第25話 最強と呼ばれる者たち
ここには今まで何度も来た、とはいえ中層に来るのは初めてである。
俺だけに限らずここまで来る人は少ないのだろう、表層に比べてモンスターの気配が濃い。
しかもその種類や強さもこれまでとは違う。
まるで別のダンジョンに来たのではないかと錯覚してしまうほどに、禍々しい殺気のようなものが感じられる。
「出てきたな、初っ端からなかなかのやつが」
中層に来てからわずか数分で、俺たちの前にモンスターが現れた。
7つの頭を持つ凶暴な龍、エレンスゲ。
全長は20m近くあり、顎の力は強力で岩をプリンのように噛みちぎる。
さらにそれぞれの首が吐き出す炎の息は鉄をも溶かすと言われている。
「戦うのは初めてだぜ」
サタンさんとべるふぇさんは身構えるが、俺はそれを腕を伸ばして制する。
「大丈夫です、任せてください」
「おいおい、このレベルを相手に一人でやるつもりか?」
「知りたいんですよね?俺の実力」
今日はいつもよりやる気だった。
『お手並み拝見』だなんて正面から言われればこちらも黙ったままではいられない。
それにこうして実際に顔を合わせてみて、勝負はともかくコラボはしてみたいと思った。
ならばこの機会にコラボするに足る実力があることを証明しよう。
「参の秘剣・輝剣クラウソラス」
普段は防御のために使っているが、切れ味も抜群。
吐き出された炎は障壁で弾きつつ、真っ正面から距離を詰める。
岩を噛み切る牙もこの壁の前には役に立たない。
むしろ食らいつきにきてくれた方がありがたい、反撃で簡単に首を刎ねることができる。
「あと五つ」
近くにあった二つの首はやった。
だが残りは五つ、そして向こうは危険を察知したのか大きく距離を取ろうとする。
だが逃すわけにはいかない、このまま一気に決める。
「肆の秘剣・操剣フラガラッハ」
俺はクラウソラスを解除し、代わりにフラガラッハを飛ばす。
息つく暇も与えずさらに二つの頭を取る、その間に俺は再び距離を詰めた。
「壱の秘剣・エクスカリバー」
最後の一振りで残り三つの頭を両断する。
少しいつもよりはハッスルしすぎだが、これくらい派手にやった方が実力の証明にはなるだろう。
「は、はは……思ったよりやるじゃねぇか」
「ありがとうございます。サタンさんにそう言ってもらえるなんて光栄ですね」
どうやら手応えは十分だったらしい。
これならわざわざ秘剣を三つも使った甲斐がある。
「どうします?もう少しここに──」
「気づいた?」
「はい、ちょっとマズイかもしれないですね」
俺がそう言うと、べるふぇさんは無言で頷いた。
ここは滅多に人が訪れない場所、今日はもちろんこの数日で誰か一人でも来たかどうかすら怪しい。
言ってしまえば前に訪れた未知のEランクダンジョンと似たような状況、そのせいか同じようなことが起きている。
「今の戦い、周りのモンスターを引き寄せている」
「すみません、俺のせいですね」
「誰のせいでもない、気にしないでいい」
そう話しているとモンスターがこちらに飛来してくる。
最初に姿を現したのは黒龍フェルニゲシュ。
「来たな」
今度は身構える俺をべるふぇさんが制する。
「ここは私に任せて、少し休んでて」
そう言ったかと思うと、彼女の姿が視界から消えた。
そのスピードは俺が今まで出会ったどんな人やモンスターよりも速い、目で追うのがギリギリのレベル。
どうやら身体魔法強化をかけて動いているらしい。
だが普通の人のそれとは比べ物にならない、足を踏み込むだけで地面が抉れている。
そのままフェルニゲシュの真下に入ったかと思うと、垂直に飛び上がって腹部を貫いた。
次の瞬間、フェルニゲシュの身体はバラバラに弾けて霧散していく。
どうやら俺は一つ、大きな思い違いをしていたらしい。
確かにサタンをリーダーとする『七つの大罪』が積み重ねてきた実績は華々しく、世界最強集団の呼び声を欲しいままにしている。
だがその中でも彼女は一際飛び抜けている。
こうして直接目の当たりにすれば嫌でもわからされる。
世界最強の称号は伊達ではない、というわけだ。
「凄いですね、あんな一瞬で」
「それは貴方にもできるでしょう?」
「さあ、どうですかね」
「おい、喋ってる場合じゃねぇぞ。まだまだ来やがる」
今のフェルニゲシュはほんの始まりに過ぎない。
ふと周りを見渡せば、表層で見るティアマトやグローツラングの群を中心に、Eランクの凶暴なモンスターが集まってきている。
だが今は負ける気がしない。
ここにいるのは世界最強集団を率いるリーダーと、その中でも一際輝く人類最強。
「しっかり頼むぜ、ニル。人類最強って呼ばれてんだろ?」
「俺は名乗ったつもりはないですよ。勝手に周りが言ってるだけです」
「それでも期待してる」
互いに背中を預け、四方から迫るモンスターと相対する。
周りには誰もいない、配信もついてはいない。
そんな中、過去に類を見ない激闘が人知れず幕を開けようとしていた。
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