第36話 勝負の行方

 凛さんはこちらを向き、目を見開いて驚きを露わにする。

 それはそうだろう、それを言った俺だって驚いている。

 ただ勢いで口にしてしまっただけで嘘ではない、凛さんの力はこれからの俺たちにとって必要だ。


 なにせ今日俺たちは『七つの大罪』に勝ってしまった。

 これから先は新たな世界最強のパーティとして、それ相応の責任も伴うのだから。


「それはできないわ、私にその資格はない」


 しかし凛さんは笑った後、わずかに目を伏せながら答えた。


「資格?どういうことですか?」

 

「言ったでしょ、私もサタンと同じ。見て見ぬ振りをして貴方たちにもこんなに迷惑をかけて、今更ついて行くことなんてできない」


 俺はそうは思わない。


 確かに少しずつ道を誤っていくサタンを見ていただけかもしれないが、それはいつか彼がかつての真の英雄であった時に戻ってくれると信じてのこと。

 それに真実を知った後は冷静に状況を判断し、すぐに俺たちに協力して霜の巨人と戦ってくれたからこそあの状況を切り抜けられた。


 ましてや共に行動するのに資格なんてものは必要がない。


「俺は、俺たちはそんなこと気にしません」


「私は話を聞いただけですけど、凛さんは悪くないと思います」


「うん!それに一緒に戦った時もすごく相性が良かったし、いいパーティになれると思うな⭐︎」


「ありがとう、そう言ってくれて。だけど私は、自分で自分を許せないの」


 どうやら凛さんの決意は固いらしい。

 きっと今回のことに責任や罪悪感を感じ、俺たちと来てはいけないと考えているのだ。

 この様子では俺たちがどんなに受け入れようとしても、彼女自身がそれを拒んでしまうだろう。


 だったら少しアプローチを変える必要がある。

 俺たちは善意や同情で誘っているのではなく、本気で彼女を必要としているのだと理解してもらう必要が。


「俺は、サタンのようにはなりません」


 俺が突然そう言うと、凛さんは少しだけ面食らったような表情をしたが、すぐに普段の様子に戻る。


「そうね、この前貴方が配信者になった理由を教えてくれた時、私は驚いた。貴方は誰よりもまっすぐだった」


「そうあれるのは、ユナやルナのおかげです」


 俺よりずっと前から配信者のユナとルナは、いつも純粋な想いで活動している。

 そんな二人を見ているからこそ、俺は急に人気になったとしても最初の思いを失わずにいられるのだと思う。


「貴方たちは本当にいいパーティ。だからこれからも頑張って、私も応援してるから」


 凛さんはそう言ってこの場を離れようとする。


「待ってください!」


 俺は慌てて呼び止めた。


「これから先、俺たちは世界最強のパーティとして進まなければなりません。いつからかサタンが踏み外してしまった道を」


「そうね。でも貴方がいるのなら、いつまでもその想いを失わずにまっすぐ進めるはず」


「それは買い被りすぎです、どうすればいいかなんて何もわかりません。だから凛さんの力が必要なんです。一度道を間違えたからこそ正しい道がわかるはず、俺たちをそこに導いてください」


 凛さんは一度過ちを犯してしまったからこそ、俺たちと共に行く資格は無いと思っている。

 でもそんなことはない。

 むしろ間違えたからこそわかること、できることだってたくさんあるはずだ。

 そんな凛さんの力が俺たちには必要なのだ。


「そして、万が一にも俺が世界最強の称号に、その欲に溺れそうになった時は止めてください。それができるのは、世界最強と呼ばれる凛さんだけですから」


 俺は少しだけ冗談めかして言う。

 すると凛さんも少しだけ笑いながら言った。


「だったら、今のうちに止めるべきなのかしら」


 そして手にした槍を高々と掲げる。


「ま、待ってください!冗談ですから!」


 それを振り下ろされたらたまったものではない。  

 俺は両手を前に突き出して大慌てでそれを制する。


「私も冗談よ。でも、さっきの言葉は本気なのね」


 面白そうに笑っていた凛さんは、真面目な顔をしてそう問いかけてきた。

 当然俺も真剣にそれに答える。


「はい。これから先世界最強のパーティとしてたくさんの人を救っていくためにも、凛さんの力は間違いなく必要です。だから、どうか俺たちと一緒に来てください」


 俺は彼女に向けて手を伸ばす。

 すると凛さんは少しだけ迷ったような様子を見せながらも、その手を取ってくれた。


「本当に、こんな私でいいのね?」


「凛さんで良いんじゃない、凛さんが良いんです」


「わかった。なら私は貴方たちと共に、今度こそ正しい道を進む。そしてその行方を阻むものは、必ず私が取り除いてみせる」


 凛さんは決意のこもった眼差しでそう宣言し、俺の手を強く握り返した。

 

「ありがとうございます、そしてこれからよろしくお願いします」


「凛さんが仲間になったら百人力だね!」


「うん、これは本当に世界最強かも⭐︎」


 こうして俺たちとサタンとの勝負は幕を閉じた。

 そしてサタンから世界最強パーティの称号を引き継ぎ、世界最強の人類と呼ばれるべるふぇこと木平凛が新たに仲間に加わったのであった。

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