第16話 未知のEランクダンジョン
「なぁ、本当に良かったのか?」
事務所からの帰り道、俺は二人にそう尋ねた。
「俺は歩夢さんになんと言われようと一人で行くつもりだった、無理してついてくる必要は」
「心配しないで、私たちだって行きたくて行くんだよ」
「私たちもEランク、きっと勝てる……」
俺のために無理してついてくると言ったのではないかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
少し不安ではあるが、やる気に漲る二人を見ると一人でやるとは言いづらい。
ただどうしても一つだけ気掛かりなことがある。
「美月は大丈夫なのか?マネージャーに許可取ったりとかって」
「必要ない。ウチの事務所は、基本的にやりたいことをしていいから……」
「あくまでマネージャーは私たちのサポートをしてくれるだけだから、基本的に配信の内容や行動は私たちで決めて大丈夫だよ」
そういえば最初の時に自主性を重んじているとかいった話を聞いた気がする。
確かに俺も配信の方向性は自分で決めて、歩夢さんはそれを実現するためのアドバイスをするに留めていた。
この事務所でのマネージャーは困った時の相談役というか、半分プロデューサー的な役割も担っているのだろう。
まあ配信業という少し特殊な仕事である以上セルフプロデュースが基本になる、その分マネジメントする割合は減って、セルフプロデュースでは足りない部分も生まれる。
そこを補うように動くのがここのマネージャーといった感じか。
「わかった。なら明日の放課後、三人であのダンジョンを攻略しよう」
「おー!」
「うん……」
互いに拳を付き合わせ、それからそれぞれの家に帰った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、俺たちは『希望のほとり』の入口にいた。
ここまでの転移魔法陣を作ってくれた歩夢さんも見送りに来ている。
「二人とも、入る前にこれを持って」
歩夢さんはそう言って、俺と美月に飴玉ぐらいのボールを手渡した。
「そこには緊急時の脱出魔法が込められてるの、何かあったときは地面に投げつけて逃げられるわ。ユナにはいつも持たせてるの、この前悠真くんに助けてもらった時は忘れてたのか使わなかったけど……」
「あ、あはは……」
歩夢さんにジト目で睨まれ、ユナは気恥ずかしそうに笑って誤魔化す。
「これ、歩夢さんが作ったんですか?」
「そうよ、気が気じゃないもの。本当は今だって無理にでも連れて帰りたいくらいよ」
「ありがとうございます……」
「安心してください。バッチリ攻略して、配信も盛り上げて見せますよ」
俺がそう答えると、歩夢さんは呆れたように笑っていた。
「行ってらっしゃい、無事に帰ってくるのを待ってるから」
歩夢さんに見送られながら『希望のほとり』の中へと入る。
「様子は昨日と変わらないな」
まだ内部に新しくダンジョンが見つかったことはそこまで知れ渡っていないのか、それともあれは奥地で見つかったものだから気にしていないのか。
理由はわからないが入ってすぐの雰囲気は昨日と同じ、よく賑わっている。
何も悪いことではない、むしろ良いことだ。
このまま何か起きる前にあのダンジョンを片付けてしまおう。
「ここにいると目立つ、とりあえずダンジョンの入り口までは急ごう」
「うん!」
「それじゃあ私に任せて☆」
「えっ」
一瞬誰かと思い、つい声のした方を見てしまう。
そこにいたのは美月……ではなく魔法少女ビビット☆ルナ。
いつの間に着替えたのか、トレードマークの黒ローブととんがり帽子を身にまとっている。
長い前髪は髪留めで止められており、サファイアのような綺麗な瞳が露わになる。
普段の美月をよく知っているからこそ、元気いっぱいで明るい雰囲気の今の彼女に余計困惑してしまう。
「二人とも、私に掴まっててね♪」
言われた通りに肩に手を置くと、ルナは長距離移動魔法を発動させる。
すると俺たちはダンジョンの入り口まで、一筋の流星の如く飛んでいった。
「便利だな、あっという間に着いた」
「魔法少女だからね、これくらい簡単だよ♡」
「そ、そうか……」
どうにもそのテンションに押されてしまう、まだルナに慣れるのには時間がかかりそうだ。
「すごいね、ルナ。場所知ってるんだ」
「うん、昨日の悠真くんの配信見てたからね☆」
「私も見てたけど場所までは覚えてなかったなぁ」
一方でユナはなんでもないように話している。
お互い配信者としての付き合いの方が多いのだから、むしろこれがいつも通りなのか。
俺も早いとこ慣れないといけないな、何せ今から配信を始めるのだから。
ちなみに今回配信をすることになった理由は二つ。
一つは配信の内容をそのままダンジョン調査の証拠として、協会に提出できるから。
もう一つは万が一俺たちの身に何かあった時、歩夢さんがすぐにそれを察知できるからである。
まあもちろんそんなことになるつもりはない。
この配信でより多くの人気を稼ぎ、みんなにも安心を与えてみせる予定だ。
「二人とも、配信を始めても良いか?」
「うん、準備オッケーだよ!」
「悠真くん、じゃなくてニルとのコラボ、楽しみ♡」
二人の返事を聞くと、俺は自律式浮遊カメラの電源を入れ、配信を開始する。
「どうも、皆さんこんにちは!ニルです!今日は昨日見つけたダンジョンを、攻略していきたいと思います!」
まずは配信に映っているのは俺だけ、カメラの向こうでは二人が待機している。
俺が軽くアイコンタクトを送ると二人も返してきた。
「そして今日は二名の助っ人に来ていただいてます!」
「お邪魔してます、ユナです!」
「煌めくアナタの一番星、魔法少女ビビット☆ルナだよ!」
「ということで今日は大人気配信者のユナさんとルナさんにコラボしていただきました!」
二人の登場にコメント欄は一気に盛り上がる。
どちらも登録者数は100万人越えの超人気配信者、当然のことだろう。
ちょくちょく『ニルは要らない』という旨のコメントもみえる気がするが、まあ気にしないでおこう。
「それでは未知のEランクダンジョンに突入します!」
カメラに向かって宣言し、ダンジョンに突入する。
その直後であった。
「シャァァァッッ!!!」
身の毛もよだつ叫び声が四方から響き渡る。
ダンジョンの入り口はアーヴァンクの群れに囲まれていた。
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