第20話 攻略、謎のダンジョン ④
「ガァァァッッ!!」
「急になに⁉︎」
「なんか、苦しんでるよ!☆」
クラーケンが攻撃をやめ、叫び声を上げる。
二人からすれば突然苦しみ出したように見えるだろう。
実際には水中でダメージを受けているのだが。
「待って、周りからも何か声が!」
ユナの言う通り聞こえるのはクラーケンの叫び声だけではない。
周囲の木々がざわめき、そこから様々な鳴き声が響き渡る。
確かに今までも戦いがモンスターを引き寄せて来た。
相手がダンジョンのボスであるクラーケンとなれば、より広い範囲のモンスターを集めてしまう。
「また攻撃が来るよ!☆」
クラーケンはそんなことお構いなしに、それまで以上の激しさで脚を振るう。
ただそれらは地面に叩きつけられるより先に、力無く水の中に沈んでいった。
「大丈夫、ここは水が多いからな」
「水……?」
前方の湖に巨大な渦潮が生まれ、その中から剣が姿を現す。
それも一本ではなく何本も。
その剣は水の中より生まれ出でて、水の中に消えゆく。
実体は持たず、水のある場所に自由に創造でき、周囲の水を操る。
それこそがこの剣、湖剣・アロンダイト。
さっき波が一人でに割れたのもこの剣の持つ能力によるものだ。
「たくさん来たな、全員飲まれろ!」
アロンダイトは他と比べても特殊な剣だ。
数も形も大きさも変幻自在。
水のある場所でしか使えないという制限はあるものの、使えさえすれば応用力は他の剣とは比べ物にならない。
今は蛇のような形となり、周りから迫り来るモンスターを片っ端から飲み込んでいく。
「す、すごい」
「もしかしてさっきまで手加減してたの?♡」
「いや、単純に水の量が足りなかったんだ。ここはでっかい湖があるからな、真価が発揮できる」
水がないと使えない、と聞くと不便に思うかもしれない。
だがそもそも水のない場所での戦闘なら、他の剣でどうとでもなる。
むしろ武器創造の魔法で戦う以上、俺はどうしても近接戦闘が中心になってしまう。
そのためクラーケンのような水の中に住むモンスターはどうしても苦手になる、なのでアロンダイトは非常に重宝しているのだ。
「まだまだ、こっからだ!」
使える場面が限られてくるのだ、使える時は思う存分暴れさせてもらうとしよう。
周囲のモンスターを飲み込みつつ、俺たちを囲む巨大な輪を作ったアロンダイト。
それは再び無数の剣となり、一斉に中央を向く。
狙いはもちろんクラーケンただ一つ。
「いけ、アロンダイト」
全方向からの斬撃が容赦なく襲いかかる。
いかに体が大きかろうと、絶えず斬撃を浴びせ続ければたまったものではないだろう。
トドメに湖の水を集めて俺の身体の10倍はある巨大な剣を創り出し、それをクラーケンの胴体に突き刺した。
「グ、ガァァァ……」
胴の真ん中にどでかい穴が空いたクラーケンは、湖の中に沈みながら霧散していく。
「あ、なんか光ってるよ♪」
ルナは湖の底を指差す。
クラーケンがいなくなって底まで見えるようになった透明な湖、その中に光り輝く謎の球体があった。
「あれがダンジョンのコアだね!」
ダンジョンのコア、それを破壊すればダンジョンそのものが消滅する。
もちろんそれに伴い中のモンスターも全て霧散する、人がいる場合は強制的に入り口へと戻される。
「ユナ、頼む」
「任せて!」
周りにモンスターはいない。
ユナは弓を思い切り引き絞り、魔力を込めた矢でコアを貫いた。
直後、ダンジョンが大きく揺れたかと思うと地面にヒビが入っていき、白い光に包まれる。
そして俺たちは入り口のあった希望のほとりに戻っていた。
「……終わった?」
「ああ、Eランクダンジョン攻略完了だな」
「本当に私たちだけでできちゃったね☆」
「あはは、ほとんどニルがやったようなものだけど」
「そんなことない、クリアできたのは俺たち三人がいたからだ」
何はともあれ誰一人怪我することなく、このEランクダンジョンを攻略することができた。
周りに被害を出してもいない、完璧と言っていいだろう。
「よし、それじゃあ無事に謎のEランクダンジョンも攻略できたことだし、そろそろ配信終わります!」
「みんな、見てくれてありがとう!」
「次回もよろしくね☆」
配信終了のボタンを押す。
最後にチラッと見えたのだが、終わる直前の視聴者数が30万人を越えていた気がする。
ユナとルナの人気効果は俺が想像していたよりもずっと凄いらしい。
「よし、ひとまずこれでOKだな」
「お疲れ様、悠真くん」
「由那もお疲れ、美月も平気か?」
「うん、まだまだ元気だよ♡」
そういえば配信が始まる前もこのテンションだった。
どうやら配信中にキャラが変わる、というよりは衣装を着ている間変わるらしい。
「じゃあまた入り口まで送ってもらってもいいか?」
「任せて!じゃあ二人とも捕まってね☆」
恐らく歩夢さんもずっと心配していたはずだ、早く帰って報告しにいくとしよう。
俺たちは美月に掴まり、ここに来た時と同じように彼女の魔法で入り口まで移動し、『希望のほとり』を後にしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます