第57話 恐るべき敵

「『龍の巣窟』は私たちでなんとかするわ、悠真くんと真琴ちゃんはここで休んでて」


 意気揚々と『龍の巣窟』に乗り込む準備をしていたのだが、歩夢さんはそう言った。


「え、どうしてですか?」


「二人は『渾沌の領域』に行ってきたばかりでしょ?無茶はさせられないわ」


「俺はいけますよ」


 確かに真琴を追って『渾沌の領域』に行きはしたが、正直言って俺はほとんど何もしていない。

 ちょっとだけモンスターと戦ったくらいで、結局カオスも真琴一人で倒してしまった。

 俺はまだまだ戦えるのだが。


「だからこそ悠真くんにも残ってほしいのよ、そして真琴ちゃんを守ってあげて」


「そうですね、先輩がいてくれると心強いです。さすがにちょっと疲れたので……」


 真琴はかなり辛そうな顔をしていた。

 よくよく考えれば当然か、カオスは霜の巨人に匹敵するモンスター。

 それを一人で倒したのだ、勝利したとはいえ負担は大きいだろう。


 それに何よりカオスを倒してしまった以上、真琴もまたデミウルゴスに狙われることになる。

 三つのうち二つの封印が解け、かなり力を取り戻しているであろうデミウルゴスに。


「わかりました。それではそっちを……由那たちをお願いします」


「心配いらないわよ。私を誰だと思っているの?」


 部屋を出る直前。

 歩夢さんは不敵な笑みを浮かべて言った。


「これでも元世界最強よ?安心して待っていなさい」


 その姿はこの上なく頼もしく見えた。


「マネージャーだけじゃなくて私たちもいるからね!」


「きっと、倒してみせる……」


「必ず帰ってくる、待ってて」


 由那たちもそう言って歩夢さんに続く。

 ここは彼女たちを信じて待つとしよう、そして何も起きないことを祈っておこう。

 

「先輩、ありがとうございます」


 突然真琴はそう言った。


「急にどうしたんだ?」


「私、一人で戦うことになると思ってたんです。この世界には私の味方なんて一人もいませんし」


「歩夢さんは味方じゃないのか?」


「多分疑ってたと思います。急に空から降りてきて先輩の前に現れたら、デミウルゴスの刺客じゃないかって疑うのも当然ですよね」


「そうか、だから『渾沌の領域』に」


「そうしたら信じてもらえるかもしれませんし、そうでなくともデミウルゴスを倒すことが私の使命ですから」


 歩夢さんが適当な対応をしたのも、あんなに焦っていたのもわかった気がする。

 デミウルゴスが何らかの形で俺への接触を試みた、そう疑っていたのだろう。

 だが真琴が『渾沌の領域』へ単身で乗り込んだことで、外の世界から来た仲間だと気づいた。


 しかし一人であのダンジョンに乗り込むなんて無謀がすぎる、だからあんなに焦っていたのだ。

 結果的に真琴は想像よりも遥かに強く、一人で攻略してしまったわけだが。

 それは嬉しい誤算というやつだ。


「もしかして真琴ってめちゃめちゃ強いのか?」


「そうですね……一応外の世界で一番だと思いますよ」


「つまり現世界最強ってわけね」


 歩夢さんといい真琴といい、なんとも頼もしい限りだ。


「それはどうでしょうか。先輩の方が強いかも、ですね」


「まさか」


「昨日過去の配信見ましたよ?霜の巨人を一人で倒してましたよね」


「あれは、まあ条件が良かったというか」


「謙遜しないでください。これで少しだけ勝機が見えました」


「少し?これで?」


 俺は思わず耳を疑った。

 カオスを一人で倒してしまう真琴、かつて最強と言われた歩夢さん、この二人が加わってようやく少し勝ち目が見える程度だというのか。


「その力はダンジョンの外に及び、人々の記憶を操り、もう一つの世界を作り上げる……あれは規格外の存在です、自らを神と名乗ることが傲慢と言えないほどの」


 どうやら俺の認識が甘かったらしい。

 心のどこかでこれだけのメンバーが揃えば勝てるだろう、そう思っていた。

 だが真琴の話を聞く限り、今の俺ではまだまだ力不足のようだ。

 どうにか更なる力を身につけなければならない、そう拳を握りしめたその時だった。


「っ!先輩!」


「ああ、わかってる!」


 俺たちはほぼ同時に感じとった、身の怪我よだつような悍ましい感覚を。

 ふと窓の外を見ると、そこには時空の歪みが現れている。

 どうやらデミウルゴスが仕掛けてきたらしい。


「間違いなく狙いは俺たちだ、周りを巻き込む前に外に出よう!」


「はい!」


 このまま室内にいれば無関係の事務所の人たちにも被害が及ぶ。

 俺たちは外で敵を迎え撃つ。


「先輩、私も手伝います!」


「いや、真琴は休んでてくれ。ここは俺がなんとかする」


 二つ目の封印も解け、より力を取り戻したということだろうか。

 最初からEランクのモンスターが続々と姿を現す。

 だがこの程度難なく片付けなければならない、俺たちはこれよりずっと強大な相手に立ち向かおうとしているのだから。


「先輩らしいとこ、少しは見せないとな」


 ついでにデミウルゴスにも見せつけてやろう、俺たちは一筋縄ではいかないということ。


「肆の秘剣・操剣フラガラッハ……奥義・乾坤爛漫ノ刃」

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高校に通いながら探索者をしている俺がダンジョンで助けたのは、隣の席の有名美少女配信者でした〜ここって超難関ダンジョンだったんですか?〜 上洲燈 @viola-000

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