第3話 大バズり

「昨日のユナの配信見たか⁉︎」


「見た見た、大ピンチだったよな!やっぱEランクダンジョンってヤバいんだな」


「昨日Vinterでは無事って言ってたけど、本当に大丈夫かな」


 さすがは超人気配信者というべきか。

 翌日高校に行くと、クラスでもかなり昨日の話題で持ちきりになっていた。

 チラリと隣の席を見ると、まだ白星さんは学校に来ていない。


 特に怪我は無かったので無事ではあるのだが、何かあって遅れてるのだろう。

 確か配信事務所にも所属しているらしいから、そちらでの対応があるのかもしれない。


「それよりヤバいのはあの一瞬映ったやつだろ」


「Eランクモンスターを一瞬で倒してたよな、そんなことができる人間いるのか?」


 なんとなくクラスの噂話を聞き流していると、話題が変わった。

 

「チラッと見えたけど、有名配信者じゃなかったよね」


「うん、というか配信者でもあんな簡単にEランクモンスターを倒す人なんて知らないよ」


 そういえば昨日も白星さんは配信をしていた。

 助けた時は配信に映ったかも程度に考えていたが、今になって思えば大変なことをしたのではないだろうか。


「あ、おはよう由那ちゃん」


 そんなことを考えていると白星さんが教室に入ってきた。


「おはよう、ちょっとごめんね」


 随分慌てた様子だなと思っていたら、彼女は自分の席を超えて俺のところに真っ直ぐ来る。


「ごめん、神凪くん。ちょっといい?」


「え、俺?」


「うん、早く来て!」


 白星さんは俺の手を取ると、無理やり教室の外に引っ張っていく。

 教室からはヒソヒソと何やら話し声が聞こえてきたが、一番状況をよく理解できていないのは俺だ。

 わけのわからないまま人通りの少ない廊下まで連れて行かれる。


「神凪くん、これ見て!」


 そうして白星さんはいきなりスマホの画面を俺の目の前に突き出す。

 それは恐らく昨日の配信のアーカイブ。

 再生数は既に数100万回に昇っている。


「おお、さすが人気配信者」


「ありがとう、ってそうじゃないの!ほら!」


 続けて見せられたのはVinterの画面。

 そこには様々な人の投稿が映っているのだが。


〈ユナちゃんの配信に出てきた男、マジで何者?〉


〈アレやらせじゃないの?Eランクモンスターを瞬殺とかあり得ないでしょ〉


〈Dランクなら可能だろうけど、そもそもDランクに到達する人間とか現れるわけないしな〉


〈CGか仕込み?確かグローツラングって今まで死者が10人以上出てるようなヤバいモンスターだろ?そうとしか考えられん〉


〈噂によるとあの後フェルニゲシュの死体も見つかったらしい。今まで誰も倒したことないはずなんだけど〉


 さすがにそれが何を表しているのかは俺でもわかった。


「もしかして昨日のことが騒ぎになってる?」


「うん、それも物凄く。昨日からずっとトレンド1位の大バズりだよ」


 昨日に続いて夢でも見ているのではないか、と思いたくなる。

 まさかこんなことになるなんて誰が想像できただろうか。


「えーっと、ごめんなさい?」


「謝らなくていいよ。っていうか、むしろ謝らないといけないのは私の方かも」


「え?なんで?」


「今朝事務所のマネージャーがね、神凪くんを連れてきて欲しいって」


「俺を?」


「うん。しかもその人いい人なんだけどちょっと強引でね、今日の学校終わりに迎えに来るっていうの。私と神凪くんを」


「ええ……」


 さすがにそう言われても困惑することしかない。

 ダンジョン探索の様子を配信する『ダンジョン配信者』というものがあるのは知っている、しかし俺はただの探索者しかしていなかった。


 というのもあれで人気が出るにはルックス、トーク力、実力のうち、少なくとも一つは要求される。

 普段配信を見ているわけではないのでトーク力についてはわからないが、白星さんはルックスと実力に関して秀でたものがある、だからこんなにも人気なのだ。


 ただ俺にはどれもないと思っていたため、配信者になるという選択肢はなかった。

 いや、今なら実力はあるということになるのだろうが、それでも配信者になるなんて考えてもなかった。


「俺、配信者になる気は無いんだけど」


「だよね、でもごめん!今日だけお願いしてもいい?」


 絶対嫌、というわけではないし、凄く行きたい、というわけでもない。

 ただ両手を合わせてお願いまでされると、無下にすることもできなかった。


「まあ用事もないし、行くだけなら」


「本当にごめんね、助けてもらった上に迷惑までかけちゃうんだけど」


「いいよ、俺のせいで話題になったんだったらちょっと責任も感じるし」


 多分怒られたりはしない、はず。

 所属している配信者が危ない目に遭ったのだから、色々と当時の状況とかを聞かれるのだろう。


「ありがとう!それじゃあ放課後にまた……ってチャイムだ!」


「とりあえず教室に戻ろう、どうすればいいかはまた後で教えてくれ」


「うん!」


 俺たちは授業に遅れないように教室に向かって走る。

 何が起こるかはわからないが、まあそれはその時の自分に任せよう。


 それより今日の晩ご飯をどうしようか、作る時間もなさそうだから適当にどっかで買って帰るか。


 俺はそんなことを考えながら授業を受け、放課後を迎えた。

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