第2話 唯一の最高ランク

「あはは、バレちゃった」


 そう言って白星さんはウィッグを外す。

 肩の少し下まで伸びる亜麻色のストレートヘア、それはいつもよく見る学校での白星さんの髪型だ。


「今まで誰にもバレなかったのになぁ」


「驚いたよ。まさかあの人気配信者のユナが白星さんだったなんて」


「それをいうなら私もビックリしちゃった。まさか神凪くんがこんなに強いなんて」


「そう、なのか?」


 あまりピンと来なかった。

 だって俺はDランク、そこまで才能があるわけではないのだから。


「そうだよ、今だって簡単にモンスターを倒しちゃったじゃん」


「そりゃまあ、Eランクくらいなら倒せるけど」


「え?」


「え?」


 なぜだろうか、どうにも話が噛み合わない。


「Eランクくらい……ってどういうこと?」


「いや、俺はAランクとかSランクは無理だから」


「神凪くん……ダンジョンのランクにAとかSはないよ」


 俺はそう言われてますますハテナを浮かべる。

 どういうことだろうか、俺のランクはDランクでこのダンジョンはEランク。

 ならその上にC,Bとあり、その先にAやらSが続くとばかり思っていたのだが。


「もしかして知らなかった?ダンジョンのランクって少し特殊なの」


「え、そうなの?」


「うん。ランクはB《Beginner初級者》から始まって、そのあとI《Intermediate中級者》、P《Professional上級者》と続くの。その上にあるのがE《Expert超上級者》で──」


「ガァァァッッッ!!!!」


 白星さんの声を遮るように、モンスターの咆哮が響き渡る。

 しかし普段からここによく来る俺でもあまり聞いたことのない声だった。

 ということは本来ここより下、中層〜下層にいるモンスターが表層に現れたということだろう。


「これは危険だ。白星さん、逃げっ」


 危なかった、まさかこうも一瞬で獲物を見つけ、襲いかかってくるなんて。

 あと少し反応が遅れていたら白星さんを抱えて逃げることもできず、2人とも食われていただろう。


「なに、このモンスター……」


「噂には聞いたことがある。確か名前はフェルニゲシュ、すごく危険なモンスターらしい」


 黒龍の名に違わぬ漆黒の巨体を持つその龍は、予想以上に俊敏な動きで襲いかかってくる。

 これだけ速いと逃げるのは難しそうだ、となるとここで倒すしかない。


 俺は創り出した剣を地面に突き立て、光の結界を張る。

 フェルニゲシュは口を開けて魔法のブレスを吐くが、結界の前には効果がない。


「白星さん、ここにいれば安全だ。動かないでくれ」


「神凪くんはどうするの?」


「俺はアイツを倒す。こっちだ、来い!」


 結界の外に出ると、フェルニゲシュの注目はこちらに向く。

 振り下ろされる爪と尻尾による薙ぎ払いを躱すと、俺は一気に距離を詰めた。


 そして懐に入るともう一段加速し、ブレスを吐く直前の無防備になった首を両断した。


「す、すごい……」


 白星さんは呆気にとられた様子で俺を見ている。

 恐らくさっきまでならなんでそんな驚いているのだ、と思ったはずだが今は違う、一つだけ気になることがあった。


「さっきのランクの話なんだけど、俺のランクがまだ出てきてないんだ」


「えっ……」


「俺何も知らないでやってたからさ。だから教えてくれないか?Dランクって、どれくらいなんだ?」


「神凪くん、Dランクなの……?」


 俺がDランクだと知った白星さんは目を大きく見開き、これでもかと驚きを露わにしている。

 でもそれも無理のないことであった。


「ランクD《Devine》は一番上、今まで世界で誰一人として到達したことのないランクなんだよ?」


「へ?」


 だって白星さんの話によると、俺は世界で初めて最高ランクの才能を持った探索者、ということになるのだから。


「あり得ない……けど、今のを見たら……」


「今の話だとさ、Eランクもすごい上なんだよな?」


「うん、ここもそうだよ。Eランクダンジョン『龍の遭遇』は、Eランクの中でも有数の高難易度って言われてるんだから」


 正直言ってそろそろ頭が追いつかなくなりそうだった。


 才能がないと思っていたら自分は世界で初めてのDランク探索者で、簡単なダンジョンだと思っていたここも超高難易度のダンジョン。

 おまけに今話題の超人気美少女配信者の正体は、高校で席が隣の学校のアイドルだった。


 1日で色々ありすぎて、まだ夢と言われた方が納得できる。


「……とりあえず帰るか」


「……うん、そうだね」


 少し考える時間が欲しかった。

 それにここが危険なダンジョンとわかった以上、白星さんと長く留まっているのも危ない。

 俺は白星さんと一緒にダンジョンを出ると、近くの駅で別れて一人家に帰る。


 しかしご飯を食べている時もお風呂に入っている時も、寝るためにベッドに入っている時も。

 どうしても色々と考え事をしてしまう。


 もし才能があるのなら本格的に探索者として生きていくのもいいのではないか、とか。

 でも本当はあの計測器の故障なのではないか、とか。

 実は今まで探索者に売ってた素材の値段は相場よりずっと安かったのではないか、とか。


 だが翌日、そんな悩みを全て吹き飛ばすほどのイベントが俺を待ち受けていたのだった。

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