンも女も食い放題』でしたっけ?」
「は、はは……」
呆然としていたサタンは俯いたかと思うと、突然肩を震わせて笑い出した。
追い込まれて頭がおかしくなったのだろうか、そう思ってみていると突然襲いかかってきた。
「遂に本性を見せたか?なりふり構わなくなってきたな!」
「うるせェ、最強は俺だ!今ここでテメェを倒してそれを証明する!」
「いいぜ、望むところだ。俺も始めっからそのつもりで準備してきたからな」
俺は一度距離を取る。
ここからの勝負はシンプルだ、単純に相手を倒した方が強い、それだけ。
まあ少しだけイレギュラーもあるが。
「凛さん、アイツを任せていいですか?それと二人をお願いします」
「彼らと戦うつもり?」
「はい、俺は自分のためにユナとルナを利用しようとしたアイツらを許せません」
「わかった、こっちは任せて」
俺はティルヴィングを強く握りしめて奴らを見据える。
「テメェ一人でやるつもりか?」
「ああ、一人じゃないからな」
ティルヴィングを天高く掲げる。
「見せてやるよ、俺の奥義をな」
俺が本気で戦う時に使う固有の能力を持った剣、秘剣。
これまでも幾つもの秘剣の力を使い、Eランクダンジョンであろうと踏破してきた。
だが秘剣はその能力を限界まで解放することで、もう一つ先の境地へと辿り着く。
それこそが奥義。
俺が真の全力を出す時にだけ使う技だ。
「覚悟しろ、サタン!」
ティルヴィングは斬った魔物の魂を吸い取る能力を持つ。
このダンジョンに入ってから100を超えるモンスターを斬ってきた、つまりそれだけの魂がこの刀身に込められている。
それを今、解放する。
「奥義・凶禍百鬼夜行」
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