第31話 vs 七つの大罪 ②

 ルナの魔法のおかげで、俺たちは一瞬にして次の階層へと繋がる階段に辿り着いた。


「よし、それじゃあ次に進──」


 奥へ進もうと足を踏み出したその時であった。

 すぐそこにあったはずの階段が突如として消えてしまった。

 今視界にあるのは白銀の氷のみ、それ以外のものは影も形もない。


「階段が消えた……?」


「蜃気楼か幻覚かな♫」


「さすがはEランクダンジョンって感じだな」


 本当にさすがと言わざるを得ない、奴らの執念には。

 転移魔法をモンスターの巣に繋げ、そこに魔力封じの罠を仕掛け、幻覚魔法で偽の階段を作り出している。


 さらにここに足を踏み入れた瞬間、周囲のモンスターを引き寄せるようにもしてある。

 本来これは危機に陥った時にモンスターの注意を逸らすために使う魔法なのだが、それを幻覚魔法と同時に仕掛けて罠に転用したらしい。


 勝負が行われることが決まってから、何度もこのダンジョンを訪れて罠を仕掛けたのだろう。

 面倒だっただろうによくやったものだ、ここまで来ると感心すらしてしまう。


「今度は私たちも戦えるよ!」


「ニルは休んでてもいいよ♡」


「休むつもりはないけどいくらかは任せるぞ」


 いくらでも罠を仕掛けてくるのは結構なのだが、あまり時間を取られるわけにはいかない。

 二人も戦えるようになったのだ、さっさと終わらせてしまおう。


「援護は頼んだ!」

 

 俺は敵陣深くに切り込んでいく。

 Eランクダンジョンであろうと、その辺のモンスターに手こずっているわけには行かない。

 俺たちの今日の敵はこのモンスターでもダンジョンのボスでもなく『七つの大罪』なのだから。


 とはいえ二人にも注意しておく必要がある。

 ここは前回挑んだ『希望のほとり』内部にできた未知のダンジョンと違い、正真正銘のEランク。

 出没するモンスターの強さやダンジョンそのものの危険性ももう一つ上、恐らく二人にはまだ少し早い。


 そう思っていたのだが。


「ユナ、後ろからもきてるよ☆」


「肆の秘剣──」


「私に任せて!」


 援護のためにフラガラッハを出そうとしたその時だった。

 ユナが引き絞る矢の先に込められている魔力が、これまで見てきたものよりもずっと強い。

 そうして放たれた矢は凍りついた地面に突き刺さると同時に、強烈な爆発を引き起こした。


 以前の彼女ではあんな攻撃はできなかったはず。

 今のは間違いなくEランク相当の一撃。


「なに、今の……」


 どうやらユナ自身にとっても予想外だったらしく、驚いた様子で自分の両手を見つめている。


「次は私の番♫」


 続けてルナも両手に炎をまとう。

 ただその時点でわかる、彼女もまた大きく成長していることが。

 前回の戦闘がきっかけにでもなったのだろうか、ユナもルナも魔法の威力が桁違いに上昇している。


 これならもう前のように守りながら戦う必要はない。


「二人とも凄いな」


「ニルがそれを言うの?いつの間にか100体くらいいたのに全部倒して帰ってきてるし……」


「うーん、私たちもまだまだだね☆」


 二人の活躍もあって、予定よりも早くモンスターの群れを片付けることができた。

 ただ毎回罠にかかるたびにこの戦闘を強いられることになると、時間もかかる上に体力や魔力を取られる。

 何かいい方法はないだろうか。


「ニル、どうかしたの?」


「多分幻覚魔法の罠は他にもあると思うんだ。見破る方法を見つけない限り、きっと何度もこうして戦うことになる」


「正しい階段を見つけなきゃいけないってこと?」


「それはとりあえず次の階段を見つけてから考えよ♡」


「まあそれもそうか」


 確かにルナの言う通りここで考えても仕方がない。

 どちらにせよ俺たちは早く次の階に進まなければならない、ここで立ち止まっている暇はないだろう。


「じゃあまた私に」


「ああ……って、うお!」


 ルナの魔法で移動するために彼女に近づいたその時であった。

 俺は思わず足を滑らせ、地面に強く背中を打った。


「大丈夫⁉︎」


「ああ、滑っただけ。痛て……」


 さっきまで戦っている最中はなんともなかったのに、なぜ急に足を滑らせてしまったのだろう。

 まだ痛む背中に手を当てた時にその答えに気づく。


「濡れてる?そうか」


 原因は先ほどのルナの魔法だ。

 彼女の火炎魔法が地面の氷を溶かし、表面が中途半端に液化したために滑りやすくなったのだ。

 そのせいで痛い目を見たが、同時に大きなヒントも与えてくれた。


「わかったぞ、次の階に行く方法が」


「見破る方法を見つけたの?」


「いや、そんな必要はない」


 これこそ怪我の功名、というやつだろう。

 次の階層、いや、最下層に行くために俺は一つの剣を創造する。


「伍の秘剣・剛剣ヴァルムンク」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「第八階層、ここが最下層なのね」


 そう言って先頭に立ち、槍を構えるべるふぇ。

 彼らの視線の先には、このダンジョンのボスと思われる氷を纏う巨大な龍が立ちはだかっていた。


「俺たちの方が先に来たみてぇだな。よし、このままアイツをぶっ倒して勝っちまおうぜ!」


 サタンの号令で他のメンバーも構える、その時だった。


「な、なんだ⁉︎」


 突然大きな衝撃音が響き渡った、かと思うと天井に張った分厚い氷の層に亀裂が走る。

 そしてこれまで何があっても壊れなかった氷が割れた。


 そこから落ちてきたのは三つの人影。


「完璧!着いたみたいだよ☆」


「あー、びっくりした」


「ちょっと遅れたけど間に合ったようだな」


 それはこの場にいるはずのない人物であった。


「なっ、なんで……!」


「勝負はこっからだぜ、サタンさん」

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