第54話 真実
歩夢さんが作ってくれた転移魔法陣に飛び込み、事務所のエントランスも階段も走り抜け、俺は歩夢さんがいる部屋に飛び込んだ。
中にいた歩夢さんと真琴は、少し驚いたように俺を見ている。
「おかえり、悠真くん。無事で良かったわ」
歩夢さんの心配をよそに、俺は真っ直ぐに真琴の元へ向かう。
「教えてくれ、君は宇宙人なのか?」
「何言ってるんですか、先輩!宇宙人なんているわけないじゃないですか」
真琴はそう言って笑い飛ばす。
だが俺はそれでも真剣に、再びこう問いかけた。
「それじゃあ君はどこから来たんだ。ダンジョンの中?それともダンジョンの──」
「悠真くん」
俺の名前を呼んだのは歩夢さんだった。
これまで見たことないほど真剣な、どこか思い詰めたような表情をしている。
「今日はもう帰ったほうがいいわ、きっと疲れてるのよ」
確かに歩夢さんの言う通りだ、きっと俺は疲れているのだろう。
そうじゃなきゃこんな変な考えは思いつかない、それでも今ここで引き下がることはできない。
それは違う、と俺以外の人に否定して欲しかった。
「歩夢さん……ダンジョンの中からモンスターが出てくることって、あり得るんですか?」
普通なら『あり得る』と答えるだろう、しかし歩夢さんは肯定も否定もしない。
それは俺の考えが正しいと、暗に言っているようなものであった。
思えばずっとそうだった、思い込みがいつも真実を隠してきた。
Dランクが一番上なわけがない、そんな思い込みがあったからこそ、俺はずっと自分が大したことないと思って生きてきた。
同じクラスに有名配信者がいるわけない、そんな思い込みがあったからこそ、由那や美月の正体に気がつけなかった。
モンスターが現実世界に這い出てくることがある、そう思っていたからこそ、俺はずっと学校の近くにあるであろうダンジョンの入り口を探してきた。
ありもしないものを探していたからこそ、真実に気づくことができなかった。
「本当は、モンスターがダンジョンの外に出ることは不可能なんじゃないですか?」
俺は見たことがある。
ダンジョンの中に別のダンジョンが存在するのを。
時空の歪みの中からモンスターが現れる瞬間を。
空から突然人が舞い降りるところを。
しかし俺は見たことがない。
モンスターがダンジョンの入り口を超えていくところを。
「だったら、学校でのことはどう説明するの……?」
歩夢さんの声は震えていた。
きっとこれ以上進んではいけない、もう後には退けなくなる。
それでも、俺はそれを口にせずにはいられなかった。
「ちょうどモンスターが現れただけですよ……ダンジョンの中に……」
自分でもふざけたことを言っているのはわかっている。
今から笑い飛ばされたって不思議ではない。
それでも歩夢さんは椅子に深く腰掛けて、絞り出すような声で言った。
「そう、気づいてしまったのね……」
俺はそれをハッキリと聞いた。
全て説明がいってしまうのだ。
時空の歪みを介して校庭にモンスターが現れたことも、各地はダンジョンの入り口があることも、真琴が空から降ってきたことも。
「悠真くんの想像通りよ。ここは『龍の巣窟』や『渾沌の領域』よりも遥かに危険な、自らを神と称する者が支配する空間」
これまで起きた謎の全てが、たった一つの答えで解決してしまう。
「
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