第19話 攻略、謎のダンジョン ③

「ルナ!そっちをお願い!」


「まっかせて☆」


 突入から1時間、俺たちは相変わらずモンスターとの戦闘を繰り返していた。

 どうやらこのダンジョンのモンスターは随分好戦的らしい、戦闘音を聞きつけて続々と集まってくる。

 そうして来た奴らと戦っていると、それがまた周囲のモンスターを引き寄せて──


 といった感じで悪循環に陥っている。


 これでもかなり急いでいる方なのだが、他のダンジョンと比べても圧倒的に戦闘になる頻度が高い。

 不幸中の幸いと言うべきか、あれ以降群れに襲われることはなかったため、基本的に戦闘は二人だけで完結している。


「ニル、またお願い」


「あいよ」


 じゃあ俺はなにをしているのかと言うと、道を切り拓いている。

 ひたすらジャングルを切って、視界を確保するだけ。

 外でやれば環境問題がどうだの言われそうだが、まあここはダンジョン内部なので問題はない。


「お、なんだあれ」


 ようやく少し景色に変化が出て来た。

 木々が倒れた先に見えたのは、とんでもなく広い湖。

 俺たちの足元を流れていた水も、どうやらここに流れ込んでいたらしい。


「魚がいるみたいだよ☆」


 ルナの言う通り遠くの方で魚が飛び上がっているのが見える。

 ただ湖は透明度の低い水のせいか、中がどうなっているのかは全く見えない。

 そしてその中心から、先ほどからずっと感じる嫌な気配が放たれていた。


「気をつけろ、あそこに何か恐ろしいのがいる」


 恐らくここまで戦って来たアーヴァンクやケルピーとは格が違う、正真正銘のEランクのモンスターだ。

 俺は十分に警戒しながら湖のほとりまで進む。


「まさに熱帯って感じの雰囲気だね」


「そうだな、行ったことないけど」


 嫌な雰囲気の割には静かだな、なんて思っていたのも束の間。

 湖の真ん中でブクブクと泡が立ったかと思うと、とてつもなく巨大なイカのようなモンスターが姿を現した。


「クラーケン!こんなデカいのかよ!」


 その時俺はようやくわかった。

 この水が濁っているのではない、湖全体がクラーケンの影で暗くなっていたせいで中が見えにくく感じただけなのだと。


 戦いにおいてサイズが及ぼす影響は甚大。

 例えこのクラーケンが何か特殊な能力を持っていないとしても、デカすぎるというだけで俺たちにとってはこの上ない強敵となる。


「これがEランク……」


「私の魔法、通じるかな?♫」


「気をつけろ、攻撃が来る!」


 水中からクラーケンの脚が何本か伸び、俺たちに向けて振り下ろしてくる。

 全体的には緩慢な動きに見えるが、足の先端の速度は凄まじく、破壊力も絶大。

 地面に打ち付けられるたびにそこにクレーターを作り出している。


 俺たちなら掠っただけで大ダメージは免れない。


 モグラ叩きのように適当に脚を振り回されるだけで、俺たちは逃げざるを得なくなる。


「クソッ、好き勝手暴れやがって!」


 ただ逃げてばかりではいつかやられる。

 俺は隙を見つけ、振り下ろされた脚をギリギリで交わすと同時に先端を斬り飛ばす。

 

 5分ほど逃げ続けた甲斐もあって、だいぶ目が慣れて来た。

 一度コツを掴めば簡単で、慣れてからは迫り来る脚を次々と切断していく。


「効いてなさそうだな」


 しかしあまり効果はなかった。

 何より時間が経てばクラーケンの脚は再び生えてきている。


「こうなったら顔を狙うしかないな」


「じゃあ私たちに任せて!」


「全力の魔法を撃ち込むよ☆」


「攻撃に集中してくれ、その間は俺が守る!」


 ヤツまでの距離は数10m、なら二人の弓矢や魔法の方が適している。

 魔力を集中させている間、俺は迫り来る無数の脚を範囲に入ったものから切り刻んで二人を守る。


「今だ!」


 脚の再生が間に合わず、一瞬生まれた好機。

 そこを逃さず二人が魔力を込めた一撃がクラーケンに直撃する。

 間違いなく今日一番の威力、だが。


「グガァァァァッッ!!!」


「効いてない……?」


「いや、ダメージはある。倒れはしなかったみたいだけどな」


 さすがはこのダンジョンの主というべきか、二人の全力を受けても倒れなかったらしい。

 コイツだけは『龍の巣窟』のモンスターと比べても遜色ない、それどころか俺が普段いる表層付近のモンスターよりも強いくらいだ。


「どうしよ、今以上の魔法は出せないよ♪」


「私も今のが限界だよ……って何かくる⁉︎」


 クラーケンはその巨体を思い切り水の中に叩きつける。

 それによって生まれた壁のような波が、こちらに襲いかかってくる。


「二人とも、離れないでくれ」


 俺は迫り来る波に向けて右腕を伸ばす。

 その直後、モーセの伝説のように波は真っ二つに割れ、俺たちの両側へと流れていった。


「ニル、今なにをしたの?」


「水を武器にできるのはアイツだけじゃない、ってことさ」


 クラーケンが水中から姿を現す。

 丁寧にも全ての脚を再生させてきているようだ。


「ユナ、ルナ、脚を任せていいか?」


「りょーかい、全部撃ち落とすよ♡」


「わかった、クラーケンは任せるよ!」


 役割交代、今度は俺が本体を狙う。

 とはいえ普通の剣では攻撃が届かない、フラガラッハなら届くだろうがこれは二人をカバーするためにも手元に残しておきたい。


 ならば使う剣は一つ。


ろくの秘剣・湖剣こけんアロンダイト」

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