第23話 急転直下

 何を言っているんだ、この男は。

 俺に連絡する?今このタイミングで?


 なんの冗談かと思ったがどうやら本気らしく、配信上ではスマホをいじる姿が映っている。

 こんなのどう対応したらいいかなんてわかるはずもない、俺は助けを求めるべく歩夢さんに電話をかける。

 向こうも休日のはずなのに、2コールで出てくれた。


「悠真くん、見てるわよ。大変そうねー」


 開口一番、歩夢さんはそう言った。

 面白そうに笑う姿が用意に想像できてしまう。


「笑い事じゃないですよ、どうしたらいいですか?」


「んー、そうね。まずウチは外部とのコラボは何も規制していないわ、だからやるもやらないも悠真くんが決めていいんだけど……」


「断ったらマズイですよね」


「批判されるとかはないでしょうけど、ガッカリする声は多いでしょうね」


 それはいろいろな反応を見ても容易にわかる。

 なんならもうコラボするのは確定事項として考えている人も多い。


「ただ、もしやるなら配信外で一回会ってから、というのもありよ」


「配信はしなくていいんですか?」


「したくないでしょ?」


「まあ、こんな急にするのは無理ですね」


 正直に答えると歩夢さんは笑う。

 相手が普通の配信者ならまだしも、日本で一番知名度があるのだ。

 いくらなんでも今いきなり連絡が来て、じゃあ配信をやりましょうなんて決断ができるはずもない。

 

「だから『緊張するので配信する前に一度会っておきたいです』って言えばどう?コラボに前向きな姿勢は見せられるし、すぐに配信をする必要もなくなるわよ」


「お茶を濁すってことですか?」


「そういうこと。まあこれだと悪い言い方をすれば問題を先延ばしにするだけ、いつかはコラボをすることになるわ。もちろん本当に嫌なら事務所側から何らかの理由をつけて断るわよ」


 まあ先延ばしになるかもしれないが、変に今断って反感を買うよりはいいだろう。

 なんて思っているとSNS『Z』の俺の公式アカウントに対し、DMが送られてきた。

 当然送り主は今配信をしているサタンの公式アカウント。


「ちょうど来ました、コラボのお誘い」


 何というか、想像以上に文面が軽い。

 俺だって別にお堅い文章を書いたことはないが、曲がりなりにも初対面の人に送る仕事の文面で、『マジで盛り上がると思うんですけど』なんて書くのが間違いなのはわかる。


「それで、どうするの?」


「正直苦手なタイプかなって思ったんですけど、まあ顔だけでも合わせてみます」


 文面だけで判断するのは良くない、実際会ってみないことには何もわからないだろう。

 それに向こうは日本一のダンジョン配信者、そんな相手とコラボできる機会をみすみす逃すのももったいない。


『わざわざお誘いいただきありがとうございます!ただいきなりは緊張するので、まずは配信外でお会いする形でも大丈夫でしょうか?』


 ひとまず歩夢さんのアドバイスを参考に返信しておく。


『おっ、もう返信来た!いきなり配信は緊張するから最初は配信外がいい、だってさ』


 俺の返信内容を知ったリスナーは、どちらかというと残念な反応の方が多い。

 それなら配信してくれたらいいのに、というコメントも多々見られる。


『まあ急に連絡して応じてくれるだけありがたいよな、そうと決まれば早速明日にでも会うかな』


「明日⁉︎」


 俺は届くわけがないと知りながらも、配信に向かって思わず叫んでしまう。

 連絡してきたのもそうだけど、幾らなんだって急すぎるだろう。

 一応明日も完全オフなので可能ではあるのだが。


「すごい行動力ね、さすが日本一の配信者ってところかしら」


「歩夢さん、明らかにこの状況を楽しんでますよね」


「ええ、すっごく」


「他人事だと思って……」


 本当に急すぎる。

 ただそれを断ってこの場で会う日程は決めることになるだろう、変に先延ばしにして他の予定がつっかえるのも面倒だ。

 俺は明日でも可能です、とだけ返信する。


『お、明日いけるってさ!』


 配信が一気に盛り上がる。

 これだけの人に期待されているとわかると、あまり悪い気はしない。


『明日他に誰か行ける奴いたかな、ちょっとグループで聞いてみるわ』


 他の誰か、とは『七つの大罪』のメンバーのことを指しているのだろう。

 ある意味誰か来てくれた方が嬉しいかもしれない。

 一対一だと喋ることがなくなって困りそうだし、向こうが数人いれば最悪勝手に向こうだけで話してくれそうだ。


『あっち側は他に来れるのかな。ほら、前のEランクダンジョンは3人で行ってたし』


「あら、由那にも声をかけておきましょうか?」


「大丈夫ですよ、今回は俺だけで何とかします」


 向こうはグループを組んで常日頃から活動しているかもしれないが、俺たちはあくまで前回一緒にコラボしただけ。

 休日にまでわざわざ付き合わせるのも申し訳ない。


『今回は一人だけかー、まあ急に決めた話だししょうがないな』


 今回来れるのは俺だけ、という旨を向こうに伝える。

 それからも向こうの雑談配信中に、あれよあれよと話が進んでいく。


 最終的には明日の午前11時に『龍の巣窟』の入り口で集合、ということで配信外で会うことが決まったのであった。

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