第26話 共闘

「べるふぇさん、そっちはお願いします!」


「任せて」

 

 アーヴァンクの群れと戦った時よりさらに桁違いの、息つく暇もない猛攻が続く。

 だがその中でも俺たちは確実に数を減らしていた。


「どんだけ来るんだよコイツら、多すぎだろ!」


「突っ込みます、援護を!」


 近接戦闘を中心とする俺とべるふぇさんは、互いにカバーしながら敵陣の中に突っ込んでいく。

 討ち漏らしは魔法主体の戦闘スタイルを取るサタンさんが片付ける。


 そうして戦い続ける中、俺は不思議な感覚を覚えていた。


「べるふぇさん!」


「わかってる」


 俺の背後に回っていたモンスターがいたが、べるふぇさんの槍がそれを貫く。


「背後はお願い」


「任せてください!」


 背中の敵を倒して貰えば前に集中できる。

 俺はそのまま正面に突っ込んで行き、今度は逆にべるふぇさんの周囲の敵を斬る。


「跳んで」


 その声を聞いて俺は高く飛び上がる。

 直後、べるふぇさんは槍の端を持ったままその場で回転して振り回す。

 その一撃で周辺にいたモンスター消滅した。

 だが飛行型のモンスターはまだ生き残っている。


「肆の秘剣・操剣フラガラッハ」


 飛んでいた俺はフラガラッハと幾つかの剣を創造し、上空のモンスターを殲滅する。


「ありがとう、助かった」


「それはこっちのセリフですよ。それよりも」


「ええ、最後に来る」


 あれだけいたモンスターもほとんどいなくなった。

 だが気配でわかる、全て倒したわけではない。

 奴らは逃げたのだ、俺たちからではなく、それよりももっと恐ろしい何かから。


 無数の気配の代わりに、近づいてくるとても大きな何かの気配がひとつ。


「グルォォォッッ!!!!!」


 叫び声一つで洞窟そのものが揺れ始める。

 そうして現れたのは、山そのものが動いているのではないかと錯覚するほどに巨大な龍。

 足を一歩踏み出すだけで地響きを起こすソイツは、唸り声を上げながらこちらを睨んでいる。


「べるふぇさん」


「ええ」


 俺たちは同時に動いた。

 何故だろうか、さっきからべるふぇさんがどう動くのかがわかる。

 そして向こうも俺の動きがわかっているかのように、こちらに合わせてくれる。


 当然だがべるふぇさんとの共闘はこれが初めて、それどころか今までは一人で戦ったことしかない。

 なのにこの上なくやりやすい、逆に気持ち悪く感じてしまうほどに。


「参の秘剣・輝剣クラウソラス」


 もはや言葉も必要なかった。

 巨大な龍はその足で俺たちを踏み潰そうとしてくるが、俺はクラウソラスの障壁でそれを受け止める。

 べるふぇさんは素早く横を取り、その槍で持ち上がったままの片脚を貫いた。


 力が抜けたタイミングを見計らい、俺は障壁で龍を押し返す。

 そうしてバランスを崩したところをべるふぇさんが一気に攻め立てる、しかしその手は途中で止まった。

 

「かなり硬い、槍の方が持つか不安」


 身体強化魔法のかかった彼女の力ならば、この龍の堅牢な鱗ですら貫くことはできる。

 だがその硬さと彼女の力に武器の方が限界を迎えつつあった。

 ここまでずっとEランクモンスターを相手にし続けて来たので仕方ないのかもしれないが、既にその穂先はボロボロに欠けている。


「べるふぇさん、奴の気を惹きつけてもらえますか?」


「何か手があるのね」


「はい、俺に任せてください」


 俺がそう言うとべるふぇさんは無言で頷き、槍を構えて龍の脇腹に突っ込む。

 ボロボロの槍が身体に刺さることはなかったが、圧倒的な力でもって龍の体を後方へと押し込んでいく。


 その間に俺は両手を前に伸ばし、そこに一振りの剣を創造する。

 刀身だけで俺の身長の1.5倍はあろう大剣を。


「伍の秘剣・剛剣ヴァルムンク」


 この剣の刀身は絶対に壊れることはない。

 この世に存在する何よりも硬く、あらゆるものを両断する剣。

 あまりにも大きくて重く、使いづらいのがネックだ、だが。


「べるふぇさん、これを!」


 俺の魔法はあくまで武器を想像するだけ、必ずしもそれを俺が使う必要はどこにもない。

 今ならば俺よりも彼女の方がこれを上手く扱えるだろう。


「ありがとう、借りる」


 べるふぇさんは俺が投げたヴァルムンクを受け取ると、それを大きく天に掲げる。

 そして縦に一閃。

 どんな衝撃にも耐えうる剣と最強の筋力、その二つが合わさればどうなるか。


 山ほどもある巨大な龍は真っ二つ。

 さらに以前俺がエクスカリバーで作ったそれの数十倍はあろう攻撃の跡が、ダンジョンの壁に深く刻み込まれていた。


「はは、凄いなんてもんじゃないですね」


「力を込めて振ったのに少しも壊れていない、こんなの初めて」


「俺も初めてですよ、ヴァルムンクをあんなに軽々振り回すのを見たのは」


 鳥肌が立つほどに恐ろしい一撃だった。

 全力で戦っても勝てないかもしれない、そう感じたのは初めてのことだった。


「おい、お前ずっと力を隠してたのか?」


「隠してたつもりはないですよ。配信では必要がないと思ったら力をセーブしただけで」


「……そうか」


 サタンさんは心底驚いたように俺を見ている。

 ここまでの戦闘になるのは予想外だったが、その反応を見る限り当初の目的通り俺の実力の証明はできたようだ。


「それより早く戻りましょう、また襲われたら大変なんで」


 さすがに今の戦闘をもう一回行うのは無理だ。

 またアイツらが寄ってくる前に、俺たちはダンジョンの入り口へと急いだ。

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