第30話 vs 七つの大罪 ①

 事前に言った通り10秒後、ユナとルナも魔法陣を通って合流した。


「コレでいいんだよね?」


「ああ、少し先に周りの様子を確認してたんだ」


「ありがとう♡それでどうだったの?」


「少しモンスターはいたけど問題なしだ」


「少し……?」


 ユナは周りに落ちた魔石や素材を見渡し、俺の方をじっと見つめる。


「コレ全部ニル一人でやったの?」


「はは、せっかくの勝負だ。ちょっとはしゃぎすぎたかも」


「これは私たちも負けてられないね⭐︎」


「そうだね!よし、それじゃあ行こう……寒いけど」


「待ってて、私が♪……って、あれ?」


 ルナは手のひらを上に向けたまま首を傾げる。


「どうかしたのか?」


「なんでだろ、魔法が出ない……★」


「大丈夫?待って、私もそうかも」


 二人は自分の手を見つめながら困惑の表情を浮かべる。

 

「わかった、魔力が封じられてる」


 そう言ってユナは自分の手の甲に刻まれたマークを指差した。


「どういうことだ?」


「ダンジョンの罠があったみたい、コレじゃ時間が経つまで魔法が使えないよ」


「大ピンチかも★」


 なるほど、そう言うことか。

 どうやら俺を含めて魔封じの罠にかかってしまったらしい、十中八九ダンジョンのそれではなく『七つの大罪』の誰かが仕掛けた罠だが。

 

「俺も知らないうちにかかってたってわけだ、これは幸先が悪いな」


 最初から戦闘になると踏んで、魔法陣に突入する前に剣を創造しておいたのが功を奏した。

 一度実体化させておけば魔力を封じられてもコレが消えることはない。

 しばらく新しい剣は出せないが、このティルヴィングが使えるなら十分だ。


「しばらく俺が戦う、二人は注意してきてくれ」


「ごめんね、いきなり足引っ張っちゃって」


「俺だって気が付かなかったんだ、コレはみんなの責任だ。その分二人は周りのモンスターに集中してくれ」


「りょーかい♫」


 本当にどこまでも卑劣な奴らだ。

 もしもこれで俺たちが魔法を使えないままモンスターと遭遇すれば、死んでいてもおかしくない。

 そんな放送事故を起こす危険を抱えてでも、俺たちに勝とうとしているのだろうか。


 いや、違う。

 魔法が使えないことに気づけばこの魔法陣で入り口に帰れる、その後しばらく待機すればいいだけだ。

 奴らは移動と同時に俺たちの魔法を封じ、モンスターの巣の中に連れて行くことでいきなり戦闘に直面させ、強制的に入り口で待機させようとしていたのだ。


 あらゆる姑息な手を使い、用意周到に罠を張り巡らせつつ、頭も切れる。

 この戦いは思った以上に大変なものになりそうだ。

 

「ホント寒いね」


「うん、周りも氷だらけでツルツルだよ♪」


「勝負じゃなきゃ少し遊んでたのにな」


 勝負のためにこの場を選ぶあたりも本当によく考えている。

 きっと俺の配信を見返して研究してきたのだろう。

 このダンジョンはあまりに冷たすぎる、あらゆる水が凍りつくくらいには。

 

 つまり例え魔力が回復しても、ここではアロンダイトは使えない。

 あれはあくまでも水を操る能力、氷は能力の範囲外なのだ。

 この場所を選択してきた時点でこちらの武器の一つを制限しにきている。


「魔法は使えないし、この足で先を急ぐしかないな」


「そうだね、急ごっか」


「どっちに行きたいとかあるか?」


「さっきは左だったし、今度は右で♫」


 『静寂の氷河』の名が示す通り、視界一面は白銀の世界。

 周囲から聞こえる音は一つもなく、俺たちが氷を踏み締める音だけが響く。


 その分モンスターが接近してくるのもわかりやすい。


「モンスター!まだ魔法が使えないのに★」


「二人はそこにいてくれ、ここはまかせろ!」


 魔法を中心とした戦闘をする二人は、あの罠の効力が切れるまではしばらくまともに戦えない。

 ここは俺一人でやる。

 俺も罠の効果で魔力は使えないが、このティルヴィングもただの剣ではない、並のEランクモンスターならば軽々両断できる。


「大丈夫なの⁉︎ニルだって魔力は封じられてるんでしょ!」


「俺を、舐めるな!」


 近くにいた二体のモンスターを連続で斬りふせる。


 奴らは魔力さえ封じれば俺たちは何もできなくなり、スタート地点で待機せざるを得ないと思っていたのだろう。

 だとしたらそれはとんだ間違いだ。

 こっちは5年以上一人で『龍の巣窟』に潜り続けていたのだ、これよりもっとたくさんの罠にかかったことも、窮地に追い込まれたこともある。


 その状況を俺は一人で切り抜けてきた、たかが魔力を封じられるくらいなんてことはない。


「魔法が使えなくたってこの程度!」


 俺はさらに拾い上げたモンスターの牙を指の間に挟むと、それを少し離れた位置にいる個体の眼球に向かって撃ち込む。

 目をやられたヤツは悲鳴をあげて動きを止める、あとは首を斬って終わりだ。


 魔法以外にも戦いようはいくらでもある、ましてティルヴィングがあるならさほど大した問題ではない。


「す、すごい……」


「あっ、効果が切れた。魔法が使えるようになったよ☆」


「本当だな。よし、先を急ごう、こっからが本番だ」


「じゃあ私に捕まって♬」


 魔力が復活した俺たちは、ルナの肩に手を置く。

 そして彼女の魔法によって流星となり、ダンジョンの奥まで一気に駆け抜けた。

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