第29話 戦いの幕開け
「二人ともごめん、こんなことに巻き込んで」
「謝らないで。ニルの話を聞いて私だって怒ってるんだから!」
「この勝負、絶対に負けられないね♡」
日曜日、俺たちは決戦の日を迎えていた。
ユナとルナもこの場にいる、サタンとの間に起きたことを話すと進んで参加してくれた。
Eランクダンジョンに行くとわかっていながら協力してくれた、それは申し訳なくもあり、すごく嬉しくもあった。
そうして彼らとの、『七つの大罪』との勝負が実現した。
俺たちは今、Eランクダンジョン『静寂の氷河』に来ている。
「お、向こうの三人も到着したみたいだ!」
あらゆる本性を裏に隠した偽りの笑顔を浮かべ、配信を始めているサタンはそう言った。
ただちらりとコチラを見た時、その目には邪悪さが宿っている。
今はそれに対してどうすることもできない。
俺たちとサタン、どちらの発言の方が視聴者に受け入れられるかなんて考えるまでもない。
例え俺が今ここで先日起きたことを暴露したとしても、妄言を吐いているとしか思われないだろう。
今は正面からこの勝負に乗っかり、その上で勝つしかない。
「初めまして、ニルです。今日はよろしくお願いします」
俺は笑顔を浮かべて彼らに挨拶する。
「事前の告知通り、今日は俺たち『七つの大罪』と『ニルチーム』でEランクダンジョン『静寂の氷河』をどちらが先に攻略するかの勝負だ!」
話題性は十分、既にサタンの配信には100万人を軽く越す視聴者がいる。
これだけの人数の前で俺たちに勝ち、自分たちこそが最強だということを改めて証明する。
それこそが奴の望み。
まあ実際にはそれだけでは終わらないだろう。
間違いなく勝負が終わって配信を切った後、奴らは物理的に潰しにくる。
再び配信で活躍を重ね、『やはりニル達も最強なのではないか』なんて思う人が現れないように。
この場で強制的に引退まで追い込もうとするはずだ。
だからこそ絶対に負けられない。
「勝負の最中は両者の視点を同時に配信するぜ。それじゃあニルも始めてくれ!」
俺も配信を開始する。
するとすぐにこちらにも30万人近い接続があった。
これはピンチではなくチャンス、この状況で俺たちが完膚なきまでに勝てば、奴の目論見と真逆のことが起きる。
ただ一つ気がかりなのは凛さんの存在。
あの時彼女が居なかったのは、たまたま予定がつかなかったという可能性もある。
だがここまで用意周到に俺を追い詰めようとしているのを見る限り、恐らくは違う。
もし凛さんもサタンと同じならあの時点で七人で俺を取り囲み、物理的に潰しに来ていたはずだ、でもサタンはそうしなかった。
それに凛さんは配信以外ではあまり集まらない、と話していたことも気になる。
考えにくい話ではあるが、残り六人は凛さんに対して本性を隠している、という可能性も捨てきれない。
彼女の立ち位置次第で今日俺が取るべき行動は変わってくる。
ただ一つハッキリしているのは、彼女込みの『七つの大罪』相手にこの勝負で勝たない限り、俺たちには未来がないということ。
「今日はお手柔らかにお願いします」
俺はそう言いながら凛さんの目を見る。
あの時と同じだ、すごく透き通った目。
もちろんそれだけでは信用できない、現にサタンはその本性を完全に隠していた。
結局何もわからない。
ただ凛さんがサタン側であるにしろ、本性に気づいていないにしろ、この勝負には全力でくるだろう。
ならば俺もハナから全力で行くしかない。
相手は俺と同等の実力を持つ凛さんを中心に、Eランク以上が七人揃った最強集団なのだから。
「それじゃあ早速始めようか。ここにスタート地点用に二つの転移魔法陣がある、好きな方を選んでくれ」
「どっちがいいとかあるか?」
「えっ?私はどっちでもいいけど」
「じゃあ左がいいかな、なんとなく☆」
「左の方な、じゃあ俺たちは右だ」
俺たちはそれぞれ選んだ魔法陣の前に並び立つ。
「時間は無制限、先にダンジョンを攻略したチームの勝ちだ。準備はいいか?」
「ああ、いつでも」
勝負が始まる直前、俺は深く息を吐く。
そして右手に意識を集中させた。
「よし!それじゃあ勝負開始だ!」
色々なものをかけた戦いが幕を開けた。
開始と同時に『七つの大罪』は魔法陣の中に飛び込んでいく。
「よし、私たちも行こ!」
「いや、先に俺が行く。二人は10秒後に来てくれ」
「え、どうかしたの?」
「悪い、理由を話してる時間はない」
「わかった、10秒後だね♡」
俺は剣を創造しながら魔法陣の中に飛び込む。
周辺の景色が変わって移動したその先で俺が見たものは、周囲を取り囲むモンスターの群れだった。
「運が悪いな、まさか偶然魔法陣をモンスターに囲まれてるなんて」
俺はカメラに向かってそう呟く、もちろん嘘だ。
恐らくこれはサタンの罠、どちらを選んだところで俺たちの魔法陣はここに、Eランクダンジョンのモンスターの巣の中に繋がるようにしていたのだ。
あれだけ醜悪な本性を見せられれば、少しは考えもわかるようになってきた。
奴らの卑劣な罠はせいぜい利用させてもらおう。
あらゆる不幸が降りかかった上で俺たちが勝った、それほどまでに圧倒的に強かったのだと証明してみせる。
ざっと見渡した感じ、周囲にはEランクモンスターが30体。
10秒と言っておいてよかった、それだけあれば十分だ。
「弍の秘剣・魔剣ティルヴィング」
俺は手の中の剣を強く握りしめ、近くにいたモンスターへと斬りかかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、ここがどこかは俺もわからねぇ。とりあえず最下層への道を探すとこから始めようか」
その頃、サタンたちの行き先にモンスターはおらず、彼らはダンジョン内の探索を始めていた。
「ねえ、サタン」
早速走り出そうとする一行、だがべるふぇがそれを止めた。
「なぜニルはこの勝負を受けたの?やるならコラボがいい、そう言っていたはず」
「あの後やり取りしてたな、結局これが一番盛り上がるって話になったんだよ。俺たち二人で協力してリスナーを楽しませようって言ったらよ、ニルも快諾してくれたんだ」
「そうなの?」
「ああ、やっぱ配信者は周りを楽しませてナンボだろ。それにコレやったら今よりずっと人気も出るぞつったら向こうもやる気になってくれたぜ。あ、今のオフレコで!」
サタンはカメラに向けておちゃらけて笑う。
それを聞いたべるふぇは静かに「そう……」とだけ答えた。
「とりあえずせっかく始まった勝負なんだ。思い切り楽しんで、最後は俺らが勝とうぜ!なんたって世界最強パーティ『七つの大罪』なんだからよ!」
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